孤独の中で、生まれた自由
そして、いつしか――
唯一の拠り所だった彼は、学校へ来なくなった。
「不登校。」
その三文字が、どこか遠い世界の言葉のように耳に届いた。
あれだけの騒動のあと、
誰も、もう私に関わろうとはしなかった。
廊下で目が合えば、すぐに逸らされる。
名前を呼ばれることもなくなった。
「きっと、陰でいろいろ言われてるんだろうな……」
そう思うと、怖くて、誰かに話しかけることもできなかった。
教室のざわめきの中で、
自分だけが無音の水槽の中にいるようだった。
声を出しても、誰にも届かない。
そんな日々が続いた。
それでも――
そんな私に、ある日、ひとりのクラスメイトが声をかけてくれた。
何気ない一言。けれど、その声には、あたたかさがあった。
その瞬間、胸の奥で何かがほどけた気がした。
あぁ、まだ、誰かとやり直せるのかもしれない。
そう思えたのは、あの時が初めてだった。
私は、長い間閉じ込めてきた“過去”と向き合う決意をした。
彼を優先するあまり、
自然と離れてしまった幼なじみ。
互いに気まずさだけを残して、
いつしか挨拶もなくなっていた。
――あの関係を、取り戻したい。
「ごめんね。」
勇気を出して伝えた言葉は、思ったよりも震えていた。
本当は“束縛されていた”なんて
言い訳にしたくなくて言えなかった。
それでも、心からそう思っていた。
「また、前みたいに戻りたい。」
返ってきたのは、短い「わかった」の一言。
その声には、温度がなかった。
距離は、思ったよりも深く、遠かった。
一方で、彼の不登校は長引いた。
やがて進級すら危ぶまれるほどになり、
私は担任と学年主任から呼び出された。
「どうして彼は来ないのか。」
「何か知っていることはないか。」
「登校するよう、説得してほしい。」
私は俯いたまま、静かに答えた。
「……何も知りません。来るように言ってみます。」
けれど、心の奥では違う声が響いていた。
――やっと自由になれたのに。
――もう縛られたくない。
――もう戻りたくない。
彼のいない教室。
誰の目にも見張られない日々。
そのわずかな“静けさ”こそ、
私にとっての初めての自由だった。
だから私は、彼には何も言わなかった。
何も伝えず、ただ、彼のいない時間を静かに過ごした。
その沈黙こそが――
私が初めて選んだ、「自分のための選択」だった。




