1 神様の声
ある日の昼下がりのことだ。
といっても、それは日本では昼だったというだけのことなんだけれど……
とりあえず、その日その瞬間に、何の前触れもなく世界に大きな声が響き渡った。
大きな大きな声だった。
けれど、どうやらそれは物理現象としての『音』じゃなかったという。
人間の心に直接語りかけた神様の『声』だったらしい。
神様はなんて言ったかって?
そんなのわからないよ。
だってさ、世界中の全員に一斉に声をかけたんだよ?
そして、大前提として世界中の人々は色々な言語を使っているでしょ。
どこかの言語を使っちゃったら差別的じゃん。
だから、神様はなにかよくわからないことを一言つぶやいた。そう言うしかない。
つぶやいたにしては、頭がガンガンするくらいの爆音だったけどね。
とりあえず、ぼくの関心はそこにはない。
それに、きっとぼく以外の世界中のほとんどの人も、神様がなにを言ったかについてよりも、その後起きた変化に関心を持っているはずだ。
そう、世界中の人類の心に神様のつぶやきが響き渡ったその瞬間、人類はみんな『力』を手に入れた。
『声』の直前にしたいと思ったことを、願ったことを、可能にする『力』を。
愛されたいと思った人は愛される『力』を
速く走りたいと思った人は速く走る『力』を
死にたくないと思った人は死なない『力』を
空を飛びたいと思った人は空を飛ぶ『力』を
火をつけようと思った人は火をつける『力』を
死にたいと思った人は死ぬ『力』を
殺したいと思った人は相手を殺す『力』を
計算しようと思った人は計算する『力』を
時間を確認しようと思った人は時間がわかる『力』を
リモコンをとろうと思った人はリモコンに触れずに引き寄せる『力』を
寝たいと思った人はすぐに寝ることができる『力』を
手に入れた。
ぼくはさっき、人類全員って言ったけど、訂正。
15歳未満の子は誰もこの『力』を発現しなかったらしい。
神様も子供には危ないから駄目って思ったのかな?
子供だったらきっといろんなことを願ってたんだろうね。
けれどね、大人になるにつれて突拍子もない願いを常に持ってるような人なんていなくなるんだろうな。
神様の『声』の瞬間にすごい『力』を手に入れれるような願いを持っていた人なんて、ほんの一握りだった。
残りの大多数は、せいぜい何かを触れずに引き寄せる程度の『力』しかない。
それに、神様もタイミングが悪い。
昼食後、五時間目の授業の時間なんて、全国の小中高どこへ行ったって寝たいって思っている生徒ばっかりじゃん。
結果、ぼくのクラスメイトはほぼ全員、寝る『力』を手に入れた。
数学の授業中だったから、何人かまじめな生徒は暗算の『力』を得たとか言ってたけどね。
ん?
ぼくがどんな能力を得たのか、まだ聞いていないだって?
んー……実はあんまり言いたくないんだよね……
そのー……昼休憩の時間が思いがけない用事でつぶれちゃって、トイレに行けてなかったんだよね……
そう、ご察しの通り、『声』の瞬間、ぼくは『今すぐトイレに行きたい』って思ってたんだ。
そして、これもまたご察しの通りかな?
ぼくは一番近い所にあるトイレへ限定の瞬間移動の『力』を手に入れた。
瞬間移動って言うと聞こえがいいし、なんか「ザ・超能力」みたいな感じだけど、「トイレへ限定」ってさ、結構恥ずかしいし、微妙だよね……楽なんだけどさ……
こんな感じで、神様は人類にひどく適当な『力』、超能力を授けてくださったんだ。