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パーティーが終わると、翌日から冬休みだった。メイは、冬休み初日から実家に帰った。
パーティーの後、メイは誰かに見られたくなくて、宿舎の誰も使わない部屋に身を潜めていた。ハニーが自分を探す声が何度も聞こえたけれど、耳をふさいで隠れていた。そして、早朝から迎えに来た馬車に誰にも見られないように乗った。
両親が、浮かない様子の娘の理由を知るのは、メイが帰ってきた次の日のことだった。理由が理由のため、両親はメイに対してどう接して良いのかわからないようだった。メイはずっと部屋に引きこもっていたけれど、とうとう部屋から出て、両親に、アーサーに婚約破棄してもらうように言ってきた、と告げた。
「…ごめんなさい、せっかくの結婚の話、駄目にしてしまって…」
そう告げると、両親は娘を抱きしめた。リズは、メイの自分と同じ栗色の髪を撫でた。メイが、更に謝罪の言葉を重ねようとしたが、2人ともメイを強く強く抱きしめるだけだった。
クリスマスイブの日、メイはアンナと一緒に馬車に乗っていた。昨日、リズがメイの部屋に来て、クリスマスは村に帰ってはどうかと提案してきたのだ。本来、貴族の令嬢となったメイが平民のところへ帰るなど言語道断ではあるのだが、メイの気晴らしにでもなればいいと、両親同士が相談したらしかった。
メイは、良いのだろうか、と思いながらも、今ここにずっといるのも気分が滅入る気がしたので、その申し出をありがたく受け取ることにした。
久しぶりの村に着いたのは、もう夕方だった。アンナとともに、村でのパパとママの家に訪れると、2人は突然のメイの訪問に驚いていた。2人は、しばらく会わないうちに、ずいぶん老け込んでいた。
アンナは、リズとオットーが持たせたお土産を馬車から次々と降ろした。それを見たママが、これで豪華なクリスマスになるわね、と微笑む。
「ココ…メイが来てくれたから、はりきって料理しないとね」
ママはそう言って腕まくりをした。メイは、そんなママを見て久しぶりに、自然に微笑んだ。アンナが、私も手伝います、と言って、一緒に台所に立った。
「私、動物たち見てきても良い?」
メイが尋ねると、パパが、ああ…と言いにくそうに声を漏らした。
「もう、動物を飼うのはやめたんだ。年も年だから…。畑も必要最低限しかしていないんだ」
「そう、なんだ」
「ターナー様から、メイのお礼にとご支援を頂いていてね。…断ってはいたんだけれど、2人ともそろそろ働けなくなってきたから、ありがたくご厚意をいただくことにしたんだ」
「そうなんだ…」
パパは、そう言って、ママの入れたコーヒーを飲む。メイは、久しぶりの村の家の空気を吸い込む。懐かしいこの匂い、空気、雰囲気。全てが心地よくて、泣きそうになった。それでも、確かに変わっているこの家に、寂しさも感じる。
クリスマスの夕飯を、4人で楽しんだ。村の話、畑の話、牧師さんの話。話題は尽きなくて、メイはずっと笑っていた。ジョセフは、もう結婚しているらしく、なんと来年には父親になるらしい。メイはそんな話に驚いて、そして笑った。
夜がすぐに来た。アンナだけ別室で寝ることにして、メイは久しぶりに、ママとパパと寝ることにした。ママと同じ布団に入り、少し離れた隣に違う布団に寝転ぶパパをメイは横目で見た。
「楽しくやってるかい?」
パパが優しくたずねる。メイは、うん、とつぶやく。
「手紙、ありがとうね。大事にしてるよ」
「うん」
「少し見ない間に大きくなったね」
「…そうかなあ」
「大人の女性になった気がするわ。街に行くと洗練されるのね」
「そ、そうかなあ」
「でも、笑うと昔のまんまだわ」
ママはそう言うと、隣にいるメイを抱きしめた。しわしわの冷たいママの手が腕に当たり、心地いいとメイは思った。
「…うちに帰ってくる?」
ママの言葉に、メイは目を見開く。ママは、メイに頬ずりをする。
「また一緒にうちで暮らそうか」
パパの言葉は、本音ではないことはよくわかっていた。メイは、涙をこぼしそうになるが、なんとか引っ込める。
「…ううん」
メイは服の裾を、布団の下で握りしめる。
「私は、あっちで生きていくよ」
そんな、メイの強がりに、そうか、残念だ、と安心したような二人の声が聞こえた。




