彼との出会い
私と彼が出会ったのは、高校一年生の春だった。
桜が満開の季節、と言えたら少しはロマンチックだったかもしれない。
けれど実際には、花びらはすっかり散りきり、校門の脇に残った枝に葉桜がちらほら光を浴びていた。
新しい制服にまだ慣れない私は、そんな緑をぼんやり眺めながら、朝の通学路を歩いていた。
心の中には、期待よりも少しの緊張と、知らない日々への不安が混ざっていた。
当時は、まだLINEのような便利なSNSもなく、メールが主な連絡手段だった。
そんなある日、小学校のころからの友人からメールが届いた。
「ねえ、○○ちゃんのアドレス知らん?」
私は答えた。「ごめん、わからん」
すると、すぐにまた返事が来た。
「じゃあ、アドレス知りたい人おる?」
入学したばかりで、顔も名前も一致しないクラスメイトばかりだった。
「いないけど、たくさん友達できたらいいね」
そう返すと、友達は4人分のメールアドレスを送ってきた。
その中のひとりが――彼だった。
出会いというものは、たいていそんなものだ。
漫画のように運命的でも、ドラマのように胸が高鳴る瞬間でもない。
ただの、ささやかで何気ない一通のメール。
けれど、その一通こそが、
のちに長くて苦しい物語の扉を、静かに、確かに開いたのだった。




