婚約破棄された令嬢が隣国の皇太子に溺愛され、婚約破棄した王子が全てを失うってだけのお話
えー、タイトルに嘘はありません(真実の全てでもない)が内容は重めです。軽い話を期待した方はブラバどうぞ。
「以上の理由からエリザベート・ヴァルツハイム公爵令嬢! 其方との婚約を破棄する!」
そうエーリッヒ殿下から言われた時、私はただ悲しかった。
我が国の第一王子にして王太子であるエーリッヒ殿下との婚約が決まったのは私達が5歳の時でした。
同い年で身分的にも釣り合う、更には父親同士が再従兄弟で親友同士という事もあり「面倒な相手に婚約者を押し付けられる前に婚約させとこう」という微妙な理由でしたが私達には関係ありませんでした。
齢5歳にして殿下は既に女性に対して紳士的にふるまう事ができ、自分勝手にまくし立てるように話しかける私に対しても穏やかな笑顔で聞き役に徹してくれました。私は絵本に出てくる様な王子様と将来結婚出来るという事実に興奮してしまい、到底淑女とは言えない態度だったのにとんでもない差です。
家に帰った後にお父様に苦笑いでたしなめられて初めて失礼を働いた事に気付き顔を青くしてしまいましたが、後日会った殿下は気にしてないと笑って許して下さいました。
その時からたぶん、私は「王子様」という存在ではなく「エーリッヒ様」個人に恋したのでしょう。
それから私達は婚約者として穏やかに交流して行き、仲を深めてきました。定期的なお茶会や誕生日には贈り物を贈り合い、ある程度大きくなってからは観劇やお忍びで城下に出かけて庶民のようなデートをしたりと、政略では無い、本当の恋人として過ごす日々でした。
ですが私達がもうすぐ王立学園から卒業しようという時期になって、全てが変わってしまいました。
殿下の近くにはいつの間にかピンクブロンドの可愛らしい令嬢が立っているようになりました。
そして何故か私が彼女を酷く虐めていると言う噂が立ち、殿下が徐々に距離を取るようになりました。
今までお茶会などで定期的に顔を合わせていましたがそれもなくなり、たまに会う事があってもかつてのような穏やかな笑顔はなく、眉を寄せ厳しい顔でこちらを見るようになりました。
殿下に彼女を虐めている事実はないと告げても態度が変わる事はなく、その時になって全ては手遅れなのだと私は気づいてしまいました。
そして生徒会主催の卒業パーティーが開かれた日、私は衆人環視の中で婚約破棄される事になったのです……
その後の事は激動と言っても良いでしょう。婚約破棄された私に隣国である帝国から友好の為にパーティーに出席していた皇太子であるアルブレヒト殿下が結婚を申し込み、あれよあれよと言う間に私の帝国への嫁入りが成立。更には婚約破棄をしたエーリッヒ殿下は王家と公爵家が決めた婚約を勝手に破棄したと言う事で廃嫡、王太子の座は第二王子であるエルリック殿下へと移り、エーリッヒ様は臣籍降下して男爵位を与えられて辺境の領地へと追いやられ……その道中にて何者かによって命を奪われてしまいました。
「……そんな……」
その知らせを帝城の離宮で聞いた私の顔からは血の気が引いていたでしょう。視界がぐるぐると回り、私は体のバランスが取れなくなってしまい、思わず倒れ……そうになったところをアルブレヒト殿下に抱き止められました。
「エリザ! すまない、そんなにショックを受けるとは思わなくて……」
「申し訳ありません、アルブレヒト殿下……あんな事になったとはいえエーリッヒ様は私の幼馴染でしたし、子供の頃は本当に仲が良かったんです……私の……初恋だったんです……」
そんな私の言葉を聞いたアルブレヒト殿下は少し顔をしかめると、抱き止めていた私の体を更に強く抱き寄せ、耳元で囁きます。
「……もう、あんな男の事は忘れろ。いや、俺が忘れさせてやる」
「……殿下……」
どうやら本気で嫉妬しているようです。……ああ、この方は私の事を本当に好きでいてくれるのだと嫌でも理解させられてしまいます。きっと私の為ならどんな事でもしてくれるに違いありません。これから私は皇太子妃として、ゆくゆくは皇妃としてこの国で最も尊い女性として大切に扱われ、この方に愛されて過ごすのでしょう。きっと国中の女性が私を羨むに違いありません。
ああ、本当に……
へどがでる。
ぜったいにゆるさない。いつかころしてやる。
「そんなっ!! 兄様がどうして!!」
それを聞いて第二王子である僕……エルリックはエーリッヒ兄様に思わず詰め寄ってしまった。
ここは父上の執務室、人払いがされておりここには僕と兄様と父上の3人だけしかいない。
「仕方がない。20年前の戦争で敗北して以来、我が国は帝国の属国だ。帝国の皇太子の要求を受け入れない訳にはいかない」
「まさか皇太子がエリザベートを見初めるとはな……」
「なら素直に婚約を白紙撤回させて自分に嫁ぐように言えば良いだけじゃないですか! 何でそんな猿芝居させられた挙句に兄様が王太子を下ろされなきゃいけないんですか!」
そう、あのアホ皇太子は何を血迷ったのか兄様に浮気をさせて婚約破棄、そこから勝手な行動を取って事で廃嫡されるなどと言う台本を送り付けてきたのだ。意味がわからない。
「……ヤツは単にエリザが欲しいのではない。その心まで欲しているんだ。だからそうやって私に幻滅させたいのだろう……後はエリザに愛されている私への憎しみだろうな」
兄様が苦虫を噛み潰したような顔でそんな推測を語る。
「な、なんて器のちっさい……って言うかこのシナリオ、最近流行ってる恋愛小説そのまんまですよね? エリザベート義姉様に気付かれないと思ってるんでしょうか?」
「……おそらくあの娘なら気付くだろうな。そして国の為にそのまま気付かないふりをして嫁ぐだろう。……聡い子だからな」
僕の疑問に父上が沈痛な表情で答える……あー、義姉様だからなぁ……
正直、僕は義姉様好きだった。初恋だったと言っても良い。だが同時に兄様の事を尊敬していたし2人が一緒にいて微笑みあっている姿が何より好きだった。きっとそれはいつまでも続くものだとこれまでずっと思っていた。けどそれは帝国の気まぐれ一つで簡単に覆るものだと、僕はその時初めて知った。
大国の傲慢さに腹を立てつつ、仕方ない事だと諦めて自分を納得させて王太子教育を受け始め数ヶ月後。
僕は兄様の訃報を聞く事になった。
知らせてきたのはたまたま通りがかった帝国巡検使。何者かによって辺境へ向かう兄様の馬車が襲われたらしく、馬車の残骸と見覚えのある顔の死体を見て知らせてきたそうだ。
……ねぇ帝国の巡検使様? 何で普段は王都で接待受けるだけなのに辺境への街道をたまたま通っていたんですかねぇ? 何で普段はお飾りの護衛なのに今回はガチの精鋭騎士団を護衛にしてるんですかねぇ? ごまかす気がねぇだろクソが!
あのクソ皇太子の嫉妬深さを甘く見ていた……最初からヤツは兄様を生かしておく気なんてなかったんだ……
その知らせを聞いた父上と母上は消沈し、まだ40になったばかりなのに老人のように老け込んでしまった。
そして数ヵ月後、気力を失った母上は病に倒れそのままあっさりと亡くなり、その後を追うように父上も……
そうして僕は家族を失い一人になってしまった。
あのクソやろう。
ぜったいにゆるさない。かならずむくいをうけさせてやる。
聖暦1306年。大陸統一目前だった帝国にて属国の王、「虐殺王」エルリックが反旗を翻す。
かの王は「愚帝」アルブレヒトによって弾圧されていた属国同士で秘密裏に同盟を結び、同時多発的に反乱を起こした。
アルブレヒトも帝国軍を動かして鎮圧に乗り出すが反乱軍側に動きを見透かされ、逆に手痛い被害を受けて潰走してしまう。
それもそのはず、軍の情報は彼の溺愛する妻、「傾国悪妃」エリザベートによって反乱軍側に流されていたのだ。
帝国軍を打ち破ったエルリックはそのまま帝都を陥落させ帝国貴族達を虐殺、捕えた皇族は公開処刑とした。処刑人は他でもないエリザベート。彼女はにこやかに微笑みながら自分の夫と子供、義理の父母と弟妹の首を切り落とした。最後に情報を流して帝国を敗北へと導いたのは自分だと皇帝に教え、絶望する様を嘲笑いながら。
そして最後に憎い男に穢された自分自身を処した。エルリック王はそれを止めようとしたが間に合わず、エリザベートは彼の腕の中で息絶えた。
エルリック王は彼女を敵国の皇族としてではなく、自国の王族として扱い、王家の墓に彼女を葬った。
王族から抹消されたはずの彼の兄の葬られたその隣に。
書く前
新しいタイトルに偽りなしシリーズ思い付いたぜ! よーし、楽しいコメディ書くぞー!
書いた後
……あれ? コメディ要素ドコー? いやこの設定でコメディにするのが無理あるわ! 何で最初はいけると思った俺ーっ!
6/5 午後 表現に微妙な修正
6/6 エルリック君を更に不幸にする為にご両親を死なせる(外道)
6/8 前書き追加
6/9 表現に微妙な修正、二重になっていた目的語を修正