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「ねえ、昔のお祭りの夜のこと、覚えている?」と道子は言った。
「お祭りの夜のこと?」小唄は言う。
「うん。白川くんの実家の神社で行われたお祭りのこと。ずっと昔のまだ私と白川くんが小学生だったころのお祭りの夜のこと。覚えてない?」
道子は言う。
「なんのこと?」小唄は言う。
「私が転んじゃったこと。それから、そんな私に白川くんが手を差し伸べてくれたこと」
道子は言う。
「私は転んじゃったことが恥ずかしくって、その場所から駆け足で逃げ出しちゃって、その白川くんの手をしっかりと握ることができなかったんだけど、……そのことを私、ずっと後悔してたいんだ」
道子は小唄を見る。
「……どうかな? 覚えてない?」
小唄は道子の言っているお祭りの夜のことを思い出そうとしたのだけど、どうしてもなにも思い出すことができなかった。
「ごめん。覚えてない」と小唄は言った。
すると道子はなんだかちょっとだけがっかりした顔をして、「……そっか」と言ってから、またにっこりと笑った。
「その男の子は本当に僕だったのかな? 日下部さんの勘違いじゃない?」
小唄は言った。
「ううん。違うよ。あれは間違いなく白川くんだった」
と自信満々の顔で小唄に言った。
「だって、私はその日から白川くんのことが大好きになったんだから」
その道子の言葉を聞いて、小唄は思わずその目を大きく見開いた。