まさかのカウンターキルしちゃいました
「あなたッ!私の婚約者に色目を使わないでくれるッ?!このッ泥棒猫ッ!」
ぺちっとか弱い平手打ちが私の頬に当たる。
「「「そーよそーよ」」」
私はつい数日前、一学年上のハートフォード侯爵令嬢イザベラ・シーモア嬢とその取り巻きたちに目をつけられた。
事の発端は彼女の婚約者、デヴォンシャー公爵令息アルフレッド・キャンベル様が学園の廊下で私に色目を使ってきたことだ。私はもちろん適当にあしらったが、それを勘違いしてしまったらしく、廊下ですれ違う度に声をかけられる様になった。私は伯爵家の者。目上の方に声をかけられて無視するわけにもいかないのだ。最近、令息の中で結婚前にひと遊びしようと盛り上がっている方々がいると聞いていた。まさか公爵令息がとは思ったが、彼は三男。社会を舐めているのだろう。おかげで私はイザベラ様の怒りを買ってしまった。
とはいえ、イザベラ様も馬鹿じゃない。初めは彼の方を注意していたのだ。しかし、芋虫をせがむ雛鳥が如く口を揃えてピーチクパーチクのたまふこの取り巻きのご令嬢たちがイザベラ様に私の方が色目を使っているとすり込んだのだ。たまったもんじゃない。もともと貴族じみたーー否、人間とのコミュニケーションが苦手な私にとって「違います!イザベラ様!キャンベル様とこの取り巻きが悪いのです!」という主張を上手くできるわけがなく、こうして今に至る。イザベラ様が平手打ちはやりすぎじゃないかしら、と取り巻きたちにコソコソと言っている。何言っているんですか、全然足りませんヨと取り巻きたちが返す。
ここで、取り巻きたちの紹介をしておこう。
今日も元気にマインドコントロール!
ダービー伯爵令嬢ローズ・スタンリー
特技は千鳥足ダンス!
アスター子爵令嬢エレノア・アスター
実は最近浮気はじめました
サッチャー男爵令嬢ルイザ・サッチャー
以上がイザベラ様に群がる雛鳥たちだ。
「こ、これ以上アルフレッド様に近づいたなら、あなたの家がどうなるか覚悟しておきなさい!」
「「「そーよそーよ」」」
君たちはそーよそーよ以外喋れないのかな。
「何度も申し上げておりますが、私からキャンベル様に話しかけたことは一度もございません。」
「でも、この子達はあなたがアルフレッド様に…そ、その…胸を押し付けているところを見たと言っていたわッ!!」
イザベラ様が恥ずかしそうに目を泳がせながら叫ぶ。本当に、この取り巻きたちは昼ドラの脚本家にでもなればいいのに。
「私には押し付ける胸がございません。」
シーーーン
「どうしたのかな?こんなところで」
火中の人物ーーアルフレッド・キャンベルがこの気まずい静寂を容赦なく打ち破り、声をかけてきた。
「アルフレッド様!これ以上、シャーロット様と親しくなさるのは止めてくださいまし!」
遂にご紹介賜りました。私、デヴォン伯爵令嬢シャーロット・コートネイと申します。
「おお、イザベラ…誤解させてしまったようだね。すまない。しかし、僕が愛してるのは君だけさ。」
よくもまあこんな取ってつけたようなセリフを取ってつけたような笑顔で言えるものだ。チープな恋を求めるどこかのご令嬢たちに叩き売りしたらいいと思う。
「アルフレッド様…!」
うん、イザベラ様は素直なのだ。だからこうして取り巻きたちに踊らされてしまっている。 将来が心配だ。
「じゃ、私はこれで…」
「「「ふんっ」」」
取り巻きたちが私を睨んで鼻を鳴らす。そろそろこいつらにも痛い目に遭ってもらわなきゃいけないが、どうしたものか…
というのも、幼少期から彼女たちは私の中で「極悪令嬢3人組」として名を馳せているのだ。
私が初めて夜会に出たとき、彼女たちは私と同い年の女の子たちを一人ひとり取り囲み髪を引っ張ったり、足を引っ掛けて転ばせたり…まあ酷かったのだ。大人たちは子供のすることだからとあまり波風を立てないようにしていたが、ついに私の番が来た。あのときはまだ幼くて、髪を引っ張られたときに3人の髪の毛を引っ張り返してしまった。それから何かと目をつけられているのだ。ついこの前も別の令嬢に私が悪口を言ってたとか嘘の話をすり込んでバトルさせようとしていた。ちなみに、何度かターゲットの令嬢にすり込みが失敗したりバレたりしているが、それでも懲りずに勇猛果敢に挑んでくるのが彼女たちだ。その気力を別のことに費やしてほしい。
そんなことをぼやぼや考えながら廊下を一人歩いていると、数歩前にいた男性がハンカチを落とした。ハンカチは畳まれていなかったのか、開いたまま床に落ちた。私は手早く畳んでから男性に声をかけた。
「すみません、ハンカチを落とされましたよ。」
「ああ、すみません。どうもご丁寧にありがとうございます。」
む、距離が近い。またしても不埒な流行りに便乗した令息か?と思ったが、彼はそうだけ告げるとただそそくさと去っていった。
翌朝…
学園の寮の自室の扉がノックされた。無礼だなと眠い目を擦りながらも扉を開けると、そこには騎士が数人いた。
「貴様が隣国のスパイとやり取りをしていたと密告があった。ただちに身柄を確保する。」
「は???」
そう言うと騎士たちは私が逃げられないよう四方を囲んだ。私は少なくともここで抵抗しても無駄だと思い、大人しく連行された。
騎士たちの間から「極悪令嬢3人組」のいやらしい笑みが覗いた。え、ここまでする?
馬車に乗せられ揺られ、気づいたら牢に入れられていたた。牢といってもそんなに酷いものでもないが。
「これが貴様とスパイがやり取りをしている証拠だ。」
目の前に1枚の写真が出された。
「これは…」
昨日、男性に私が何かを手渡しているところが写っていた。なるほど、男性が妙に近くで喋ったのは密談をしている様に見せかけるためか。
「これは何を渡しているんだ?」
「ハンカチです。この男性が落とされたので…」
とりあえず正直に答えてみる。こんな経験は初めてなので正直どうしたらいいかわからなかった。しかし、目立たずに撮れるカメラなんてつい最近隣国で開発されたものしか私は知らない…つまり撮った人がスパイと仲間?てことは「極悪令嬢3人組」はスパイと仲間???なんてこったい。
「しかし、この男性は直後にスパイ容疑で捕らえられている。」
「ですが、私は本当にハンカチを渡しただけなのです。私はおそらく嵌められています。せめて、処分の前にダービー伯爵家、アスター子爵家、サッチャー子爵家とそのスパイの間にやり取りはなかったか調べていただきたいです。」
「捕らえられたものは皆そういう。」
そう言って騎士は去っていってしまった。売国奴は一発処刑だ。多分、一族諸共だった気がする。どうにかしなきゃ…やばいな…焦れば焦るほど思考が鈍り、堂々巡りだ。見張りの騎士にカメラの話をしてみたが「うるさい」とばかりで、聞く耳を持たない。
それからどれほど時間が経っただろうか?突然牢が開き、外に出るよう促された。
放心状態でいつぶりかの光を浴びながら促されるまま歩くと、ギロチンが見えてきた。
待ってやばいやばい…誰かが周りでごちゃごちゃ言ってるがそんな場合じゃない。冤罪で死ぬなんて御免だ!家族はまだ生きているの?!
お父様!お母様!
普段ろくに運動してない令嬢の抵抗もムキムキマッチョマンの前には虚しく、ズルズルと断頭台に引きずられていく。
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げなきゃ…
ついにギロチンが私の首に触れる寸前、
ーーー何かが刃と首の間に入り込んだ。
ガキンッ
「…大変申し訳ないッ!あなたは冤罪だった。あなたが述べられた3家を調べたところ、密輸や外患誘致の容疑が出てきた。あなたにこの国は救われた。感謝する。あなたのご家族もちゃんと生きている。」
そう言うのはこの前写真を見せてきた騎士の声だった。走ってきたのか、息を切らしながらギロチンの刃を元の位置に戻している。
それから私はみっともなく泣いてしまった。今はとんでもない顔になっている自信がある。少しでも信じて調べてくれたのか嬉しかったし、何より今家族も自分も生きていることに安堵した。
調査が途中なのに処刑が行われそうになったのは、あの3家の圧力らしい。しかし、色々な容疑が出てきたので3家が一族諸共処刑はほぼ確定らしい。カウンターキルだ。
冤罪のお詫びとして、「極悪令嬢3人組」に檻越しで面会させてもらった。
「あなたッ!!こんなことになって、あなた無事でいられると思っていて??!!!」
3人組の主張は概ねこんな感じだ。私が今まで家同士の関係に波風立てたくないばかりに、嫌がらせ一つ一つにちゃんと対応しなかったせいで調子に乗ってしまったらしい。まさかカウンターされるとは夢にも思わなかったのだろう。
「そーよそーよ」
私はそれ以外に何も言わずに立ち去った。「ちょっ、待てよ!」と呼び止める声が聞こえてきたが、もちろん全て無視した。
それから処刑までの2日間、彼女たちの牢では私に対する恨みつらみが響き渡り、数年経った今でもたまに聞こえてくるんだとか…
そーよそーよあなた達がいなくなってより無事でいられるから会いに来てるのよ
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