表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/33

10

メイが宿舎の部屋に戻ると、なぜか部屋にハニーがいた。なんで、とメイが驚いていると、わたくしのお部屋でもあるんですわよ、とハニーが返す。


「あなた、入学前の説明をお聞きになっていないの?基本的に、宿舎の部屋は2人から3人が同室ですわ。この部屋はわたくしとあなたの2人部屋ですわ」

「あ、そ、そうだった、かも」


あはは、ととぼけてメイが笑うと、もう、と呆れたように、しかし嬉しそうにハニーがため息をつく。


「(お姉様と同じお部屋だなんて…)」

「でも、昨日も今朝もあなたと一緒だなんて気が付かなかった」

「お姉…あなた、よく寝ていらしたもの。朝も起きるのはずいぶんのんびりでしたし」

「あ、そ、そうだったかも…」


メイは部屋を見渡し、この部屋は二段ベッドが置かれていたことを思い出す。メイが、私昨日勝手に下で寝てたけれどそれでもいい、と聞くと、どちらでもよくってよ、とハニーが返す。ハニーの、他の生徒たちとは違う雰囲気に、メイは少し安心した。彼女となら会話ができそうだと、メイは思った。

メイは部屋にあるソファーに腰掛けて、勉強用に置いてある机の上で学校の鞄を整頓するハニーの方を見た。


「ねえ、ハニーさん」

「敬称は結構ですわ。お年もあなたのほうが上なんですもの」

「そう、じゃあハニー」

「(はっ、ハニー…)」


ハニーはメイに背中を向けたまま、頬を赤く染めてときめいている。メイはそんなハニーの様子に気が付かないまま、教えて欲しいことがあるんだけど、と続ける。


「この学校の生徒に、婚約者がいるとかって、珍しい話ではないんだよね?」

「よくある話ですわよ。そもそも貴族の子息ばっかりが通っていますし。特に男子生徒の中では長男であれば、跡取りになるわけですから、まず婚約者がいると思いますわ。まあ、わたくしみたいにまだ婚約者が決まっていない方ももちろんいらっしゃいますけれど。ハニーのお父様とお母様ったら、ハニーが一人娘でとーっても可愛いからって、お相手の吟味にお時間をかけていますのよ。ま、ハニーに見合う方なんてそうそうあらわれないと思いますけれど」


オホホ、と口元に手を当てるハニー。そうだよね、とメイは返す。ハニーは笑いを止めると、メイの方を見た。


「あなたが今日ものすごーく注目されてたのはね、あのアーサー様の婚約者ってことももちろんありますけれど、学校どころか貴族間でも、リリア様が新しいお相手になるっていう噂が流れてたから、それがひっくり返ったものですから、余計に目立ったんだと思いますわ」


メイは、あの日アーサーと出かけた街での出来事や、今日の学校でのことを思い出す。


「(あの噂に出てきたのがその彼女というわけか…)そうだ、そのリリア様…っていうのは?」

「あなた、ほんとうに貴族の話題にのんびりしていらっしゃるのね」

「ご、ごめんなさい」

「リリア様は、スミス伯爵家のご令嬢ですわ。容姿端麗、頭脳明晰、家もとても大きいけれどそれにはおごらずに性格も聖母のようだって、周りからはとても評判でいらっしゃるわ」


ハニーは、まあ、わたくしには到底かないませんけれども、と髪を手でぱっと払う。メイはそんなハニーを見ながら、あ、あはは、と笑う。


「(なんだかどんどん可愛く見えてきた…)」

「アーサー様も、ご存知だとは思うけれど眉目秀麗でいらっしゃるし、お家も大きいから、お似合いだろうって、まあ、周りが勝手に話を大きくしていただけだったのですけれど」

「(アーサーさんは性格のことは言われないんだな…それはそうか…)」

「リリア様が次の婚約者だろうっていう期待が裏切られたから、あなたは、リリア様を慕っていた方たちや、リリア様ならアーサー様のことを諦められると思っていらした方たちの反感を買っている状況、ということですわ。あなたにとっては、勝手に周りが噂していただけなのに、巻き込まれていい迷惑でしょうけれど」

「なるほど…、あの、ハニーはどう思ってるの?私のこと」

「ど、どうって…」


ハニーはメイの方を見て、ぽぽぽと頬を染める。そして、ふいっと顔を背ける。


「あなたなんて、ハニーの相手にすらなりませんわ」

「えっと、ということは、友だちにはなれない、と…」

「そ、そ、そういうことを言っているのではありませんわ!」

「じゃあ、友だちになってくれるの?」

「えっ、え…」


メイに見つめられて、頬がまた赤くなるハニー。ハニーは、むむむと眉をつり上げると、な、なにをおっしゃるの!とまた顔を背けた。


「ハニーとお友達になりたい方は山程いらっしゃいますのよ!」

「そ、そうなんだ…」

「でも、あなた運がよろしくてよ。同室のよしみで、優先的にお友達になってさしあげてもよろしくってよ?」


ハニーはそういうと、得意げに鼻を鳴らす。そんなハニーを見て、メイは、ありがとう、と笑った。


「…こんなお願いしておいてなんだけど、私といたらハニーまで悪く言われないかな…」

「あら、失礼ね。あなたと一緒にいるだけで傷つくほどハニーのこれまでに築き上げたイメージは脆くなくってよ?ハニーがどれだけこの学校で素敵なレディだって言われてるか、あなたご存知ないの?」

「そ、それは、今日入学したばかりだし…」

「呆れたこと…知る努力をなさい!まだ夜になったばかりですし、今からハニーがたっくさんお話してさしあげるわ」

「え、ええ…」









ハニーと長い長い話をしたメイは、ようやく話が終わってベッドに寝転べたというのに、眠りにつけなかった。新しい学校での生活と、友人と初めてこんなに話し込んだという経験が頭を渦巻き、興奮してなかなか眠れなかった。


「(散歩でもしようかな…)」


メイは、ハニーを起こさないように静かに部屋を出た。



夜空の下を、メイは自由に散歩した。宿舎から出て、校内まで入ってきた。夜の学校は昼間とは全く違う雰囲気である。静かで、明かりもついておらず、誰もいない。


「(さむ…)」


寝間着の上に何も羽織らずに来てしまったので、少しだけ肌寒い。逆に目が冴えてしまうだろうか。そう思いながら歩いていると、ふと、明かりを見つけた。

校内に、小さな教会があるのに気がついた。村にあったものよりずっと新しくてきれいなものである。メイは、外観は全然似ていないのに、小さい教会がぽつんと建っているところがなんとなく村のものと似ている気がして、そっと教会のドアを開けた。

すると、誰か男子生徒がお祈りをしているのに気がついた。ドアが開く音に反応した男子生徒は、後ろを振り返った。見覚えのある金髪に、整った顔。この学校の男子生徒の制服を着たその人に、メイはなんだか不思議な気持ちになる。


「あ、アーサーさん?」

「…メイ?」


なぜここに、と言いながら、アーサーはメイのところに近づいてきた。


「えっと、寝付けなくって…」

「そんな格好で出歩くなんて…」


アーサーは少し呆れたように言いながら、自分が着ていたブレザーをメイの肩にかけた。でもアーサーさんが寒いんじゃ、とメイが返そうとすると、アーサーは、着るんだ、と語気を強めてそれを拒む。アーサーは、きょとんとするメイの顔を見て、額に手を当てたあと、言葉を選びながら口を開く。


「…女性が寝巻きで外をふらふら歩くのは危ない」

「あ、そ、そうですよね…」


メイは、それはそうだ、と自分のうかつさに苦笑いを漏らす。アーサーは呆れたようにため息をつく。メイは話題をそらしたくて、そ、そういえば、と口を開く。


「アーサーさんは、こんな時間になにを?」

「…先生から、討論会のことで打診を受けていたんだ。それで時間が遅くなって、…今日はここに来られる時間が作れなかったからこんな時間になった」

「(…討論会…とは?)またお祈りですか?初めて会ったときも、村の教会でお祈りしてましたよね」

「まあ、…それより」


アーサーはそう言うと、腕を組んでメイの方を見た。いつもの無表情だが、少し怒っているのを感じ取れる。メイは少し身構える。


「こんな時間に、こんな格好で、しかも一人で出歩いてはだめだ。ここに来るまで何もなかったから良かったものの」

「ご、ごめんなさい…」

「そもそも、夜間に外出するのは禁止だ」

「あ、アーサーさんは…」

「今日のこの礼拝については先生から許可をもらっている」

「…申し訳ありませんでした…」


メイは頭を下げる。アーサーはまたため息をつく。


「あまり心配させるな、また君に何かあったら…」


アーサーはそこまで言うと言葉を止めた。アーサーは少し長い間フリーズしたあと、何かあったら、と続ける。


「……困る、…から」

「(困る…?)」 


メイは、確かに、長い間婚約者と言われていた人がまたいなくなったら後味が悪いだろう、と考える。メイはアーサーの、わかりにくい優しさを感じる。


「アーサーさんって、優しいですよね」

「は?」

「特に好きじゃない相手でも、こんな風に気遣ってくれる」 


メイはアーサーを見て小さく微笑む。アーサーは、ぐ、と言葉を詰まらせる。


「もう遅いですし、そろそろ帰ります」


上着はありがたくお借りします、明日お返しします、というメイに、待て、とアーサーが呼び止める。メイは、はい、とアーサーの方を見る。アーサーは、少しの間の後、思い切ったように口火を切った。


「……宿舎まで送る」

「えっ、あ、ありがとうございます」





女子寮の前まで、アーサーはメイを送り届けた。そこまでの道のりの間、二人の間に特に会話はなかった。アーサーは何やら深く考え込んでいたため話しかけることができず、メイはすることがなくて、星空をみあげていた。村にいた頃を思い出す満天の星空で、綺麗ですね、とメイはアーサーに話しかけようとして止まってしまった。星の光に照らされたアーサーの横顔があんまりにも綺麗で、心臓が止まるかと思ったからだ。




「ありがとうございました」


宿舎の前に到着すると、メイはそう言って借りていたブレザーを脱いでアーサーに返した。アーサーは、ああ、と言ってそれを受け取る。


「明日も学校がある。早く眠りにつけると良いな」

「散歩していい感じに疲れたので、眠れそうです」

「…眠れないからといって今後夜間の外出はもう、」

「わ、わかりました、もうしません、わかってます…」


メイは縮こまりながらそう言ったあと、アーサーを見上げて微笑む。


「では、おやすみなさい。本当にありがとうございました」 


そう言ってお辞儀をしたあと、メイはまたアーサーの目を見て微笑んだ。メイは踵を返して自分の部屋へ向かっていく。その後ろ姿が消えた後もしばらくアーサーはその場を動けずに立ち尽くしていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ