光に溶ける孤独
その日の授業中、
黒板の文字が、滲んで見えた。
ストレスで、胃の奥がぎゅうっと締めつけられる。
息を吸うたび、痛みが波のように押し寄せ、
冷たい汗が背中を伝った。
平気を装うのが、もう限界だった。
そのとき、隣の席の子が小さな声で言った。
「……大丈夫?」
たった一言。
その声が、張りつめていた心の糸をぷつんと切った。
嬉しくて、そして、情けなかった。
こらえていた涙が頬を伝い、
私は震える声で「大丈夫」とだけ答えた。
授業が終わると、
私は保健室へ行く決意をした。
職員室でカードを受け取ろうとしたとき、
担任の先生が私に気づいた。
少し驚いたような顔をして、
静かに尋ねた。
「……何か、悩みでもあるとか?」
たったそれだけの言葉なのに、
どれだけ待っていたんだろう。
“気づいてもらえる”という瞬間を。
涙がこぼれそうになるのをこらえながら、
私は小さく首を振った。
先生は、少し考えたあとで言った。
「……俺に言いにくいことなら、
保健の先生にでも話せよ。」
その声が、
冷えきっていた心に小さな灯をともした。
保健室は、午後の光に満たされていた。
白いシーツがまぶしいほどきれいで、
その清潔さが胸を締めつけた。
私は、促されるままベッドの端に腰を下ろし、
少しずつ、少しずつ、話し始めた。
束縛のこと。
暴力のこと。
無理やり求められたこと。
怖くて、逃げられなかったこと。
言葉を重ねるたび、
心の奥に溜め込んできた泥のようなものが、
ゆっくりと溶けていく気がした。
保健の先生は、最後まで黙って聞いてくれた。
途中で何度も私の目を見て、
ただ静かに頷いてくれた。
話し終えたあと、先生は小さく息を吐いて言った。
「……よく、話してくれたね。」
その言葉に、
涙があふれた。
後日、保健の先生を通して担任にもすべてが伝えられた。
もう隠せなかった。
もう、一人では抱えきれなかった。
ようやく――
ようやく、私の“助けて”が、誰かに届いた気がした。




