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テスト前の休み期間へと突入した。この学校では、テストに入る前に、3日〜4日の授業休みがあり、その間に教師はテストの最終準備をして、生徒たちは勉強をする、ということになっている。今回のテスト前休暇は、3日の休みらしい。
メイは毎日図書館に通っていたが、テストが近づくごとに、図書館で勉強する生徒の数は増えていった。
テスト前の休み期間に入ったらアーサーが帰ってくるとのことだったが、テスト前休暇初日に、図書館やカフェテリアを探したが、アーサーの姿は見つからなかった。
そして、2日目の午前中、メイは勉強に区切りをつけると、早めのランチを取りにカフェテリアに向かった。朝、昨日と同じようにアーサーを探したが見つからず、あきらめて図書館で勉強していたのだ。
アーサーの誤解を解けていないことがどうもメイの気をもみ、それを考えたくないからメイは勉強に打ち込んだ。しかし、今回のテストは間違いなく補習になるだろう。メイは、負け試合に挑むしかないことにモチベーションが上がらなかったが、やれるところまでやろう、という気概で勉強していた。
カフェテリアで早めの昼食を終えて、図書館に戻ろうとしていたとき、メイちゃん、と呼ばれた。振り返るとそこにはダニエルと、なんとアーサーがいた。
「あっ」
「アーサー、さっき帰ってきたみたいだよ」
ダニエルは、ね、とアーサーに言う。アーサーは、ああ、と頷く。メイは、そうなんですね、大変でしたね、と返しながら目が泳いだ。ダニエルはそんなメイを見ると小さく微笑んだ。
「メイちゃんは、補習回避できそう?」
「えっ、…私にそれを聞きますか…」
「なら、アーサーと一緒に勉強したら?わからないところ教えてもらえるし」
ダニエルのわかり易すぎる援護に、メイは動揺する。いやさすがにテスト直前は迷惑だし、とメイはおどおどしながら言った。
「構わない」
アーサーは、何でもないようにそう答えた。メイは、アーサーの方を見た。いつもの無表情で、何を考えているのかわからない。ダニエルは、にこにこ笑うと、じゃあ決まりだね、と言った。
「それじゃ、僕はこれで」
ダニエルはそう言うと2人の前から去っていった。メイは、気まずさに耐えきれず、お願いだからいかないで欲しい、という気持ちで一杯だった。
「昼食はとったか?」
アーサーはそうメイに尋ねた。メイが頷くと、そうか、とアーサーは言った。
「俺はまだなんだ。すぐに済ませるから、先に図書館に行っていてくれ。いつもの席で待ち合わせよう」
アーサーは、そう、いつものように言う。花祭りのことなんて、何も気にしていないようだ。メイは、アーサーのその様子に傷つく。やっぱり、アーサーにとっては、どうでもいいことだったのだ。わかっていたことのはず。傷つくほうがおかしい。メイはそう言い聞かせるけれど、心が言うことを聞かずにどんどん沈んでいく。
「それじゃあ、また後で」
そう言って去ろうとするアーサー。メイは、アーサーの背中を見つめる。言わなくては。言わなくては。言わなくては。
「あのっ…」
絞り出すように言葉を出した。アーサーは振り返る。
「どうした?」
「花祭りのこと、あの、謝りたくて…」
メイは、アーサーの瞳を見つめる。けれど、まっすぐに見つめられずに目をそらしてしまう。
「…あの日は、アーサーさんから花をもらったのに、私、」
「何も謝ることなんてない」
アーサーは、メイの方を見てそう言った。メイは、え、と声を漏らす。アーサーのいつもの無表情な様子に、彼が何を考えているのかわからずにメイは混乱する。
「君は、渡したい相手に渡した。それだけだ」
「あの、」
「よかったじゃないか。君は君の行く道を見つけている。それが一番じゃないか。俺に気を使うことはない」
アーサーは、そう淡々と返す。メイは、そんなアーサーの様子に、ああそうだ、婚約者といえど、この人は私のことは本当に好きではなかったんだった、と思い出す。ただ、彼がとても優しい人だから、メイのことを心配していただけ、ただそれだけ。わかっていた。わかっていたつもりだった。
「そう、ですよね…」
「ああ。…それじゃあ、また後で」
アーサーはそう言うと、またメイに背中を向けて歩きだしてしまった。




