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嵐のような初日から始まったメイの学校生活だったが、初日以降も噂や陰口は常にメイについてまわった。ただ、初日と違ってハニーと話すことができる分、かなり状況はマシになったような気がしていた。

しかも、新学年が始まって最初の土日が明けると、噂や陰口は明らかに減っていた。時間がたって、噂のネタの面白みもそほそろ味がしなくなってきたのだろうか、メイはほっと胸を撫でおろす。


「(このまま時間が解決してくれるのを待とう…今は耐えるのみ…)」


そう思いながら、教室で次の授業が始まるのを待っていたメイに、教室の廊下側の窓から、親しげに手を振る男子生徒が見えた。メイは目を凝らすが、見たことがない。しかし、あんなに親しげなのだから、記憶を失う前の友人かもしれない。そう思ってメイは立ち上がり、彼のそばに向かった。

男子生徒は、青色のネクタイをゆるくしめていて、六年生だとわかった。肩までありそうな銀髪を、一つに結んでいる。凛々しい眼差しの奥には、青色の瞳が輝いている。整った顔立ちをしていて、クラスの女生徒たちが色めき立っている。メイが彼の顔を見ようと見上げると首が痛いと思うほど、彼の背は高かった。


「(わ、私の昔の知り合いの貴族の息子はイケメンの法則…)」

「やっと会えたね、メイ・ターナー」


男子生徒は社交的な様子で微笑むと、メイに手を差し出した。メイは、え、ええ、と言いながらその手を取って握手をした。男子生徒は親しみ気のある微笑みをしているが、なんとなく腹の底が読めない雰囲気を纏っている。


「あの、…失礼ですが、私の昔のご友人…とか?」

「まさか。はじめましてだよ」

「は、はあ…」


なら私に何か用があるのだろうか、と不思議そうに彼を見上げる。彼は、ああ、申し遅れました、と笑みを絶やさずに言った。


「僕は、ダニエル・フォークナー。フォークナー男爵家の、…長男です」

「どうも…」

「あのアーサーに婚約者ができたっていうから、どんな人か見に来たんだ」

「そ、そうなんですか…(ということは法則は成立せず…)。アーサーさんのご友人ということですか?」

「まあただのクラスメイトかな。これから仲良くしようね」


そう言って気さくにウインクをしてみせるダニエル。メイは、女性に人気ありそう、と内心思いながら苦笑いを返す。ダニエルは、メイ越しに教室を見渡した。そして、教室の中で、ダニエルに熱い視線を送る女生徒たちに、気軽に手を降ってみせた。すると、女生徒たちが、きゃあ、と黄色い悲鳴をあげた。


「(…サービス精神旺盛だな…)」

「…あのアーサーに婚約者なんてね…」

「え?」

「いや、とうとう皆の高嶺の花にフィアンセが現れたのかと思うと感慨深くてね」


はは、と軽く笑うダニエルに、つられて愛想笑いをするメイ。


「おっと、そろそろ帰らないと。じゃあまたね、メイちゃん」


ダニエルはそういうと、メイに親しみやすそうな笑顔を見せて去っていった。なんだったんだろうあの人は、と思っていたメイの背中から、なんでダニエル様まであの人と、そもそもアーサー様がいるくせに、などという言葉が聞こえてきて、メイはげんなりした。


席に戻ろうとしたメイに、ちょっとあなた、とハニーが呼び止めた。


「なに?」

「さっきのは、ダニエル・フォークナーですわね?」

「そ、そうだけど…」

「あなた、こんなにこの学校にいて、彼のことも知らないの?」

「いや、まだ一月もたってない…」

「言い訳はよろしくてよ!…彼は、キケンですわ」


ハニーが口元に手を当ててひそひそ話をするようにメイに話す。メイは、危険?と小声で返す。


「彼に泣かされた女生徒は数しれず…。婚約者がいようがいまいが、狙った獲物は逃がさないハンターのような男ですわ!甘いマスクと甘い言葉に心を許してはいけませんわよ!奴は女の敵ですわ!」

「そ、そうなんだ…」


自分が狙われるとは思えないメイは、他人事のようにハニーの話を聞いていた。






朝の会で、アーサーさんとリリアさんが、この学校の代表として、来月の討論会に出ることになった、ということが発表され、生徒たちが感心のため息を漏らしていた。

そもそも討論会とは何なのかわからなかったメイがハニーに聞くと、どうやら、国中の学校から優秀な生徒が代表として集まり、議題について議論を繰り広げる大会だということがわかった。アーサーさんは、1年生のころからずっと選ばれているらしい。メイは、相変わらずよくできる人なんだな、と心の中で呟いた。





授業の合間に少し息抜きをしようと廊下を歩いていたら、反対側からアーサーとエドガーが一緒に歩いているのが見えた。メイは、2人が歩いているのを見ながら、2人は仲が良かったんだ、と思った。2人が揃うと壮観で、周りの生徒たちも釘付けのようである。アーサーがメイに気がつくと、彼女の名前を呼んで近づいてきた。


「移動教室か?」

「いえ、気晴らしに散歩を…」


そうか、と言ったアーサーの言葉に被せるように、メイちゃん、という声と、見覚えのある笑顔が見えた。


「あ…」

「君は、同じクラスの…」

「ダニエルだよ、って、さすがに知ってるか」


アーサーが少し驚いたように彼を見た。ダニエルは、メイちゃんの姿が見えたから来ちゃった、と親しげにメイに話しかける。


「ふたりって、知り合いだったんだね」


エドガーが言うと、まあね、とダニエルがメイに向けてウインクをした。メイは、相変わらず軽いな、と思いながら苦笑いをした。すると、アーサーの纏う空気が張り詰めた。それを察したダニエルが少し驚いた顔をした。アーサーは、無表情ながらも怒っているのがわかる様子でダニエルの方を見た。


「なぜ彼女を知っているんだ」

「挨拶に行ったからさ。君の婚約者がどんな人か気になってね」 

「…彼女は見世物じゃないんだ。冷やかしで行くと彼女に迷惑がかかるからやめろ」


どうしようかな、ととぼけるダニエルに、アーサーが、また空気を張りつさせる。そんな2人をはらはらと見守っていたメイに、そういえば、とエドガーが話しかけた。


「勉強はどう?ついていけてる?」

「あ、…それがなかなか…」

「よかったら教えるよ。今日の放課後時間ある?」

「いいの?」


メイは目を輝かせた。それじゃあ、待ち合わせは、と続けるエドガーを、アーサーが遮る。


「俺が教える。今日の放課後、図書館に集合する」


アーサーがメイを見て、いいな、と念を押す。そんなアーサーを、驚いた目で見るダニエル。エドガーが、大丈夫なの?と聞く。


「アーサー、討論会の準備やらなんやらでしばらく忙しいじゃん」

「問題ない」


アーサーは、メイの方を見て、図書館で待っているからな、とまた念を押して、メイの横を通り過ぎていった。エドガーは、じゃあね、とメイに手を振るとアーサーの後ろに続いていった。


「ああいう顔するんだ…」


ダニエルが冷たい声で呟く。メイが、え、とダニエルの方を見る。ダニエルはメイの視線に気がつくと、ぱっと表情を笑顔に変えた。


「愛しの婚約者のためだもんね。愛されてるね、メイちゃん」


ダニエルはそういうと、二人の後を追って歩いていった。メイは、アーサーと勉強会をするという事実をなかなか理解できず、しばらく固まっていた。






10/30 アーサーの台詞修正

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