終わりと、はじまり
結局――母の言うとおり、
彼を法で裁くことはしなかった。
その選択が正しかったのか。
今でも答えは出ない。
ただ、あの頃の私はもう、
戦う力をどこかに置き忘れていたのだと思う。
後日、警察が彼の部屋に入り、
問題の写真をすべて確認し、削除を命じた。
それで、すべてが――終わった。
はずだった。
だが通報したことで、
逆恨みの危険があると告げられた。
家のまわりや学校の近くではパトロールが強化された。
また、
「ひとりで帰らないこと」
「細い道には入らないこと」
「夜道を歩かないこと」
と指導を受けた。
守られているのに、
心はずっと閉じ込められたままだった。
それでも、少しずつ世界は静けさを取り戻していく。
けれど、残ったものはほとんどなかった。
かすかに残ったのは、
見えない心の傷と、
ひとつの“夢”だけ。
どれくらいで癒えるのかも、
どうすれば忘れられるのかもわからなかった。
それでも前を向こう、と小さく決めた。
あの日、私を救ってくれた警察官の背中を思い出す。
堅いと思っていた制服の中に、
意外なほどのあたたかさがあった。
――ああ、私もこんなふうに誰かを守りたい。
――この痛みを、誰かの光に変えたい。
その想いが芽吹いた瞬間、
胸の奥で小さく灯がともった。
警察官になりたい。
あのときの私のように、
孤独の闇で助けを求めている誰かを、
もう二度とひとりにしないために。
いつか――生活安全課で。
あの優しい人たちのように、
静かに寄り添える存在になりたい。
そう思えた時、
ようやく本当の意味で、
“終わり”が“始まり”に変わった気がした。




