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テストも終わり、あと数日間の授業が終われば学校が開くクリスマスパーティー、それが終われば冬休み、という状況に、生徒たちは浮かれていた。

クラスメイトたちはずっとそわそわしていて、誰とパーティーに出席するの、とか、私まだ相手がいないの、というような話をしている。クラスメイトたちと、そういった話をしていたとき、メイは、え、と声を漏らす。


「パーティーって、一人で参加できないの?」


パーティーというものの解像度がメイには低く、きれいな服を着て美味しいものを食べて、談笑するくらいなものだと思っていた。話の輪にいたクラスメイトたちは全員言葉が止まり、メイは変な空気に気が付き、ちらりとハニーを見ると、このおにぶちん、といいたげな顔をしていた。


「ま、まあ、参加できなく、もない、ですけれど…」


クラスメイトの一人が、言葉を選んで話し出す。


「でも、なかなかハードルが高いわよね」

「そうそう。ダンスもあるし…」

「一人ではちょっと、ねえ…」


メイ以外のクラスメイトたちが顔を見合わせて、そうよねえ、と言い合う。メイは、ダンス、という言葉に固まる。


「(だ、ダンス?ダンスってなに??)」

「まあ、メイはアーサー様がいらっしゃるから」

「そうよね、お相手探しの問題はありませんわね」

「羨ましいわ。アーサー様と踊れるなんて…」


うっとりとして話すクラスメイトたちの声が、メイには遠かった。




ダンスと言う大問題がメイに立ちはだかった。メイは、どうしようか、と考えながら廊下を歩いていると、メイ、と呼び止められた。声の方を見ると、アーサーとダニエルがそこにいた。


「こんにちは」

「君に聞きたいことがあって」

「聞きたいこと?」

「クリスマスパーティーには参加するか?」


アーサーの言葉に、なるほど、参加しないという手もあるのか、とメイは気が付く。ダンスが踊れず醜態をさらして、アーサーに恥をかかせるくらいなら、欠席したほうが良いかもしれない。そう思ったメイに、ダニエルの、参加しないわけないよね、という声が降ってきた。


「(うっ…)」

「メイちゃんが参加しなかったら、アーサーも参加しづらいし、そもそも、こんなにたくさんの貴族の人間が集まる場に集まらないなんて、そんなことはないよね」


メイは、ダニエルがメイの参加したくない気持ちを知っていてそんな圧をかけてきていることがわかった。そして、参加しないことが今後の貴族生活に傷をつけるということも示唆している。アーサーが、待て、とダニエルを止める。


「無理強いさせるな。彼女は社交パーティーに不慣れなんだ」

「でも、いつかは参加しなくちゃならないでしょ?」

「練習は、もっと小さいものからの方が良い」

「だ、大丈夫です、私参加します、したいです」


服の裾を掴みたくなるが、アーサーに無理しているのがばれてしまうので、メイは、こらえてそう言う。アーサーは少し心配そうに、そうか、という。


「なら、俺がエスコートする」

「はい、お願いします」

「(…)」

「(…?)」

「(…本当に俺で良いのか?)」

「(えっ、もしかして、エスコートを辞退しろって思ってる?)」

「さあ、決まったことだし、メイちゃんアーサーにダンスを教えてもらいなよ。いきなりは踊れないでしょ?」


ダニエルの言葉に、メイは、え、と固まる。アーサーは、それもそうだな、と言う。


「俺でよければ相手になる」


アーサーはメイを見る。メイは、固まる。彼女の少ない知識から掘り起こされるダンスというものは、男女が密接にくっつくものであり、それをアーサーとするなんて、メイにはとてもできなかった。メイは、高速で頭を振り、友だちに聞きます!と言ってその場を逃げた。赤い頬がアーサーに見えていないといい、と思いながら。



「あらま、照れてるね、メイちゃん」

「(…嫌がって、いなかっただろうか…)」








図書館で、とりあえず踊り関係の本を借りてきて、メイは夜に宿舎で社交ダンスの本を読んでいた。そんな様子を、ハニーは呆れたように見ている。


「あなた、踊れませんの?」

「だって、覚えてないし…」

「貴族社会に来てもうどれくらい経っておりまして?そんなものは甘えですわ!」

「う…ダンスというものをするってことすら思いつけないし…」

「そんなもの言い訳でしかありませんわ!この世界で生きていく覚悟が足りなくってよ!」


ハニーの言葉が胸に刺さる。自分はまだ、お嬢様メイとして生きていく覚悟がないのだ。それは確かにそうなのかもしれない。

図星なメイが項垂れていると、ハニーがため息をついた、


「仕方ありませんわ。今回だけ特別に、ハニーが教えて差し上げてよ」

「ほんとう?!」


メイは立ち上がり、ハニー大好き!と言って抱きついた。ハニーは、顔を耳まで赤く染める。


「(お姉様…っ!)」

「持つべきものは優しい友だちだよ…!」

「…っ。た、たくさん感謝なさいねっ!」



そうして、パーティー本番二日前の夜、メイはハニーに基礎を教えてもらえることになった。



数時間経ち、なんとか基本的なことはわかったメイ。もう夜も遅いので、また続きは明日ということになった。


「これで、まあ、無様なことにはならないでしょう。アーサー様のエスコートがあれば、ひどいことにはならないんではなくって?」

「ありがとう、本当にありがとう…!」

「さあ、夜更かしはお肌に悪くってよ」


メイは、またハニーにお礼を言って、ベッドに戻る。踊り疲れた体はくたくたで、久しぶりにこんなに動いたな、と思う。


「(…私、アーサーさんと踊ることになってるけど、本当にそれでいいのかな)」


メイは、ふとそんなことを考える。婚約者なのだから、それでいいのだろう。まさかあのアーサーが、いや俺本当はこの人が好きだからと、公式の婚約者のメイを差し置いて別の人を連れては来ないだろう。連れて来るとしても、もっと前から教えておいてくれるだろう。


「(…アーサーさんは、私でいいんだろうか)」

 

そう思うと胸が苦しい。今日、眠れるだろうか、なんてことをメイは思った。





今日は午前中の授業だけで、午後から生徒達はそれぞれの家から送られてきたパーティーの衣装の試着をすることになっている。

午後の授業を終えて、ランチも食べ終わり、メイは自分の番が来るまで勉強しようと思って、図書館に向かった。自分の番が夕方の時間を指定されていたので、しばらく時間があるな、と思いながら、メイは勉強をした。テストが終わり、明日はパーティーだという日の図書館で勉強している人はメイ以外におらず、静かだった。

二時間ほど勉強をしたあと、ふと、昨日ハニーに教わったあのダンスはどうだったろうか、という疑問がわいた。なんだか気になって、メイは一旦図書館からでて、人気のないことを確認して、こそこそとダンスのステップを踏んだ。


「(うーん、こうか?)」


必死に思い出しながらメイは体を動かす。


「…なにしてるの?」


落ち葉を踏む音が聞こえて、え、と振り向くとエドガーがいた。エドガーは本を持っており、図書館に行く途中だったようだ。


「エドガー!」

「明日のためのダンスの練習?」

「あ、う、うん…」


なんだか恥ずかしいところをみられた、と思いながらメイは照れ隠しに前髪を直した。メイは、そうだ、とエドガーの方を見る。


「エドガーは誰とパーティーに参加するの?」


エドガーにそういう相手はいるのだろうか、周りからは人気があるようだけれど、と思いながらメイは尋ねる。するとエドガーは、誰とも、と首をふる。


「誰とも?」

「うん。一人で参加するよ。毎年そうだよ」

「そうなんだ」

「窓から星を見ながら、ダンスの音楽を聴いているのが好きなんだ」


その言葉がエドガーらしくって、メイは小さく笑う。メイは、少しだけ跳ねて、ねえ、とエドガーに声を掛ける。


「私、ステップとか、変なところないかな?」

 

メイはそう言って、一人で踊りだす。エドガーは、そんなメイを見ながら、上手上手、と声を掛ける。いつもの抑揚のない様子に、メイは、もう、と少し怒って言う。


「真剣に見てないでしょう」

「俺に聞くのが間違ってるよ」

「…それもそっか」


メイの言葉に、エドガーが小さく吹き出す。そんなエドガーにつられて、メイも笑う。エドガーは、笑ったまま、メイを優しい瞳で見つめる。メイは、そんなエドガーには気づかずに、また練習を始める。


「ねえ」


エドガーがメイに呼びかける。メイは、なに、とステップを止めないで答える。


「もしまだ、アーサーと婚約破棄したいなら、明日は俺にエスコートさせてよ」

「えっ」


突然のエドガーの申し出に、驚きすぎたメイはバランスを崩し、そのまま地面に倒れ込む。メイは、倒れたことに驚けないまま、エドガーを見上げる。なぜ婚約破棄したいと思っていたことを知っているのか。なぜエドガーが自分をパーティーに誘ってくれるのか。


「あっ、えっ…」

「大丈夫?」


エドガーは、メイの前でしゃがみ込み、メイに手を差し伸べる。メイは、地面に座り込んだまま、少しだけ体勢を整えた。


「なんで、私がアーサーさんと婚約破棄したいって…」

「前に俺と婚約できるのか聞いてきたから。そうなのかなって」

「…」


メイは目を伏せて、エドガーから視線をそらした。エドガーのことは好きだ。それは確かだ。それにメイは、アーサーと婚約破棄したほうがいいと考えていた。それも確かだ。それなのに、メイはエドガーの方をみられない。

エドガーはそんなメイを見て、小さく微笑み、彼女に差し出していた手を引っ込めた。


「やっぱり、メイはアーサーが好きなんだ」


エドガーは、しゃがんだ自分の膝のうえで頬杖をついた。メイは、エドガーの方をおずおずと見上げた。


「…ごめんなさい、前は、変なことを言って。エドガーがそんなふうに思ってくれてるのに、私、すごく無神経なこと言ってしまった」

「全然大丈夫だよ。メイにはもっとずっと前に振られて、吹っ切れてるから。それからはずっと、メイのいい友達でいようって決めたんだ」

「えっ、そ、そうなの…」

「まあ、隙あらばとはいつも思ってるけど」

「ええっ、うそ」

「さあ、どっちだと思う?」

「ふ、ふざけてないで…」

「どちらでも同じだよ。メイがアーサー以外を好きになったことはないんだから」


エドガーの言葉に、メイは、最近自分が、もやもやと考え込んでいたことが全部すっきりするのがわかった。まるで、謎が解けたかのような、そんな気持ち。こんなことを、なぜ気が付かなかったのだろうか。そうだ、私は、アーサーさんが好きなんだ。メイはそんなことを頭の中で復唱した。

エドガーは立ち上がると、メイにまた手を差し出した。


「ほら、これ以上やって怪我すると明日が台無しだよ」


エドガーの手を取り、メイは立ち上がる。メイが立ち上がったのを見ると、エドガーは手を離す。そして、俺は図書館寄っていくから、と言ってメイの前から去った。メイが、ありがとう!と言えば、エドガーは、背中を向けたまま、メイの方に手をひらひらと揺らした。


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