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朝、メイが目を覚まして、窓から外を見たとき、一面の雪景色が広がっていた。夜中の間に雪が降り積もったようだ。メイは、わあ、と声をもらしたあと、どおりで寒いわけだ、と苦笑いをこぼした。


メイがリビングに向かうと、ママとアンナが朝食の準備をしていた。鼻腔を通り抜ける懐かしいスープの匂いに心が落ち着くメイ。メイは椅子に座り、みんなで朝食をとった。


メイは服を着替えると、村の外に出た。アンナが何度もついていくと言ったが、すぐに戻るから、と約束をして、メイは一人で村を歩いた。

懐かしい村の空気を、メイは胸いっぱい吸い込む。静かなクリスマスの朝、道を歩いている人はおらず、メイは、見慣れた場所だけれど、異世界に来たような気分になった。

懐かしい場所を一通り歩いたあと、メイは教会に向かった。牧師さんはいるだろうか、いたら、手紙のやりとりを手伝ってもらったお礼を言おう。そう思いながら、メイは教会の扉を開けた。


すると、見覚えのある金髪の男性がお祈りしている背中が見えて、メイは固まる。男性は、ドアが開いた音が聞こえ、後ろを振り返った。メイは、あの日がフラッシュバックした。初めて、この教会でアーサーを見かけたときのことを。


「…アーサーさん」


メイはぽつりと声を漏らした。アーサーは、ゆっくりとメイのところに歩いてきた。こつこつと、アーサーの革靴の音が静かな教会の中で反響する。


「今、君のいる家に向かおうと思っていたんだ」

「…どうして、ここに」

「……君のご両親から、君がここにいると聞いたから」


メイは、アーサーがなぜここにいるのかの理由が見つからずに瞬きをする。アーサーは、教会の十字架の方を見上げて、先にここに寄ってからと思っていたんだ、と続けた。

メイは、最後に会ったときの状況が状況だったために、アーサーにどんな顔をしていればいいのかわからずに、なんとも居心地の悪い空気を感じていた。何か話すことはないかと、メイは頭の中を巡らせる。


「…前も聞いたんですけど、…何をお祈りしているんですか?」

「…」


アーサーは、少し黙る。メイは、そういえば今までなんとなくはぐらかされていたことを思い出し、言いたくなければいいんですけど、と前にも言ったことを付け加えた。アーサーは、メイから視線をそらす。首元にはいつも彼がつけているペンダントが光っている。メイがそのペンダントに視線が移っていたとき、アーサーがメイの方を見た。メイは、アーサーと視線が合う。アーサーの赤い瞳が少しだけ揺れる。メイはそんなアーサーに、時間が止まったような気持ちになる。


「…君がいなくなってから、ずっと、君が俺の前に生きて帰ってきてくれるように祈っていた」


アーサーはそう言うと、目を伏せて、ペンダントを左手で包んだ。掴んだ手に力を入れると、力を抜いて、ペンダントから手を離した。そして、メイの方を、真剣な表情で見つめた。


「君がいなくなってから、俺は後悔ばかりしていた。俺は、自分の性格を言い訳にして、君に何一つとして伝えられていなかったから。周りの人間は、君は死んだのだと俺に言った。俺も、心の底ではそう思ってはいたけれど、少しの希望を想像して、それでなんとか生きてきた。だから、君をここで見つけたとき、…本当に嬉しかったんだ。…背中の傷なんて、俺にはどうでもいいことなんだ、君が、生きて俺の前にいてくれるのなら。俺は君のことが、……もうずいぶん前から君のことが、……好きだからだ」


アーサーの言葉に、メイは固まった。アーサーは、目を伏せて唇を少しだけ噛むと、またメイの方を見た。


「正直、君が記憶をなくしていたことはショックだった。でも、記憶がなくても君は、俺の好きな君のままだった。記憶がなくてもいい。昔の君とどこへ行ったとか何を話したとか、何が得意で何が苦手だとか、そんなことはもうどうでもいいんだ。これから君と長い時間を一緒に過ごして、嬉しいことでも辛いことでも、想いを共有していければ。そのままの君が俺の隣にいてくれるのならそれで」


アーサーは、そう言うと、メイの両手を、自分の両手で包んだ。アーサーの熱が、手からメイに伝わる。


「君を愛しています。どうか、俺と結婚してください」


アーサーの瞳を見つめたまま、メイは自分の瞳から涙が溢れた。ぽろぽろと、大粒の涙が瞳から止めどなく溢れてくる。


「私、わたし…」


メイはしゃくり上げながら言葉を紡ぐ。


「なんにも思い出せない、あなたのこと、何も覚えてない。でも私、…あなたのことが好き。それでも、いいのかな」


そう言ったメイを、アーサーが強く抱きしめた。アーサーの優しい力に、メイは安心する。アーサーは、メイを抱きしめたまま、君がいいんだ、とつぶやく。


「俺は、君が良い」


アーサーの頭が、メイの肩に当たる。メイは、アーサーの背中に腕を回す。メイは目を細めて、また涙をこぼす。涙で視界がぼやけている。


「うれしい…」


メイは、アーサーにほおずりをした。すると、アーサーは少しだけメイから体を離した。そして、ゆっくりメイに顔を近づけて、優しく口づけをした。そして、メイの額に自分の額を当てた。その時に見えたアーサーの表情がとても優しくて、メイはまた微笑んだ。



次が最後です。

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