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10 魔法少女にマスコットキャラは必要かという命題

驚く僕をよそに扉は開ききられ、月の光を背にした”それ”は入ってきた。


そして、その小さな頭をぺこりと下げると、甲高い声で自己紹介を始めた。


「初めまして、俺はポワピィ。レッドローズの妖精さ!」


ウィンクをしてきた、その妖精は、いわゆるリスだった。真っ赤だけど。


「そう、この子がもう一人の仲間よ」


元気に言うレッドローズちゃんをよそにぼくは、


「はあ、ぼくは弥生ですが、あなたは何ですか?」


と至極平凡な質問を投げかけてみた。


「だから妖精だって言っているじゃないか?」


「いや、それじゃわからないって」


首をかしげるレットローズに、こいつ大丈夫かというふうな顔で見てくるポワピィ。


いやいや、え? ぼくの方がおかしいみたいなこの対応なんなんだよ!


これが普通の反応ですから!


突然現れた鮮烈な赤のリスが、「僕は妖精さ」とかいいだしてもねえ。


反応に困るよ。


そんな僕の葛藤をよそに、ポワピィとレッドローズはこそこそと(十分ぼくにも聞こえる声の大きさで)話していた。


「で、レッドローズ。何でこんなよくわからないやつ秘密基地に入れてんだ?」


「えっとね、このやよいくんがね、わたしたちが探してた能力者だったからよ」


「マジか! ついに見つけたのかよ、レッドローズ」


「そう、わたしも嬉しくてね。とりあえず作戦を立てるために上がってもらったの」


「ヒュー、お前も大胆になったな」


「うん、ありがとう」


どうも、ポワピィとか言うマスコットキャラは、可愛い感じに見えて、だいぶチャラいみたいだ。


特にレッドローズに対して。


「あの、それで、ポワピィさん。あなた何なの? 人間なの? リスなの? 生きてるの?」


「は?」


再び、怪訝な目で見てくる赤いリス。


だから、ぼくがおかしいのかよ!? 違うよね!?


しかし、今回はレッドローズちゃんが助けてくれた。


「あのね、ポワピィはね。わたしの力の源なの」


けれど、抽象的すぎて、意味がわからなかった。


「結局何なの? 魔法戦士に変身できるのは、ポワピィの魔法の力を借りて……みたいな事だとでもいいたいの?」


「そう、そう言うこと! やよいくんって理解が早いのね」


感心、感心というように頷くレッドローズこと山本さん。


適当なこと言っただけのつもりだったのにな。そんなに嬉しそうに言われると、訂正しづらい……


「で、お前」


鋭い目線で見つめてくるポワピィ。


そんな熱い目線で見られるとわたし……いけない、いけない。現実逃避はやめよう。


「何で、レッドローズの服が濡れてんだ」


怖っ!!


リスの目ってそんなに開くのね! びっくりした。目を剥いて睨まれるとすごく怖い。


え、もしかしてポワピィくんったら変な勘違いみたいなのしちゃってる?


仕方ないなー。ちゃんと説明してあげるか。


「いや、別に何でも無いですよ。ただ、二人でトイレに入った時に……」


「は」


「いや、二人でトイレに……」


「は」


「だから、二人でトイレに入って、レッドローズちゃんが床に寝た時に……」


「は、ていうかレッドローズちゃんとか馴れ馴れしく呼ぶな」


ポワピィくんは面白いくらいにキレていた。


よくわからないポケットから体の三倍くらいあるモーニングスターを取り出して、そのトゲトゲの球体を頭の上でくるくる回してさえいなければ、ぼくはポワピィくんの微笑ましい勘違いを笑っていたことだろう……


ブンブンブンと風を切る音が耳に響いて、ぼくは恐怖におののいた。


というか、そんな表現じゃあ、ぼくの行動を的確に表現できていない。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、本当に何にもしていないんです。レッドローズ様には何一つとしてやましいことなどしておりませんので、何卒お許しください」


地面に頭を打ち付けて、土下座をし続けた。


床を見つめるぼくの頭の上で、ブンブンという音は響き続けていた。


「ポワピィ? あのね、ポワピィが何を勘違いしてるかわからないけど。やよいくんはいい人だよ。その魔法のステッキはしまって。ちゃんと色々説明するから」


何だか、再びレッドローズちゃんが天使に見えてきた。恋に落ちそうだ。


でも、そのモーニングスターを魔法のステッキと呼ぶのは、少し無理があると思うんだ……


やっと恐怖の音が収まると、ぼくは恐る恐る顔を上げた。


腕を組んでいるポワピィは、怒っているように見えたが、激怒というよりはプンスカという、小動物キャラにちょうどいい程度の怒りに収まっていた。


「ポワピィさん。あのですね、つまりぼくはあなた方が欲しているところの瞬間移動能力者なんですよね」


「ああ、さっきレッドローズに聞いた」


「で、ですね。ぼくの瞬間移動でこの秘密基地まで来たわけなんですが」


「ふん、で、何でトイレに二人で入ることになるんだ。それにレッドローズを押し倒して……」


「いやいや、押し倒しては無いんですよ。いいから、話を聞いてください。つまりですね、ぼくの瞬間移動にはちょっとした制限があるんですよ」


ん? とポワピィは真剣な表情になった。


「トイレにしかいけないんです」


「は?」


今度は、口をまん丸に開けて驚きの顔をした。


ぼくはポワピィくんの百面相を面白いなぁと思いながら見ていた。


「トイレにしかいけないんです」


「それは、つまり。トイレにしかいけないということか?」


「だからトイレしか行けないって言ってるじゃないか?」


意趣返しのつもりで言ってやったが、ポワピィくんは考えることに忙しいようで、ぼくのささやかな皮肉には気づかない。


悲しい。


「そうか、そうなのか。いや待て、そうなるのか」


赤リスくんは、ウンウンと頭を抱えている。


「ちょっと待ってくれ。これは作戦の練り直しが必要か……」


なんてよくわからないうわ言を言っていたので、レッドローズちゃんに話を聞くことにした。


「それでさ、結局。君たちは何者で、何をやってるの?」


「うん? 魔法戦士だよ。だから、わたしたちは悪の組織と戦っているの!」


誇らしげに言う魔法戦士は微笑ましかった。


「じゃあ、悪の組織って何?」


「さっき襲って来た煉獄の胡蝶ジャッジメントバタフライたちがいる世界征服を目論む悪い組織なんだよ」


「ちなみに、何人いるの?」


「彼女だけだよ」


「さっき、達っていてたよね」


「……やよいくん。言葉の綾って言う言葉知ってる?」


なんか察した。深くは追求しないことにした。


と言うか、敵が一人しかいないってどう言うことだよ。更に言えば、一人っきりで組織で、幹部ってどんな寂しいお話だよ。


「でもね、もう一つ別の組織もあるの」


「あ、良かった……」


レッドローズちゃんは怪訝な顔をしたけれどね、ラノベとかアニメとかを割と嗜んでいるぼくにとっては、これくらいわかるのだよ。


これはきっと、あの煉獄の胡蝶ジャッジメントバタフライちゃんと最終的に共闘して、そのもう一つの巨悪と戦うことになるんだ!


我ながら名推理だった。


「その組織はね、PTAっていうの」


……それは、どうなんだろう……


そんな話をしていると、ポワピィが手を叩いた。


「わかったよ。君、やよいくんと言ったね、の能力でもどうにかなる。俺の天才的頭脳にかかれば問題ない」


自慢げにいうマスコットキャラと、キラキラと目を輝かせて期待のこもった視線を送る少女。


どうも、このマスコットキャラの立ち回りは参謀みたいだなーーそう思った非日常の夜。




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