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先にメイは図書館へ行き、勉強を始めた。その約30分後にアーサーがやってきた。アーサーはメイの隣に座り、自分の勉強を始めた。とりあえず、いつものように隣に座ってくれたことにメイは安堵する。しかしすぐに、彼は花祭りのことはなんとも思っていないからか、と気が付きまた傷ついた。
わからない問題があれば、メイはアーサーに尋ねた。アーサーは自分の勉強の手を止めて、すぐにメイの疑問に耳を傾けて、彼の中で問題を理解すると、いつものわかりやすい解説をしてくれた。メイは、余計なことは考えず、勉強に集中することにした。
夕方になり、図書館で勉強していた生徒たちがちらほらと帰宅しだした。メイとアーサーもキリのいいところでお互い手を止めて、一緒に帰ることにした。
図書館を出て宿舎へ2人で歩き出したとき、アーサーが口を開いた。
「明日もいつもの席で待ち合わせようか」
アーサーの申し出に、メイは、え、と漏れた声が裏返った。
「さ、さすがに悪いです。テスト前日なのに…」
「もう、大方範囲は終わっているから、構わない」
「…すごいですよね、アーサーさんって…」
1週間以上テスト直前に学校を休んで家の仕事をしていたのに、なぜ勉強が完璧に終わることができているのか、メイには不思議で仕方がなかった。
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな…」
「ああ」
メイは、お世話になります、と頭を下げる。アーサーは、たいしたことじゃない、と返す。
「アーサーさんって、クラスメイトにも勉強教えてあげたりするんですか?」
「しないな。聞かれることがない」
「(聞きにくいんだろうな…)エドガーとか、ダニエルさんからも聞かれないんですか?」
「ダニエルは自分で解決できるから、人に聞く必要がないんだろう」
「ダニエルさんって頭良いんだ…。でも言われてみたら、良さそう」
「エドガーは、勉強にそこまで熱心じゃないからな。それでも、成績は良いほうだな。あんなに授業中寝ているのに…」
「あはは、エドガーっぽい」
「あいつは、やればできる奴だからな」
「そうなんですね」
「何を考えているのかわからないが、根はいい奴だ」
「はあ(それをアーサーさんが言うんだ)」
「…」
「…」
メイは、アーサーの言葉に、ん?と疑問符が頭に飛ぶ。
「(やっぱり、私がエドガーを好きだと思われている…?)」
確かに、アーサーの前でエドガーに花を渡したから、そういう風に思われても仕方がないだろう。
「(もしかして、エドガーをとっとと好きになって、婚約解消したらいいのに、とか思われてたりする…?)」
「(明日は俺とではなくエドガーと勉強したらどうかと勧めるべきなのか?…その方が良いことは分かっているが、言い出せない…)」
「…」
「…」
何となく沈黙が重くなってきたのをメイは感じた。その時、アーサーがそうだ、と呟いた。
「すまない、寄りたいところがあるんだが、構わないかな」
「え?はい」
「すぐに終わる」
アーサーはそう言うと、宿舎とは違う方向へ歩き出した。メイは、それについていく。
アーサーの後をついていくと、メイは校内にある教会にたどり着いた。教会に入り、アーサーは十字架の前に行くと、自分の首元に手を入れて、シャツの中に入れていたらしいペンダントを取り出した。そして、祈りのポーズを取った。メイはアーサーの隣に立ち、一緒にお祈りをした。
数分間の祈りの後、アーサーは、すまなかったな、とメイに言った。メイは首を横に振った。
「それじゃあ帰ろうか」
「はい。…アーサーさんって、教会にお祈りするのって、日課なんですか?」
「そうだな。今日は実家から帰って慌ただしくて、足を向ける時間がなかったんだ」
アーサーは、ペンダントをシャツの中にしまいながら言った。メイは、そうなんですか、と返す。
「どんなことをいつもお祈りしてるんですか?」
「…」
アーサーは少し考えるように黙ってしまった。メイは慌てて、あの、言いたくなかったらいいんです、ごめんなさい変なこと聞いて、と言った。するとアーサーは、いや、と言った。
「もう、願いは叶ったんだ。だから、叶えてもらえたことの礼を伝えているんだ」
「…?」
メイはよくわからずに首を傾げる。アーサーは、少し気まずそうにメイから視線を反らしたあと、さあ帰ろうか、と言った。メイは、はい、と頷いた。




