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未来の鏡

作者: 真柄

そこは、真冬の寒さだった。

雪などはないが、肌を突き刺すような冷気が身体に入り込もうと鋭く穿つ。

朋弥ともやは、凍える身体を丸め、目の前の巨大な門を叩く。

「開けてください。お願いです、開けてください」


目を覚ますと、朋弥はこの門しかない空間にいた。

ただただ、寒いだけの場所から逃げ出そうと、唯一ある物体に一縷の望みをかけた。

しかし、門は何も言わない。

「このままでは、寒くて死んでしまいます。お願いです、助けてください。開けてください」


「開けてもいいけど?」

どれくらいたったころだろうか。門を叩く朋弥の後ろから声がした。凍え感覚の無くなった足をなんとか動かし、振り返るとそこには小さな少女が立っていた。

こんなに寒い空間だというのに、薄手の白いワンピースを着ているだけ。しかし、少女は血色のいい肌と赤い唇を笑顔に変えていた。

「その門、開けてもいいよ」

「ほ、本当ですか?」

朋弥は藁にもすがる思いで、少女に懇願する。

「お願いします! もう、身体の感覚がないくらい凍えてしまっているんです」

感覚が少しでも戻るよう、手を擦り合わせるが、それではもう戻らないほどに朋弥の身体は冷え切っていた。

そんな朋弥の様子を変わらない笑顔で見ていた少女は、一歩朋弥に近づくと、条件がある、と澄んだはっきりとした発音で言う。

「3つの質問に嘘偽りなく、真実で答えること」

「はい、はい。分かりました」

朋弥はがくがくと震える顎を鳴らしながら、ガックンガックンと縦に首を振った。

少女はきれいに微笑むと、ガチャリと門扉を開けた。


しかし、その門の向こうには朋弥がすでに立っていた。映る朋弥は、厚手の防寒具を着ていて、どんな寒さにも耐えれそうな装いだ。

「か、がみ……」

愕然とする朋弥を前に、女の子は気にも留めず質問を始めた。

「あなたの親はどんな人?」

「えっ……?」

「質問に正直に答えたら、この鏡の中に入れてあげる。あなたの親はどんな人?」

この空間から抜け出すことを一番に欲する朋弥は少し考えて、答えた。

「そ、尊敬する人」

「あなたのなりたいものは?」

また少し考える。その間も腕を摩ることは続ける。

「父のような人」

「あなたは幸せ?」

「幸せ」

即答した。


少女は朋弥の答えを聞いて、ひとつ頷いた。

「それは、本当のあなたではないよ。3つとも本当のあなたの答えではない。あなた自身の答えじゃない」

「え、でもこれが俺の答えです……」

朋弥は困惑した。視線をあらぬ方向に右往左往動かすが、何も分からない。

「本当のあなたを見つけられるまで、この鏡の先には通せない。だから、もう一度探してきて」




耳元で誰かの声が聞こえる。

「朋弥!!」

重い瞼を開けると、ぼやける先に朋弥の母、幸子が見えた。いくつかの白っぽい人影が慌ただしく動く。

「あぁ! 良かったわ! 奇跡が起きたわ!!」

幸子は朋弥の手を握り締め、顔を手にすりよせた。

(……あったかい)

先ほどまで何の感覚もなかった手には、暖かさと、幸子の握る手の痛さがあった。


学校の帰り道にトラックに轢かれた、と担当医から聞いた。

損傷はないが、頭を強く打ち3週間も昏睡していたという。

朋弥の周りは、よかった、よかったと涙ぐんで言うが、朋弥にとっては現実味のない状態だった。


「朋弥が生きていてくれて、私は幸せよ、嬉しいわ。お父様も国会が終わったらいらっしゃるはずよ」

幸子は朋弥の髪を梳きながら、安心したように微笑む。

「退院したら、また頑張って勉強してお父様のような議員になりましょうね。そうすれば、朋弥はずっと幸せでいられるわよ」


朋弥は、すべてが歪んで見えた。




「朋弥! 朋弥、どこに行ったの!?」

病室には母の悲鳴と、看護師たちのバタバタと言う足音が響く。

朋弥の寝ていたベッドの上には、一枚の紙が置いてあった。


『自分を探しに出かけます』



数年後、ヒマラヤ登頂を果たした少年のニュースが全国を飛び交うのは、また別のお話で。

読んでくださって、ありがとうございました。

とても、久しぶりに短編を書きました。

半年以上、何も書いていなかったので、所々違和感を覚える個所が……。


未熟な点が多々あると思います。改善点や評価、感想などをいただけたら、幸いです。

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