断罪中の悪役令嬢ですが、皆さん何でそんな微笑ましい顔で見てるんですか?
初投稿です。
お見苦しいところもあるかもしれませんが、大目に見ていただけると幸いです。
おかしな点や、誤字脱字ありましたら教えてもらえるとありがたいです(#^.^#)
タイトル変更いたしました
【悪役令嬢、嫌がらせが幼稚すぎて微笑ましい目で見られてしまう】→【断罪中の悪役令嬢ですが、皆さん何でそんな微笑ましい顔で見ているんですか?】
「リリーラ嬢、君にこの場で確認したいことがあるんだけどいいかな?」
王立学園の卒業パーティー。
3年間この学園で勉学に励んできた貴族の子供たちが成人として認められ親の手を離れるこのめでたき日に、この学園の卒業生であり、この王国の王太子でもあるアドニスの声がパーティー会場に響いた。
栗色の髪の美しい少女を傍に従え、一人の令嬢の前に立ちはだかる金髪の美青年。
対する「リリーラ」と呼ばれた令嬢は公爵家の末娘で、彼の婚約者でもある。
サラサラの銀髪と整った顔立ち、大き目の翡翠の瞳と華奢で小柄な体躯が同じ年頃の少年少女よりも少しだけ彼女を幼く見せている。
冷ややかに彼女を見つめる周りの視線にも、威圧感のあるアドニスの視線にも臆することなく口元を扇で隠したまま彼女は真っ直ぐと王太子を見つめる。
「何でしょう、殿下」
やがて、鈴を転がしたような声でリリーラが答えると、アドニスは傍らの少女に目くばせをした。傍らの少女が小さく頷くとアドニスは再びリリーラを見据える。
「君はこの3年間ここにいるエラ嬢に嫌がらせをしていたと聞いたけど事実かい?」
アドニスはあくまで威圧的にならないように、落ち着いた穏やかな声で問いかけた。
リリーラはしばし考え込むと静かに答えた。
「…事実ですわ」
その瞬間、周りの卒業生たちがどよめく。彼らの中から「やっぱり」「噂は本当だったんだわ」とささやく声がリリーラの耳にも、王太子の耳にも届いた。
王太子は視線を鋭くし、
「ずいぶんとあっさり認めるんだね」
と、冷たい声で言い放った。
「殿下のことですもの。裏もとっておりますでしょう?」
リリーラはアドニスに近づく男爵令嬢エラに嫌がらせを始めてから、こんな日が来ることをとっくに覚悟していた。
では、なぜ嫌がらせをやめなかったのか。
それは、リリーラが悪役令嬢だからである。
彼女は自分の役回りに気づいていた。
幼い頃から決められていた婚約。学園に入学してきた平民上がりの男爵令嬢。急速に距離の縮まる二人の仲。
いつだったか読んだことのある、平民に人気のロマンス小説のシチュエーションとそっくりそのままなのだ。
そこで気づいてしまった。自分はその小説に出てきた悪役令嬢の役回りなのだと。
ヒロインであるエラと、ヒーローであるアドニス。二人の恋を盛り上げるためのエッセンスなのだと。
悪役令嬢である自分がエラをいじめることで、エラとアドニスの恋は燃え上がり、最後は自分が断罪され、婚約破棄され、二人は結ばれる。
もちろん、婚約は家と家の契約。それも王家と公爵家のつながりだ。簡単に覆せるものではない。王妃教育だって無駄になるし、数々の弊害が出る。
それでもリリーラには確信があった。
エラは優秀な人間で王妃教育はすぐにクリアできるだろう。身分差の問題はリリーラに甘い父に頼めば公爵家の養子に入れる。そうすれば、王家とのつながりも保たれる。
ならば、リリーラがやることは一つ。
エラに嫌がらせをして二人の恋を盛り上げることだ。
立派な悪役令嬢になる!
そう決意して、リリーラは口に出すのも恐ろしいほどの嫌がらせを開始した。
(その調子ですわ、アドニス様。どうぞ、わたくしを断罪してくださいまし。そして、今、この場でエラ様への愛を宣言するのです!)
全てが思い通りにいっている。
アドニスを始め、アドニスの側近たちも卒業生たちもみんなリリーラを冷ややかな目で見ていた。
「君がエラ嬢にしていた嫌がらせの内容は…学園でも噂になっていた。その真偽を確かめるけど構わないね?」
「ええ、構いませんわ」
アドニスの言葉に毅然とした態度でリリーラが答える。
「エラ嬢」
「はい…今までリリーラ様にされたことは、この魔道具に全て映像として保存されています」
エラは一歩前に進み出ると、魔道具のペンダントを掲げた。すると、ペンダントから一筋の光が伸び空中に映像を映し出す。
「これは、リリーラ嬢がエラ嬢を罵ったと噂されている場面だ」
空中に映し出された映像は、リリーラがエラを呼び止めたところだ。
『エラさん、ちょっとよろしいかしら』
『何でしょう?リリーラ様』
『貴女、最近アドニス殿下とよく一緒にいらっしゃるそうね』
扇で口元を隠しながら、エラを見上げるリリーラ。
『ええ、生徒会の一員として殿下には気にかけていただいてます』
穏やかに微笑みながら答えるエラに、リリーラはびしぃっと扇を突き付け
『ちょっと殿下に目をかけてもらっているからって…ばーかばーか!!』
そう言ってリリーラはくるりと踵を返し去っていった。
あとに残されたエラがポカーンとした顔でその背を見送っているところで映像は終わった。
(ああ…我ながら、なんてひどい罵詈雑言…)
二人のためとはいえ、エラを傷つけてしまったことの罪悪感を感じリリーラは目を伏せた。
そのため、気づかなかったのだ。
周りの人々が映像の中のエラと同じぽかんとした表情をしていたことに。
それからも、次々とリリーラがエラに対して行った嫌がらせの内容が映し出される。
例えば、エラの背中に『私は王子が好き』と書いた貼り紙を貼ったり。
例えば、エラの食事の皿に自分の嫌いなものを移したり。
例えば、長期休暇の土産にエラに現地の名産の変な置物を渡したり。
例えば、エラのドレスを野暮ったいと言って自分のいらないドレスを押し付けたり。
数々の悪行を暴露されたリリーラはうなだれたまま、床を見つめていた。
そのためリリーラは気づいていない。
リリーラの嫌がらせが幼稚すぎて、今まで冷ややかな視線を向けていた人々が微笑まし気な表情を浮かべていたことに。
「これが、私が今までリリーラ様にされていたことです。そして、一番見てほしい映像がこちらです」
エラがそう言った直後に映し出された映像はエラが複数の令嬢たちに囲まれて詰られている場面だった。
そして、そこへ颯爽とリリーラが現れ
『この方をいじめていいのはわたくしだけですわ!』
と、エラを取り囲んでいた令嬢たちを追い払ったところでリリーラの“悪行劇場”は終わった。
しん、と静まり返った会場にリリーラはうつむいたままアドニスの言葉を待った。
やがてアドニスが「リリーラ」と言葉を発したのを機に、リリーラは一度大きく息を吸って吐いてから
「エラ様への嫌がらせの数々、全て真実です。どうぞ罰してくださいませ」
毅然とした態度で、頭を下げる。
正直、今までやったことに後悔はない。二人の恋を盛り上げるためだからエラには悪いことをしたけれど、公爵家の養子にすることでチャラにしてほしい。
あとはどんな罰を受けるのだろうか。
出来れば国外追放とかは勘弁してほしい。結婚できなくてもいいから、公爵領から二度と出られないとか、そのくらいで済ませてほしい。
ドキドキしながらアドニスの言葉を待つ。
「顔を上げなよ、リリーラ」
やがてかけられたアドニスからの言葉に静かに顔を上げたリリーラは、思わずぽかんとしてしまった。
リリーラの目に映ったのはそれはそれは微笑ましそうな顔でリリーラを見つめるアドニスと、側近たち。それと、どこかうっとりした顔でリリーラを見つめるエラの姿だった。
「な、なんですの…みなさん、なぜそのようなお顔を…」
リリーラが困惑していると堰を切ったようにエラがリリーラに抱きついてきた。
「もう我慢できません!リリーラさま、可愛すぎます!」
「な、何をおっしゃっていますの、エラ様?わたくしは貴女にあんなに酷いことをしたのですよ?」
更に困惑するリリーラについに笑いをこらえられなくなったアドニスは
「リリーラ、あんなもの嫌がらせとは言わないよ。ただの子供のいたずらだ」
と、くつくつと笑いながら説明した。
「それと、エラ嬢。まだ終わりじゃないだろう」
アドニスの言葉にエラははっとした様子で一度リリーラから離れる。
「そうでした」
しかし、リリーラの傍からは離れず今度は周りの卒業生たちを見据えた。
「私が今回、アドニス王太子殿下の力を借りてこのようなことをしたのは、リリーラ様の悪評を払拭するためです」
会場中に響くように声を張り上げたエラの言葉にリリーラは思わず「なんて?」と返していた。
「確かに、私はリリーラ様から数々のいたずらを仕掛けられていました」
「いたずら…」
頑張って考えた悪事をいたずらと言われて、リリーラは落ち込んだ。
「最初こそ困惑しましたが、だんだん今日は何をしてくれるんだろうと楽しみになりまして。そのうちリリーラ様が可愛くて仕方なくなりました」
エラの言葉にそれまで笑顔を崩さなかったアドニスの片眉がピクリと動いた。
「ですが、そのリリーラ様のいたずらを悪しざまに広める方々がいらっしゃいまして」
(いたずら…)
もう何度目かわからないいたずら発言に、リリーラの悪役令嬢としてのプライドは粉々に砕け散った。
「リリーラ様が私を罵っただとか、ドレスを破いただとか、私の食事を捨てただとか、挙句の果てには私を突き落としただとか」
次々と出てくる悪行にリリーラは震えあがる。
「そ、そんな恐ろしいことを…」
「大丈夫ですよ、リリーラ様」
おびえるリリーラにだけ聞こえるようにエラが優しく語りかける。
そんなエラに、リリーラが思わずときめくとアドニスの咳払いが聞こえた。
(殿下…わたくしにエラ様を取られると思って…大丈夫ですわ、エラ様の御心は殿下のもの)
先ほどまでおびえていた心はアドニスとエラの絆(仮)を垣間見たことで吹き飛んだ。
「そのため、リリーラ様のご婚約者様でいらっしゃるアドニス王太子殿下にご相談をし、全生徒が集まる本日この場でこのような映像を流させていただきました。これまでの可愛らしいいたずら、そして私を助けてくださったリリーラ様の最後の映像を見ていただいた皆様はどう感じましたでしょうか」
まるで演説をするかのように堂々と言い放つエラ。そしてぐるりと周りの人々を見渡してから
「皆様のお顔を拝見いたしますと、リリーラ様の可愛らしさが伝わったようで安心しました。皆様の旅立ちの場を騒がせましたことをお詫びいたします」
にこりと微笑み、かつてリリーラが嫌がらせの一環で叩き込んだ美しいカーテシーを披露するエラ。
どうやら一段落したようだ。
では、次はリリーラがアドニスから婚約破棄を突きつけられるターンだ…いや、リリーラが嫌がらせだと思っていたものは二人にとってはいたずらレベルだったので断罪での婚約破棄ではなく、婚約解消か?それならば重い罪には問われなさそうだ、とリリーラは安堵した。
「さて、リリーラ」
アドニスの声に、リリーラはアドニスのほうへ向きなおる。
「内容はどうであれ、君が悪意をもってエラ嬢に接していたことは事実だね?」
「はい、わたくしはエラ嬢を決して嫌っていたわけではありませんが…殿下との仲に嫉妬して悪意をもって接していたことは事実です。エラ様、申し訳ございませんでした」
ドレスの裾を摘まみ上げ、エラに頭を下げた。
「さあ、殿下…わたくしを罰してくださいまし」
婚約破棄…いや、解消を、そして、エラとの真実の愛の宣言を。
と、期待を込めてアドニスを見上げる。
そんなリリーラの表情に、アドニスは苦笑しそうになるのを耐えながら
「そうだね、君には罰を与えなければならないね。ロラン、あれを彼女に」
ロランと呼ばれたのはアドニスの側近の一人である宰相の息子だ。
ロランはリリーラの傍に歩み寄ると小さなカバンを渡してきた。
「リリーラ様、こちらを」
「これは?」
反射的にカバンを受け取りながら問いかけると
「こちらは、無限に物が入る魔道具です」
と、ロランが教えてくれた。
「明日の朝までに、それにひと月分の着替えや必要な荷物を詰めて準備しておいてね」
アドニスの言葉にリリーラは顔色を青くした。
(え、国外追放?でも…ひと月分なら…領地に返されるだけかしら)
ぐるぐると考え込むリリーラにさらにアドニスが告げる。
「明日の朝、馬車で君のタウンハウスに迎えに行くから」
その言葉にリリーラはキョトンとした表情を浮かべた。
「迎え?お迎えが来るのですか?」
迎えが来るのなら、やはり領地に返されるのだろうか。
「うん、二人で隣国に行くんだから当然だろう?」
何でもないように答えるアドニスにリリーラは困惑した。
「あの…わたくしは婚約破棄されるのではないのですか?」
今度はアドニスが驚く番だった。
「殿下はエラ様と愛し合っておられるのですよね?ですから、エラ様への嫌がらせの罰としてわたくしは婚約破棄され、殿下はエラ様とご婚約されるのでは?」
リリーラの言葉にアドニスは頭を抱え、エラと側近たちは笑いをこらえた。
「君がなぜそんな勘違いをしているのか分からないけど…」
そう切り出したアドニスはリリーラに歩み寄りその手を取って口づける。
「僕は今も昔もリリーラが大好きなんだよ」
一人で暴走して、エラとアドニスの恋を盛り上げるために自ら悪役に回るも、根が善良なため子供のいたずらレベルの幼稚な嫌がらせしかできないところも。
頭がいいのに、どこかずれているところも。
嫌がらせを素直に認める潔いところも。
なぜ、リリーラがエラと自分が恋仲だと思い込んだのかは分からない。
生徒会役員同士、エラと一緒にいる時間は多かったけれど。
月に数度のお茶会も、夜会のエスコートやダンスも、日々の贈り物も。
リリーラを大切にしてきたはずなのに。
今日だって自分の色を身に着けた彼女をエスコートしてきた。
けれど、その思い込みの激しいところも可愛いところなのだと、改めて思い直したアドニスはにっこり笑った。
「どうやら、リリーには全く伝わってなかったみたいだし…これから嫌と言うほど教えてあげるよ」
アドニスのアルカイックスマイルにリリーラの顔がどんどん赤く染まっていく。
「そうだね、君への罰は僕の視察に帯同してもらって外交の中心に立ってもらおうと思っていたけど…気が変わったよ」
「え…あの…」
戸惑うリリーラの腰を抱き寄せ
「僕の愛を死ぬまで一心に受けること」
耳元でささやかれた言葉にリリーラの頭はオーバーヒートし、その場で気を失ってしまうのだった。
こうして、王立学園の卒業パーティーを騒がせた騒動は、嫌がらせが幼稚すぎて微笑ましい目で見られてしまった令嬢が、恥ずかしさのあまり失神してしまったことで幕を閉じたのであった。
リリーラが失神したあとリリーラの悪評を広めたのがエラを囲んでいた令嬢たちと判明し、リリーラを溺愛する王太子による制裁を受け、エラに睨まれながら城の下働きとして働かされることとなった。
その後、アドニスとリリーラは隣国への視察という名の婚前旅行をし、帰国してすぐに結婚式を挙げ、リリーラそっくりのいたずら好きな子供たちと、リリーラが好きすぎて彼女の専属侍女になったエラや側近たちと騒がしい日々を送りながら毎日愛をささやき合う。そんな夫婦になったのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
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11月18日
入れ忘れていた部分を加筆修正しました!
追記
本文には入れそびれたのですが、エラ嬢は民芸品や工芸品を集めるのが好きなのでリリーラ様からのお土産を大変喜んでいます。土産を買ってこないという選択肢もあるのに、わざわざ変な置物を探して買ってくるところに萌えています。
誤字報告ありがとうございます!m(_ _)m
評価、ブックマーク、いいね、ありがとうございます!
11月21日、日間ランキング10位ありがとうございます!
11月22日、少し加筆修正しました!