告げられる前夜
「親御さんには、こちらから事情を伝えます。
その後で、二人で警察署に行くようにしてください。」
そう言われた時、私はうなずくしかなかった。
心の中では、不安と恐怖がぐちゃぐちゃに混ざり合い、
冷たい渦のように息を締めつけていた。
――もう止められない。
――もう、隠せない。
家に帰る道すがら、足が重く、何度も立ち止まった。
「今日、話されるのかな」「どんな顔で聞くんだろう」
考えれば考えるほど、息が浅くなっていく。
玄関のドアノブを握る手が震えていた。
けれど、母はいつも通りだった。
何も話されないまま、夜が静かに更けていった。
布団の中で目を閉じても、眠れない。
時計の針の音が、やけに耳についた。
“明日こそ、知られてしまうかもしれない。”
そんな不安に押しつぶされながら、夜が終わるのをただ待った。
翌朝、担任が心配そうに声をかけてきた。
「昨日、どうだった?」
私は小さく首を振った。
「……まだ、何も話してません。」
担任は短く「そうか」と答え、
静かに息を吐いた。
その後、先生が相談機関に確認してくれた。
「まだお母さんと連絡が取れていないらしい。」
少しの安堵と、延びてしまった恐怖。
どちらが大きいのか、自分でもわからなかった。
放課後、担任に呼び止められた。
「KIKU、連絡ついたみたいだ。
お母さん、仕事の関係で先に警察署に行ってる。
帰る準備をして、保健の先生と行っておいで。」
その言葉を聞いた瞬間、足元がふらついた。
「……はい。」
声はかすれていた。
部活を休むことを伝えようとしたとき、
担任は先に言った。
「顧問の先生には話してある。
どうして休むのかまでは言ってないから、安心していい。」
その優しさに、胸がじんと熱くなった。
部活の顧問もまた、
「無理するな。まずは、目の前のことをきちんと片付けてこい」
そう言ってくれた。
――誰かが、自分の味方でいてくれる。
そのことが、たまらなく嬉しかった。
警察署へ向かう直前、担任が背中を軽く叩いた。
「……ちゃんと、自分の気持ち、話してこい。」
短い言葉だった。
けれど、その一言が、
これまでの重たい日々を少しだけ軽くしてくれた。
私はうなずき、
震える足で、警察署への道を歩き出した。




