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夕方になり、メイのドレス試着の番が着た。校内が試着会用に整えられており、男子禁制というようになっていた。
メイは事前に指定されていた部屋へ行った。すると、試着の手伝いをしてくれるらしき女性が2人いた。髪の長い女性と、短い女性だった。女性たちは親しみやすい笑顔を浮かべたまま、メイ・ターナー様ですね、とメイの名前を確認した。部屋には、着た姿を確認できる鏡が一枚置いてあった。
「ドレスを3着お預かりしております。どれにいたしますか?」
ごゆっくりお選びください、と言われ、メイは掛けられたドレスを眺めた。水色のものと、白いもの、そして、淡いオレンジ色のものがあった。
「(…これ)」
メイは淡いオレンジのものを手に取る。そのドレスは、なんとなく、アーサーが花祭りの日にくれた花の色に似ていた。
「(アーサーさんは、オレンジ色が好きだったのだろうか)」
そんなことをメイはふと考える。また胸の奥がきゅっと締まって苦しい。はあ、とため息を付きそうになった時、そちらが気になりますか、とメイは声をかけられる。
「あ、えっと、」
「一度、ご試着されますか?」
ニコニコ、と髪の長い女性に話しかけられ、メイは、おねがいします…と返した。
女性は、わかりました、と言うと、ドレスを試着するためになにやら色々と触りだした。メイが、不思議そうに見つめていると、髪の短い女性はメイの方に近づき、それでは、ご試着いたしましょう、と微笑んだ。
「はい」
「それでは、失礼いたします」
女性はそう言うと、メイの制服をてきぱきと脱がし始めた。メイは、ぎょっとして、あ、あの、と慌てて彼女の服を脱がす手を止める。
「じ、じぶんで、します…」
「でも、ドレスを着るときはお手伝いしないといけませんから。そんなにお恥ずかしがらずに」
顔を真っ赤にしたメイに、にこり、と微笑むと、女性は有無を言わせない手つきでぱっぱっとメイの服を脱がせてしまう。メイは、成すすべもないまま、棒立ちになるしかなかった。
髪の短い女性が、メイのワンピースの後ろにあるチャックを下ろし、メイの肩があらわになった時、声にならないような小さな悲鳴をあげた。
「え?」
メイは、髪の短い女性の方を振り向く。女性は、口に手を当てて、目を丸くしている。ふとメイが見えた髪の長い女性も、メイの背中を見て固まっている。何事か、と思っていたら、メイは鏡に自分の背中が映っているのが見えた。そこには、初めて直接見る、自分の背中の大きな傷があった。ひっかかれたような深く長い傷跡は、痛々しくかさぶたになり、ふくらんでいる。肌の色もその後のところだけ赤黒いままである。
「(あっ…)」
メイは今、自分にこんな醜い傷があるのだと知った。前から存在していることは知っていたが、こんなにも汚いものがあるとは知らなかったのだ。
女性たちは、失礼しました、と言って、慌ててまた手を動かし始めた。
メイは、ドレスを着た自分がどんな姿かをきちんと確認できないまま、試着を終えた。2人の女性は、わざとらしいほど愛想良くメイの試着の手伝いを終えた。
メイは足早に試着室を去った。部屋を出て、なんだか心臓が嫌な鼓動を打ちだしたため、部屋の前でメイはしゃがみこんでしまった。呼吸をなんとか続けて、心臓の鼓動を抑えようと努力した。しかし、頭がぐらんぐらんと揺れて、気持ち悪くなってきてしまった。
「さっきの人、ブラウン家の婚約者なんだって」
部屋の中から、さっきの女性の声がした。メイは、はっとして、俯いていた顔を上げる。女性の、ねえ、ほんとに、という、心底軽蔑したような声が聞こえた。
「あんな傷があるって、ブラウン家の方はご存知なのかしら?」
「知ってたら婚約なんてするわけないでしょ」
「隠してるの?」
「さあ。でも、どこまで隠すつもりなんだか」
「結婚しちゃえば勝ちって思ってるのかしら?」
「やだ…」
女性たちの話し声を聞いていられずに、メイは逃げるようにその場を去った。




