1話 クビになりました
不定期に投稿することになりますが、何卒ご了承ください。
◇
二月二十五日(日曜日)。嶌紗月はアルバイトをクビになった。
紗月が何かとんでもないミスをやらかしたとか、客を怒らせたとかではない。
原因は、世界的に猛威を振るったウィルスによる不況である。紗月のアルバイト先もその煽りを受けて人員削減を行い、その中に大学生で親からの仕送りをもらっていて経済的に逼迫していない、他の従業員に比べたら解雇を言い渡しやすい紗月が入っていた。ただそれだけである。
こうして紗月は、今月以降の予定がぽっかりと空いてしまった。
『それは災難だったねえ』
アパートの紗月の部屋に、高橋幸貴の間延びした声が響いた。紗月は小さなテーブルの上に置いたスマートフォンの前に、頭を突っ伏している。
「そんな他人事みたいに言わないでよ~」
『実際他人事だしねえ』
「たしかに……」
そう言われてしまっては、ぐうの音も出ない。
幸貴とは、大学入学時のオリエンテーションで出会った。同じ関西出身だということで意気投合し、かれこれ一年以上付き合いが続いている。アクティブでアウトドア志向の紗月と違ってインドアな幸貴と馬が合うのは、お互い腐っているおかげだろう。
『別にバイトをクビになったくらいいいじゃない。食べるのに困ってるわけじゃないんでしょう?』
「それはそうだけど、欲しいものがあったのよ」
『新しい服とか?』
「400㏄のバイク」
『思った以上に高額で、女子らしくない物だった……』
「大型までは欲しくないけど、そろそろ大きいのが欲しかったのよねえ」
紗月は大阪で高校生だった頃、バイク漫画にはまり原付免許を取った。そしてバイクを買うために親を説得してアルバイトをし、原付バイクを購入。それを乗り回しているうちに本格的にバイクにはまり、ついでに同じく漫画の影響でキャンプにもはまった。
その後大学受験が終わるや否や、春休みを利用して普通自動二輪免許を取ってしまったのだ。
ちなみに今乗っている250㏄のバイクは、大学入学で四国に引っ越した際に近所のバイク屋で中古で買ったものだ。現状250㏄でも足つきや馬力に不満はないのだが、やはり免許区分内で乗れる限界まで試してみたい。
「けどコロナになってからどれも入手困難になっちゃって、もうほとんど諦めてたのよ」
『だったら、ちょうどいい機会だから旅行でもしたら?』
「旅行?」
『ホラ、あんた前々からゆっくり四国旅行したいって言ってたじゃない。旅費なら、バイクを買うために貯めてたお金が今は宙に浮いてるんだし』
「旅行か……」
言われてみれば、これまで何度か四国をバイクで旅してみたことはあったが、どれもアルバイトや大学の講義の都合でゆっくり回れたことはなかった。
しかし今なら、大学は春休みだしアルバイトもない。おまけに旅費は潤沢だ。
となればもう、行くしかない!
「よし、行ってみるか」
こうして紗月の四国旅行はあっさりと決まった。
よろしくお願いいたします。