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14 いつの間にか異世界に来ていた

心が安らぐような音楽と、美味しそうな朝食の匂いで目がさめた。


ふかふかのベットに、ちょうどいい硬さの枕。まるで王様にでもなったような気分で目を開くと、ちょうどロールちゃんが朝食を運んで来ているところだった。


青髪のメイドさんは、馴れた手つきでぼくの前に料理を並べる。


黙々と作業するロールちゃんは、ムスッとしてはいるけれど、さすがメイドという感じだった。


まるで魔法みたいに目の前に料理が現れていく。


料理の豪華さもさることながら、盛り付けられた銀の皿に施された彫刻が高級感を醸し出していた。


高級というか、普通に高級なのだろうけど……


昨日の夜、大広間で出されたディナーのフルコースと比べるとシンプルだが、無学のぼくから見ても手が込んでいるのがわかる。


昨日の夜シロちゃんに聞いた話によると、厨房には優秀な料理人がいるらしい。


メイドが微妙なのに比べてみると、料理人は優秀な人材らしい。


いや、実際に会ってみたら腕は良くても性格が最悪な料理人なのかもしれないけれどな……


「やよい様、朝食ですよっ!」


睨みつけるようにして、言い放つロールちゃん。


料理の配膳が終わったようだ。


一種芸術とも言えるその料理にぼくは目を見開く。


「ありがとう」


ぼくが言い終わるか終わらないかという内に、ロールちゃんは扉から出ていってしまった。


なんだか、本当にメイドとしてこれはどうなの?


仕事の出来はいいんだけどなぁ。


シロちゃんはロールちゃんこそがこの屋敷一番のメイドって言っていたけれど、あれで一番だとするなら、碌なメイドがいないんじゃないかと、心配になってしまう。


まあ、ぼくには関係ないのだけれど。


とりあえず食事に手をつけることにした。


それにしても、ベットに入ったまま食べるというのは、いかにも贅沢だ。


病院食でもないにもかかわらず、ベットの上に机のようなものを設置して、その上に並べられた高級料理。


レッドローズこと優梨奈ちゃんの家で出されたカップラーメンや菓子パンのことを思うと、この数日で料理界の両極端を経験しているような気になる。


満足、満足と頷いた。


美味しい料理に舌鼓を打った後、ぼくは屋敷の中を探検してみることを決めた。


明日まで王女様が帰って来ないというのなら、今日一日は自由時間ということなのだから、この非日常の中を歩き回ってみようということだ。


昨日は到着時刻がこちらの時間で夕方過ぎだったので、部屋に案内されてからちょっと休憩していたら、すぐにロールちゃんがディナーに呼びに来たのだ。


「ディナーだよっ!」


扉を開けてトゲトゲしい声でぼくのことを呼ぶと、扉をすぐに閉めた。


ぼくが慌てて外に出ると、腕組みをしたロールちゃんが待っていた。


「来ました」


ぼくがそう言うやいなや、なんの返事もなくズンズンと歩き始めた。


ついて来いと言うことなのだろう。


人見知りのメイドさんの対応は大変なのだと思いながら、青い髪の後ろについて行った。


再び廊下を右へ左へと進み、目当ての部屋に着いた。大広間だ。


そこで、いろいろな料理を出されたり、いろいろなメイドさんに自己紹介をされたのだが、出された飲み物がアルコール入りだったらしく、そこらへんの記憶が曖昧になってしまっている。


ちなみに、プリンプリン国に未成年者の飲酒禁止の法律とかはないようだ。


あと気づいたことなのだが、メイドさんばかりで執事っぽい人がいなかった。


あれ? 執事って女の人にも言うんだっけ?


まあとにかく、大広間にいた使用人はみんな女の人だった。


これはプリンプリン様のご趣味なのだろうか?


うん、可愛い子たちばかりで、男のぼくとしては嬉しい限りなのだが、ちょっと異様な気もした。


それはともかく、そんなこんなで初日をアレヨアレヨと言う間に過ごしてしまったわけで、今日こそは落ち着いて探検しようと言うわけだ。


そう思って部屋の扉を開くと、しかし、扉が途中で止まり、


ーーガン!


なんだか痛そうな音がした。


そして、


「ウッ……」


というなんとも辛そうな、必死にこらえたけれど思わず漏れてしまったような声が聞こえた。


嫌な予感がして、ゆっくりと扉を押すと、そこには頭を両手で押さえてうずくまるロールちゃんがいた。


あ、やっちゃったかもしれない……


「す、すみません。大丈夫ですか?」


ぼくが遠慮がちに聞くと、青い前髪の隙間から恨めしそうな瞳がのぞいた。


涙で潤んでいるような気もした。


「大丈夫です……」


痛みに耐えている悲痛な響きがこもっていたので、さすがのぼくも本当に悪いことをしたと思ってしゃがみこんだ。


「えっと、本当にすみません。まさか扉の前に立っているとは思わなくて……」


うずくまるロールちゃんの視線に合わせるようにして喋ったが、青髪の少女はぼくの目を見てくれない。


「いいんですっ! 聞き耳を立てていた私が悪いんですから!」


「そうは言っても、ぼくのせいで怪我しちゃったわけですし……」


ん? 何か聞き捨てならない言葉を言ったような?


「……聞き耳?」


ぼくがそう聞き返すと、メイドさんはみるみる目を大きくさせた。


そして、


「あっ」


と、しまったといった感じで声をあげた。


「もしかしてだけど、ぼくの部屋の音を盗み聞きしていたってことですか?」


「…………」


無言が答えだった。


……そうか、いや、いいんだ。


メイドなら客の一挙一動に気を配るべきだからな。


うん、仕事熱心なのだ。ロールちゃんは何たってこの屋敷一番のメイドらしいしね。


ぼくは気にしないことに決めて、こう言った。


「えっと、それじゃあぼくは、屋敷の中を見学させてもらいますね」


じゃあ、と言ってぼくが立ち去ろうとすると、服の袖が引っ張られた。


振り返ると、ぼくの袖を掴んで目を潤ませている美少女メイドがいた。


思わず生唾を呑み込む。


うん、この光景。なんか、アニメみたいだ……


「えっと……どうしたんですか?」


「お客様! あなた一人じゃ迷いますっ! 私が案内してあげます」


ぼくは何とも言えない感動のあまり、即座に案内をお願いした。




「こちらが武器庫です」


最初に案内されたのは、なぜだか知らないが地下にある巨大な武器庫だった。


普通、屋敷の案内で連れて行く場所といえば、庭園とか美術品が展示された部屋とかだろうに。


これは、ロールちゃんの感性が少しズレているせいなのだろうか?


それとも、この世界の常識なのだろうか?


「入ってみてもいいんですか?」


鉄製の扉の前に立ってぼくは尋ねた。


現代日本において、武器庫なんてそうそう見られるものじゃないしな。文句は言いつつも興味はある。


「ええ、どうぞ……」


なぜだか少しモジモジとしているようだが、メイドさんがいいと言うんだから問題はあるまい。


扉を開くと、魔法で自動的に光が灯り、整然と並べられた武器が一望できた。


多くの武器が原色だった。


赤い魔法のステッキ。青色の箒。黄色のナイフ。緑色のキラキラした剣。


ああ、そうだ。ファンタジーな異世界に来ていたんだと、思い知らされた。


目がチカチカしそうな武器の山に足を踏み入れる。


左右に並ぶ棚に、種類ごとに並べてあるようだ。


手前にはシンプルなデザインのステッキが並べておいてあった。


剣とか鎧とか、あるいは弓とか槍とかでもいいんだけど、そういったわかりやすい武器じゃないので、ぼくはなんとなく手に取ることができなかった。


キラキラと光るステッキ、木製の魔法の杖、なんかぼんやりと光っているレイピア。ゆっくり進んでいくと、いろいろな武器が所狭しと並んでいるのがわかる。


そして、一番奥の少し空いているスペースにあまりにも場違いな武器が置いてあることに気づいた。



ーーデザートイーグル



マグナム弾を発射できるように作られた自動拳銃。


あらゆるフィクションにおいて、尋常でない威力を持った銃として描かれる……


ぼくがなぜそれを知っているかというと、あるラノベの影響なのだが、まあそれはどうでもいい。


そんな無骨にして、露骨にして、場違いな銃がガラスケースの中に収められていた。


あと、銃の形を見ただけでわかったという勘違いをされると困るので言っておくと、きちんとネームプレートがついていたので、デザートイーグルなのだとわかったのだ。


可愛らしい文字で「でざあといいぐる」と書かれていたのだ。


しかし、なぜ、ここにそんな武器が?


そう疑問に思っていると、ぼくがデザートイーグルを見ているのに気づいたロールちゃんが、目を輝かせてその凶悪な銃の元に駆けて行った。








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