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2話 セカイ系彼女の初敗北

人間のことがよくわからん件。


知識しか残ってない程度の前世の記憶を頼りにしたのが悪かったのか、俺は守仁 コウくんとのファーストコンタクトで盛大に転げてしまった。

声をかけようとしたら、急に謝って爆速で高台から去ってしまったのだ。

その速度たるや、人類が出せる最高速度を軽く凌駕していた。

もしかして、因果律が収束してるせいでなんらかのギフトに覚醒し、俺の正体を感じ取っていたとかか?

同位体に移したせいでアカシックレコードにアクセスできないのが歯痒い。

無理に繋げると、世界が処理落ちして滅ぶからな。

同じ理由で、世界の書き換えとかもできない。そもそも適当すぎる性格が災いして、作り直す事なんてできない。

一度、滅ぼした世界を作り替えたら、なぜかポップした異能を使って他の世界にちょっかいかけ始めたこともあったっけか。


同じ力を持ってる人がいたら教えて欲しい。うっかり滅ぼした世界って、どうやって再編してんの?自動的にバックアップ取るようなツールがあるの?


「では、入ってきてくださーい」


そんなことを考えていると、若々しい担任教師の声が響く。

転校なんて初めてのイベントだ。

いや、学校自体初めてって感覚なのだが。

よくある青春ラブコメ世界の展開だな、と思いつつ、俺は教室へと入る。


「自己紹介、お願いできるかしら?」


おお。こんなにも人間に視線を向けられたのは初めてだ。

やはりルックスは正義。前世だったら多分こんなに視線浴びてない。…いや、前世の容姿なんて全然覚えてないんだけども。

先生に促されるがままにチョークをつまみ、黒板へと走らせる。

ちょっと力を入れたら粉になりそうなモンでよく文字とか書けるな、人間。

俺の本体の産毛で撫でても存在消えるぞ、これ。

そんなことを思いつつ、俺はすらすらと適当に考えた名前を書く。


「真白 ハジメです。よろしくお願いします、に…年4組の皆さん」


あっぶね。人間のみんなって言いかけた。

創世から人間社会を側から見てただけなのだ。人間のエミュとか無理。

人間としての価値観をこの同位体にダウンロードしとくんだった。


「どこか来たの?」

「趣味は?」

「好きなアイドルはー!?」

「彼氏はいますかー!?」


そんなことを思いつつ、マシンガンのように飛び交う質問を捌く。

思春期怖い。やっぱ欠陥だろ、この機能。

俺が愛想笑いを貼り付けると、気まずそうに顔を逸らすシルエットがひとつ。

お目当ての守仁 コウくんである。

うーむ、フツメン。清潔感はあるが、それで際立つほど顔がいいってわけでもない。

まさしくラブコメの主人公って顔だ。何回も見た、ザ・中性的って感じのパーツで構築されてる。


「………」

「なんで顔逸らしてんだよ、コウ?

…もしかしてぇ、真白さんに一目惚れか〜?」

「………あ、いや、えっと…」


否定しないということは、俺のことを異性として見ているらしい。

悪い気はしない。

ふふん、と静かに鼻を鳴らし、俺は自慢げに胸を張り上げた。


「真白さんの席は…、そこね。

守仁くん、真白さんは勝手がわからないだろうし、よろしくね」

「え゛っ、あ、はい」


指されたのは、空いていた廊下窓側角っこの席。つまりはコウくんの隣。

俺がそこに座ると、死ぬほど気まずそうな顔を作り、「よろしく」と頭を下げるコウくん。

俺は笑みを貼り付けたまま、「よろしく」と軽く会釈した。


♦︎♦︎♦︎♦︎


人間の勉強、つまんねぇ。


もう少しナーフしておくべきだったか。体が自動的に答えを出してしまう。頭の中は「久々すぎてわっかんねーやアッパラパー」とか宣ってるのに。

印刷機になった気分だった。

シャーペンの脆さが気になり授業には集中できず、休み時間にコウくんと親睦を深めようにも他の生徒らに囲まれる始末。

人間ってすごい。俺の作った世界の上を這う微生物のくせに、俺を萎縮させるとは。

…いけない。ナチュラルにラスボスのようなセリフが出てしまった。表に出さないようにしないと。


そうして迎えた放課後。

月曜日である故、皆が部活やらに繰り出す。

歓迎会?月曜日にそんなんやる学生はいない。金曜日の放課後にやろうと誘われた。

他の世界だとその日に繰り出してるイメージだったんだがな、と思いつつ、俺は帰り支度を進めるコウくんへと目を向けた。

どう話しかけたものか。久しぶりすぎて会話の切り出し方がわからん。

会話というコミュニケーションツール、難しすぎるだろ。

そんなことを思いつつ、俺は頭に浮かんだ言葉をそのまま口に出した。


「彼女、欲しいんだって?」

「!?!?!?」


ビクッ、と激しく肩を揺らすコウくん。

お、これはなかなかにいい感触なのでは?

俺がコミュニケーションの成功を喜んでいると、コウくんは鞄から財布を取り出し、数枚の紙幣を取り出した。


「いくら払えば忘れてくれますか?」

「金を出すな」


人間のことがわからんくなるから、奇行はやめてくれ。

…奇行だよねこれ?頼み事をするときにゲンナマを相手に叩きつける常識がこの世界に染み付いてるわけじゃないよね?自信無くなってきた。

前もってロケハンしとくべきだったか。

そんなことを思いつつ、俺は彼を宥めた。


「何がいけないの?思春期だし、彼女が欲しいと思うのは普通のことじゃないかな?」

「普通のことだけども!普通のことだけども俺としては恥ずかしいの!!」


ぬぐぉおお、と雄叫びをあげ、悶絶するコウくん。

なんだ、恥に悶え苦しんでるだけか。

人間の恥なんて見慣れてる。

人工惑星を管理する機械にコーヒーをぶちまけて世界を滅亡させたバカもいるのだ。気にしなくてもいいのに。


「失恋の勢いで叫ぶんじゃなかった…。

真白さんみたいな優しい美人に聞かれたのが一番ダメージでかい…」

「言いふらす気もないし、別に気にしなくても」

「そう言う感じで、気を遣った対応されるのが心に来るんだよぉ…」

「思春期の人間めんどくさいなぁ」


恥ずかしいの一言で済ませられるだろ。

どうしてストレートに物事を伝えないんだろうか、この不完全性の塊は。

この100年が過ぎたら、感情が表層化する機能でも付けてやろう。

それならコミュニケーションも円滑になるだろう。


「じゃ、君の痴態を見た詫びでもしようか。

なんでも言ってごらん。叶えてあげるよ」


思春期を迎えた人間なら食いつくだろ。

ちゃんと人体を再現してるし、文字通りなんでもできる。

流石に不老不死とか人智を超えた力とか異世界転生とかは無理だけど。

この同位体のスペックでやれるのはせいぜい、銀河系一つを消し飛ばすくらいだ。

こんなチャンス、滅多にないんだぞ。

俺が胸を張って言うと、彼は真顔になって手を前に突き出した。


「女の子がそういうこと言うもんじゃないぞ。勘違いされちゃうからな」


ふむ、いったんは真摯に振る舞うか。

思春期に振り回されてる奴は「なんでも?言ったな」とか言うんだが。

せっかくだし、ちょっと揶揄ってやろう。


「勘違いでもなんでもないよ。

なんでもしてあげる。ほら、言ってごらん」

「いや、だから…」


二度目も跳ね除けると。

ならば、三回ならばどうだ。抑えていた魅了能力もちょっと解除してやろう。

人間の反応が新鮮で調子に乗った俺は、歴戦の猛者すら陥落させる魅了を発動させ、彼に迫った。


「なにか欲しいものの一つはあるだろ?例えば…」

「じゃ、コーラ一本」


高台で叫んでたものとか、と付け足そうとする俺を遮るコウくん。

沈黙。のち、絶句。

バカな。どんな英傑でも発情期のウサギもびっくりな腰ヘコマシンにする魅了だぞ。

それが思春期とかいう重大欠陥を発揮している人間に通じなかった。

システム不具合か。いや、ありえない。同位体に搭載した機能が不具合を起こすなど、これまで一度もない。

困惑する俺が呆然と「こーら?」と反芻すると、コウくんは「おう」と返した。


「一日中気を張ってたら疲れてさ。

なにかくれるなら、コーラが欲しいかなって」

「こーら…。こーら…」


どんな存在も無条件に発情する俺の権能が、たかがコーラに負けた。

微妙な敗北感に打ちひしがれながら、俺はポケットの中にこの世界の貨幣を作り出した。

コーラに負けたセカイ系彼女

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