それから — 傷と選択
あの日々が終わっても、傷はすぐには癒えなかった。
夜が静まり返るたび、胸の奥のどこかで、
まだ誰かが泣いている気がした。
私はいつしか、男の人と関わることそのものを恐れるようになっていた。
些細な物音が過去の記憶を連れてきて、
夢の中で再生されるあの時間――
胸が締めつけられ、呼吸が浅くなる。
発作が訪れるたび、過去が今を侵食していくようだった。
それはフラッシュバックであり、パニックだった。
病名をつけるなら、鬱とか、パニック障害とか、
そう呼ばれるものだったのかもしれない。
けれど私は、ゆっくりと、時間をかけて自分と向き合い続けた。
幾年もの間、痛みは時折顔を出したが、少しずつその出方は穏やかになっていった。
幼なじみとの関係も、簡単には元どおりにならなかった。
高校を卒業するとき、私はメールで事件のことを綴り、謝意を送った。
「返信はいりません」と添えて。
成人式や同窓会で顔を合わせても、会話はぎこちなかった。
でも、私は一歩を踏み出した自分を認めた。
過去に屈しなかった証として。
時間は、人を変える。
五年ほど経ち、私はまた誰かを信じ、恋をすることができた。
(その恋は結局終わったが、それ自体が私の証だった。)
一時は復讐だけを胸に抱き、生きる目的に据えようとしたこともある。
けれど、憎しみは私を満たさなかった。
むしろ、憎しみに囚われる時間が無駄に思えた。
彼がどう生きようと、それに費やす時間はもうない。
私の復讐は、違う形をとった――
「最高に幸せになる」こと。
それは、自分を取り戻すための、最も静かで力強い反撃だった。
だから私は、自分の幸せのために生きると決めた。
もっと自分に正直に。
もっと自分を大切に。
強く、けれど優しく。
胸の奥で、静かに誓った。
傷は完全には消えないだろう。
だが、それを抱えながらも歩いていける自分がいる。
その事実が、いつの日か、誰かの光になれるかもしれない――
そう思いながら、私は前を向き、歩き出す。




