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3 心の声に導かれれば

今日、つまり5月27日も学校は臨時休校だった。


日増しに気温が上がり、春の陽気が夏の灼熱へと変わっていく季節。


まだ、暦の上では春だし、これから梅雨も来るのだけれど…いや、春だからこそ、梅雨さえもまだ来ていないからこそ、夏を思って憂鬱になるこの季節。


ぼくは夏が嫌いだ。


大っ嫌いだ。


冬も好きじゃない。


寒いのも暑いのも嫌いだ。


快適が一番だ。


けれど、春もそんなに好きじゃない。


次に夏が来るからだ。


秋も好きではない。


冬の寒さを思うと陰鬱な気持ちになる。


だから、ぼくは四季が嫌いだ。


日本人の心がどうのとか知らないよ。


とりあえず、そんな季節の今日、休校はついに3日目に突入した。


リビングで適当にテレビをザッピング。


ぐだぐだとソファーに倒れ込んで、無為な時間をだらだらと過ごす。


……暇だ


キッチンの方では母親が皿洗いかなにかをしている。


テレビはどのチャンネルでもあの『声』の話題で持ち切りだった。


そして、時々何かのついでにこの町の紹介も挟まれる。


それにしても、暇だし、平穏だ。


もっと何かあってもいいんじゃないかっていうもどかしさ。


今、ぼくの目に映っている世界だけを切り取って見たら、『声』の前との違いなんてどこにもない。


唯一、テレビが伝えてくる、驚きの能力を手に入れた人の紹介とか、殺傷性のある能力による大量殺人事件とか、死ぬための能力の発現によって死んでしまった人の数が増加しているとか、そういうニュースは世界の変化を如実に表していた。


けれど、それらはあくまでも、対岸の火事でしかないし、物質的に物理的に隔離されたぼく達の町には無関係な出来事でしかない。


「はー」


思わず、ため息。


非日常の連続はついに、日常の一部と化して、新鮮さも、予測不可能なわくわくも消えていった。


なんだか、能力まで消えてしまったような気がしてきたから、一回、瞬間移動。


目の前が一瞬真っ暗になったと思うと、家のトイレの風景が眼前に広がる。


広がるほど、広い場所じゃないけど……


ズボンはおろさず、そのまま椅子として便器に座ってみる。


能力は確かに消えてなかった。


けれど、それでなんだと言うのだろう?


ぼくはまだましだ。寝る能力なんてきっと何の役にも立たないし、面白くも何ともない。


ささやかなシアワセを感じれる人間にならなきゃいけないのかな。


面白い能力者探しをしてみようかとも思ったけれど、それは本格的にめんどくさいし、能力を聞くのは、その人の願望とか欲望とか願いとかを聞き出すような物だから、どうにも気が乗らない。


町内会か何かから外出を控えるようにって命令も出てるしな。


求めるのが良くないのかもしれない。別に非日常なことなんて起きていないんだ。いつも通りの日常の延長線上なだけ。


つまらないけれど……


便器から立ち上がり、ぼくは学生としての本分、勉強をするかと自室に足を運ぶ。


——その時だった


『来て』


あの日と同じような、心に直接語りかけられたような感覚。


幼そうな女の子の声。


ぼくは気分が高揚した。


何かが始まる。日常でない何か。非日常の何かが、始まると確信した。


何だろう? きっと、テレパシーみたいな能力だけど……


なんで、ぼくを呼んでいるんだろう?


疑問はつきないけれど、今はそんなこと考えている場合じゃない。


早く、行かなきゃ。


…………どこへ?


落胆した。


「来て」って言われてもね、どこか場所教えてくれなきゃわからないでしょ。


——『ここ』


頭の中に場所のイメージが直接流入。


ぼく達の学校だった。


なんか、いいじゃないか。


また、ぼくはわくわくしてきた。


今すぐ行くよ、伝わるかは知らないけれど、とりあえずそうやって念じておく。


5分後、ぼくは期待に胸を膨らませながら外に出た。


午後5時の静かな町。


時間短縮のために、トイレ瞬間移動の術を使ってみることにした。


初日に実験してみてちょっとわかっていたことがある。


一番近いトイレにしか移動できないと思っていたけれど、実は半径50メートル以内のトイレなら頑張って、念じてみることで、好きなトイレに行けるっぽいのだ。


今思いついたのだけれど、これを応用すれば、50メートルごとのトイレを順々に移動すれば、超高速移動が可能になるはずだ。


トイレがないと使えないという条件付きだけれど、これってもしかして普通にどこにでも瞬間移動できるような物じゃないか?


昨日までのぼくは馬鹿だった。こんなことも思いつかないなんてほんと馬鹿だった。


そして、こんなこと思いついちゃうぼくって天才的だなと思う。


他人の家のトイレを経由することになるけど、なんか能力者的に緊急事態みたいな感じだし、仕方ないよね?


緊急事態なんだもん。


心の中で、「トイレ超高速移動術」と唱えて、まずは50メートル先のトイレに移動する。


10分後、私立風宮高校の一階男子トイレに一人の男が突如、出現した。ぼくだ。


できる限り、颯爽とした感じになるようにトイレから出る。


颯爽とトイレから現れる超能力者!


かっこいい……のかな?


微妙だよな……


首を傾げる。


刹那、背後から何かひどく固いもので殴られたようで、視界が真っ赤に染まる。


意識がそこでプツリと途切れた。

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