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アーサーとダニエルと別れてから、メイは教室に戻った。席に着くとすぐに先生がやってきて、メイは慌てて机から教科書を取り出した。

授業中ふと教室の窓から外を眺めていると、確かに今にも雨が降りそうな天気だった。


午前中最後の授業が終わり、メイはハニーや他の女子生徒たちとランチを取りに行こうかと話していたとき、廊下が騒然としているのに気がついた。教室の中で、混雑するカフェテリアに急いで行こうとしていた生徒たちの足が止まっている。何事かと思っていたとき、教室のドアからアーサーが姿を見せた。


「(騒ぎの原因はあの人か…)」

「早く行ってらっしゃいませ!」  


ハニーにはやくはやくと背中を押され、メイはアーサーのところに向かった。教室の中にいる生徒たちが、みんなアーサーの方を見て顔を赤くして固まっている。アーサーは、こちらに来るメイを見て、すまない、と言った。


「あの、どうしましたか?」

「さっき会えたときに伝えたかったんだが、今日の勉強会なんだが、用事ができていけなくなったんだ。討論会の準備をしようということになって」 

「ああ、そうなんですね。頑張ってください」

「突然すまない。明後日なら時間がとれるんだが、その日に振り替えてもいいだろうか」 

「はい、ありがとうございます」 

「友人と昼食に行くところだったかな、引き止めてすまない」


アーサーは、メイと昼食に行くために待っている友人たちの方を見て、待たせてすまなかった、と謝った。アーサーに声をかけられたメイの友人たちは、今にも息が止まりそうなほど顔を紅潮させ、アーサーの言葉に何も返事ができないでいた。


「それじゃあ」

「はい、それでは」

「…友人がたくさんできたみたいだな」

「え?」

「いや、…楽しそうでよかった」


アーサーはそう言って小さく笑った。その瞬間、声にならないような悲鳴が色々なところから聞こえてきた。メイは、はい、と笑って返す。

それじゃあ、とアーサーは言うと背中を向けて去っていった。

ふとメイが廊下に視線をやると、なかなかアーサーを見る機会がないせいか、彼を一目見ようとメイと同学年の生徒たちが大量に集まってきていた。


「(相変わらずだなあ…)」 

「あら、勉強会は続いていらっしゃるのね」


ハニーは、ふふふ、と楽しそうにメイの背後から近づいてきた。メイは、ま、まあね、と返すと、仲がよろしいようでなによりですわね、と意味深にいった後、さあ、ランチへ行きましょう、とメイの手を引いて歩いていった。まだ固まっているランチの約束をしていたクラスメイトたちも、ほら行きますわよ、とハニーが腕を引いた。





放課後、メイはクラスメイトとしばらく談笑してから教室を出た。外は薄暗く、窓には雨粒が打ち付けられている。

アーサーとの約束がなくなってしまったので、今日は図書館でいつもの勉強をするか、と考えながらメイは歩みを進める。

ふと、数人の生徒たちがちらちらととある教室を覗いているのが見えた。メイは、なんだろうと思って、彼らの視線の先を見ると、アーサーとリリアが二人で机に座り、向かい合って何やら話し込んでいた。資料や本をたくさん持ち込んでいて、メイにはわからないような難しいことをしているようだ。討論会の準備とは聞いていたが、メイの今のレベルでは到底理解できなさそうだ。


「お似合いね…」

「そうよね、噂で終わってしまうなんてもったいないくらい」


見ていた生徒の一人がそう漏らす。その言葉に、メイは納得してしまう。美しい男女2人が揃うと眩しくて、まるで自分とはちがう世界の人みたいに見える。

本当にあの人は、私と婚約者でいいのだろうか。

メイにはそんな思いが湧いてくる。やっぱりこんな婚約駄目だ、私は私で新しい道を見つけないとと、いつもならそう意気込むはずなのに、なぜか今、メイは傷ついていた。それがなぜか、彼女にはわからない。

メイは、教室から視線をそらし、さっと図書館に向かった。




アーサーは、リリアと来週開催される討論会の準備を、空き教室でしていた。一段落したころ、リリアが感心したようにため息をついた。


「アーサー様は流石です。とても博識でいらっしゃるし、説明の仕方も簡潔でわかりやすい。勉強になりますわ。私、本番で足を引っ張らないか不安です」

「君は優秀だから大丈夫だ。6年生以外が選ばれること自体珍しいのに、女子生徒が選ばれるのはこれまでで初めてだと先生もおっしゃっていた」

「あら、アーサー様は1年生から選ばれていらっしゃるでしょう?」

「…自慢のつもりはなかった」

「いえ、そう意味ではありませんわ」


ふふ、と口元に手を当てて微笑むリリア。アーサーは、はたと教室の外を見た。そんなアーサーを見て、リリアがアーサーと同じ方を見る。そこには、数人の生徒たちが興味津々にこちらを見ていた。


「(…今、メイがいたような)」

「ごめんなさい、なんだか大事になってしまいましたね」

「え?」 

「板書が使えたらと思って教室を私が提案してしまったから…」


集まった生徒たちの方を見て、リリアが困ったように微笑む。生徒の数は時間とともに増えていく。このまではものすごい数になりそうである。


「図書館のほうが集中できましたでしょうか?なんだかここだと目立ってしまいましたね」

「いや、構わない。大方まとまったし、もう今日は終わろうか」

「はい。…アーサー様も大変ですね」  


リリアが目を伏せながらそう言う。少し疲れたような、そんな表情をしている。彼女はその容姿や立ち振舞、そして家柄から、学校内でも噂が絶えない。憧れる生徒ももちろん多く、そのために常に監視されているような状況にあった。アーサーも、彼女と似たような、もしくはそれ以上の状況だが、彼女の気遣いに、そうでもない、と軽く返したあと、何かに気がついたように、すまない、と謝った。


「俺との噂が流れていたんだったな。すまない、気に病ませてしまったかな」

「いえ、そういうわけでは…」

「…天気も悪い。これ以上暗くなる前にお互い帰ろう」


アーサーはそう言うと、鞄に荷物をしまった。リリアは、はい、と言うと、帰る準備を始めた。







翌日、教室に向かう途中で、メイはアーサーを見かけた。アーサーはメイに気がつくと、声をかけてきた。

メイはアーサーを見上げながら、昨日のことを思い出して胸が少し締め付けられるのを感じた。


「昨日はすまなかった」

「いえ…」


メイは、なぜかアーサーの顔がちゃんと見られなくて目線をそらす。そんなメイに、アーサーが不思議そうな顔をする。

なぜだろう。メイはわからなくなる。アーサーに良い人が現れたら良いと思っていたのに、実際彼によく似合う女性と2人で居たところをみたら、どうしたことか自分は傷ついてしまっている。


「あの、昨日、リリアさんと…」


なぜか、そんなことをメイは口走っていた。アーサーは、ああ、と何でもないように返事をする。


「昨日は討論会の準備をしていたんだ。来週開催されるんだが、」

「アーサーさんとリリアさん、2人でいるところをみたんですけど、なんだか、お似合いでしたよ」


メイは、また余計なことを口走ってしまった、と背中に汗をかいた。こんなことを言って、私はこの人になんて言ってほしいんだろう、とメイは混乱する。アーサーは、さらにきょとんとした顔をする。メイは耐えきれず、それでは、と言ってアーサーの前から去った。


「(……?)」


アーサーは、去っていったメイの背中を見つめながら、彼女のよくわからない言動の意図がわからずに固まっていた。

すると、後ろから左肩を抱かれた。何かと思えば、ダニエルが楽しそうな笑みを浮かべてアーサーを見ていた。


「ダニエル…」

「メイちゃん、やきもちやいてるんだね。いじらしいじゃない」


ダニエルはそう言って、アーサーの肩から手を離し、彼を軽く肘で小突いた。アーサーは、少し考えた後、いや、と呟く。


「(……あれは、……俺の新しい婚約者を探されている……)」

「どうしたの?」






アーサーは、教室で次の授業が始まる前に予習をしていた。隣の席のエドガーは、前の授業の途中から今までずっと居眠りをしていた。そろそろ起こしてやるか、とアーサーが考えていたとき、教室が色めき立つのがわかった。クラスの男子たちが、廊下の方を見て何やらわかりやすくはしゃいでいる。アーサーは、何事かとは思ったが特に深く考えず、エドガーを起こそうと、隣の席の彼に手を伸ばした。


「アーサー、お客さんだよ」


クラスの男子が頬を染めてにやにやしながらアーサーに話しかけてきた。アーサーが、え、と呟き、廊下の方を見ると、そこにはリリアがいた。アーサーは、野次馬と化しているクラスメイトの間を塗って、彼女の方に向かった。


「どうしたんだ?」

「あの、もうすぐ討論会が開催されるかと思うと、初めてなので不安で…。もしよろしければ、また昨日みたいな時間を作っていただくことは可能でしょうか?」

「構わないけれど…」


アーサーは、周りの男子生徒たちの好奇の視線と、やっぱりあの2人は…などという噂話が耳に入ったので、まずいな、と心の中で呟いた。不安そうにしていたリリアは、アーサーの言葉にぱっと表情を明るくした。


「ありがとうございます。では、いつに…」

「ただ、俺の友人も一緒に連れて行っても良いか」

「えっ」


リリアが固まる。しかしすぐに、なぜでしょう、と尋ねる。アーサーは、リリアとアーサーの会話をなんとか聞こうとしているクラスの男子から遮断するため、教室のドアを閉めた。


「2人きりで会うのはやはりよくない。またあらぬ噂が回って、君を傷つけることになる。俺と噂を立てられて、君は迷惑しただろう」

「そんな、迷惑だなんて…」

「そういうわけだ。日時は明々後日なら空いている。君はどうだろう」


アーサーの言葉に、リリアは少し黙った後、大丈夫です、ありがとうございます、と返した。




そして、アーサーの最後の討論会は終わった。アーサーとリリアは優秀賞を受賞して、校内でもその話題で数日もちきりだった。アーサーとリリアはすごい、という話をクラスメイトから聞くたびに、なぜかメイは傷ついた。他のクラスの人たちが、やっぱりあの2人がお似合いだという噂をしていることを知っているからだろうか、それとも、本当に2人がお似合いだとわかっているからだろうか。メイは、朝の会で配られた、2人が受賞したということを書いてある校内新聞を片手に、はあ、とため息をつくしか無かった。




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