第7話 やっぱり言葉って素晴らしい 見たことないものも伝えられるから
いやはや、肝を冷やした。
私の剣技は切られる前に切る攻撃的な剣。切っても効果の薄い相手では、ジョン君4人衆を狙われるとちょっと守り切れない。
「いい剣だ。が、数打ちの品なのか、銘を刻む習慣がないのか? うーん、貰っておくべきか悩むな」
ナオミが置いていった刀を検分中。発信機的なものは確認できなかった。未知のファンタジー要素は怖いが、貰っておくことにした。武器は消耗品なのだ。敵の罠かもしれないが、得物は多いほうがいい。
鞘なしで持ち歩くの普通に嫌なんだけどなあ。【桐壺】、【桐壺】、下段の構えだな。
「素晴らしい逃げっぷりだね。みんな。私一人を置いていくなんて酷いじゃない」
4人組に追いついた。急ぎ足で荷車を走らせている。
「あ、先生、敵は撒いたんですか?僕たちは大至急街に戻ることにしたんです。人の言葉を喋る魔族が出たことは、なる早でギルドに伝えないとやばいんです」
「撒いたというか逃げられた。切ってもくっつくし、生えてくるんだよ。恐怖は刻み付けておいたから多分大丈夫。でも、喋る奴は珍しいの? 2メートルのゴブリンも喋ってたけど」
「ちょっと、なんでそれを早く言わないんですか? もしかしてディストピア出身なんですか?ゴブリンは喋りませんよ」
ジョアンナ様が入ってきた。相変わらず火力が高い。
「た、多様性の時代だし、そういうこともあるかなって?」
「何馬鹿なこと言ってるんですか? めちゃめちゃやばいんですよ。喋る魔物は魔王軍下の魔物です。剣術まで使うなら確定です。だから荷物を最小限にして街まで走ってるんですよ。」
「のわりに、金目のものは残っている気がするけど……。そのデカゴブリンの首は?」
「駆け出しですからね。日銭は稼ぎませんと。首はギルドで見てもらいます。ここまで来たら、間違いなく普通のゴブリンではないと思いますけど」
「世知辛いな。金のために命を危険にさらすのは。でも分かった。街まで戻るんだよね? どれくらいかかる?」
「ええと、今は真昼か、明日の日没までには滑り込めます」
「じゃあ、今日は野宿だね。今日は同じテントで寝られるかな?」
「それはもちろん。こちらからお願いしたいくらいです」
「任せなさーい。お姉さんが守ってあげましょう」
人は見た目が九割なんていうけど、その通りだ。返り血一つない純白のセーラー服は私の圧勝を証明してくれる。
とりあえず、今日のところは野宿だ。
一方、鬱蒼とした森の深部にて。
ナオミは、巨躯のオオカミとともに居た。オオカミは直立したナオミを四足歩行の状態で見下ろしている。
「おぬしが霧になってまで敗走するなんて初めてか? どうした貧血か?」
「弱い犬ほどよく吠えるな、この駄犬が」
「ああ、俺が悪かった。血の気はむしろ多いみたいだな。しかしこの荒れ様、よほど酷く負けたか?」
「見てわからんのか?惨敗だ!……すまんな。これは八つ当たりだな。」
「⁉……おぬし、その傷さっきまで塞がっていたよな?」
「ああ、再生にエネルギーの大部分を回せば塞いでおけるが、怨念とでもいうべきか、まとわりついてくる。気を抜くとまた開く。」
「心当たりはあるのか?」
「奴は【須磨】という技を使った。うちの流派であれば、実体のない霊体を切る剣技だ。威力は見たことのないほど洗練されていた。私も霊体であったらまず死んでいただろう」
「分からんな? お前の剣技を使ったということか? そのうえで、お前を霊体と認識したということか? そやつは吸血鬼ではないし、吸血鬼も知らない感じか? 妙だな?」
「ああ、明らかに異質な奴だが、剣技は同じ流れを汲んでいるだろう。技は向こうの方がはるかに上だがな。」
「なるほど、そいつの名は何というんだ」
「奴は名乗らなかった」
「……そうか。強いだけでなく、誇らない強さまであるか。腕っぷしの強い奴ほど、情報戦はノーガードなんだがな。厳しい戦いになりそうだ。そいつの特徴を教えてくれ。警戒しておこう」
「私と同じ黒髪のロングの女だ。武器は打刀。奴も我らの流派に近いならば武器は変えないはずだ。あとは……、全体的に平たい。顔も体もな」
「なるほど。名前を仮置きする、手強そうな名前で頼む」
「そういうのはあまり得意ではないが、まあ、「静」としておこうか。私の剣は奴はおろか、奴の剣にさえ触れられなかった。まさに無音の剣。刃愛ここに極まれりだ」
「……ということは、予備動作も分かりづらいってことか。うむ。女とて侮るなと、部下にも伝えねばなるまい」
「ああ、最後に。安い挑発だとて、奴の前で胸の話はするな。多分、殺してくれと懇願する羽目になると。部下にはそう伝えておけ」