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メイは、全く眠れないまま、クリスマスパーティーの日を迎えてしまった。

パーティーは夕方からで、昼過ぎからドレスアップの準備がはじまる。それまでみんなそわそわとしており、宿舎の広間に集まって、楽しそうに今日がどんな日になるだろうか、という話をしていた。

パーティーに浮かれている他の生徒たちに全く馴染めず、メイはパーティーの時間まで部屋にずっと引きこもっていた。


「あなた、具合でも悪いの?」


他の友だちと話していたであろうハニーが、部屋に戻ってきた。ベッドに横たわるメイの方を覗き込むと、心配そうに眉を下げた。


「お医者様をお呼びしましょうか?」

「…大丈夫、ありがとう」

「もしかして、ダンスができるかどうかでナーバスになってますの?ご心配されなくっても、このハニーか教えて差し上げたんですもの、ぜったいに大丈夫ですわ。そもそも、このハニーが懇切丁寧に教えたんですから、バッチリ踊れなかったら許しませんことよ!」

「…ありがとう」


ハニーは、普段と違う様子のメイに、話すことを止めた。ハニーは、心配そうな顔のまま、私、失礼いたしますわね、と立ち上がった。


「…ねえ、ハニー」

「なんですの?」


ドアの前まで行っていたハニーは、メイに呼び止められると、急いでメイの側に駆け寄った。メイは、ベッドから体を起こすと、ハニーの目を見られないまま話しだした。


「…貴族の世界の話を、教えてほしいんだけど」

「え?ええ、なんでもおっしゃって?」 

「…体に大きな傷があると、婚約者には迎えてもらえない、とかあるのかな」


メイは、ハニーに聞きながら、そういえば、村にいたころも、この傷のせいで婚約がうまくいかなかったこともあったんだっけ、ということを思い出す。庶民でも受け入れられないのに、貴族の間では受け入れられることなんてあるわけがないか、とメイは思い直す。

ハニーは、メイの言葉に何かを察したのか、目を丸くした。


「…お姉様、」

「…ごめんね、変なこと聞いた。…ちょっと、喉が渇いたから、出るね」


メイは、ハニーの答えを聞けずに立ち上がり、部屋から出ていった。






着替えの時間になり、メイはまた背中の傷を他人に見せなくてはならなかった。昨日とは違う女性が着替えやヘアメイクをしてくれた。その女性も、昨日の女性たちと同じような反応だった。メイは、何も考えないように無心で着替えさせてもらった。




パーティーの時刻になった。校内にある大きな会場は、パーティー用に豪華に飾り付けられていた。大勢の生徒たちが会場に入っていく。

メイは、昨日選んだオレンジのドレスを身に着けて、会場を見上げた。どんどん会場の方へ歩いていく生徒たちとすれ違いながら、自分は前に進めないでいた。

自分は参加してもいいのだろうか。

メイは、ドレスをぎゅっと手で握りしめる。自分は、ここにいてもいいのだろうか。アーサーの婚約者として、参加しても良いのだろうか。

メイさんにはこんな傷なかった。アーサーの婚約者でいられたメイさんにはこんな傷。


「メイ」


後ろからアーサーの声がして、メイははっと息を呑む。笑わなくては。メイは、ドレスをぎゅっと握りしめる。後ろにいるアーサーには見られないように。笑わなくては。今は、今だけは。

メイはゆっくりと後ろを振り向いた。そこには、黒色の燕尾服を着たアーサーがいた。


「(わあ…)」


メイは、目の前にいるアーサーに、息を呑む。まるで空想の世界から出てきたような、そんな非現実的な美しさだった。


「…」


アーサーも、メイの方を見たまま固まっている。メイは、アーサーの視線に気が付き、自分の服装を見直す。淡いオレンジ色の、袖の膨らんだロングドレスである。他の人より派手すぎも地味すぎもしないはずである。メイは、もしかして、背中の傷が見えていただろうか、と思い、ばっと自分の背中を触ってみるが、傷の部分は確かに布で隠れていた。


ーーどこまで隠すつもりなんだろう。


昨日の女性たちの声が、メイの頭の中で反響する。

こんなこと、隠し通せるわけがない。こんな傷があるなら、自分が可哀想じゃなくなったら、なんて悠長なこと言わずに、アーサーのためにいち早く婚約者の辞退を申し出るべきである。それなのに。

アーサーは、メイを無言で見つめすぎていたことに気が付き、はっとして、口を開く。


「いや、すまない、君が、…」


アーサーは、メイから視線をそらすと、そこまで言って黙ってしまう。メイは、アーサーの瞳を見つめる。アーサーはしばらく黙ったあと、軽く咳払いをした。


「…いや、行こうか」


アーサーはそう言うと歩き出した。メイは、アーサーの後ろを少しの間の後、追いかけた。



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