フラッシュ
失敗だ。俺は自己嫌悪していた。
別の世界、別の生を選んだ時からそうだ。
自分の無計画さには呆れる。
十数分しか経ってないのに、状況は一変してしまった。
協力してくれていたジョニーが死に、同時に火炎放射器を失った。
唯一のチャンスも撃ち損ね、後ろからゾンビに追われ、室内で光学迷彩を効かせた見えない敵が待っている。
電子銃を抜いて引き金に手を掛けた。
物音を聞いて振り返る。
俺は背後から建物に入ってくる火のついたゾンビを確認し、階段に逃げ込んだ。
階段までの間は、侵入を防ぐ扉がないから、いずれ追い付かれるだろう。
俺は上の状況を確認しながら、ゆっくりと階段を上がる。
階段の壁から、配線が垂れ下がり電灯用の機械がぶら下がっていた。
「!」
俺は屋上から街を見下ろした時のことを思い出していた。
このビルにも太陽光発電装置が付いていたはず。
ならば灯りがつくはずだ……
二階を通り過ぎ、俺は三階にたどり着いた。
この階か、もう一つ上だろう。
何階建か確認せずに飛び込んだことを悔やんだ。
俺は三階にヤマを張って、フロアに入っていく。
壁には照明のスイッチが八個、並んで付いていた。小さいスイッチだった。
俺は左手の人差し指と中指を伸ばして、そのスイッチを撫でるように動かした。
フロアの照明が、一瞬ついて消えた。
フロアの照明はLEDらしく、点消灯の反応が早い。指を何度も何度も往復させると、点滅が繰り返された。
これならヤツの光学迷彩も反応が遅れるはずだ。
俺は電子銃を構え、照明が点滅するフロアを見渡す。
絶対に変化に取り残され、ヤツの姿が浮かび上がるはずだ。
だが、俺はすぐに限界を感じた。
階段近くの壁にスイッチが集中して設置されているため、スイッチを操作していると、フロアの奥を確認できないのだ。
そして逆に、照明を点滅させることにこだわると、俺がこの場所にいることがわかってしまう。
早々にこの作戦は破棄しなければならなかった。
「?」
俺は壁のスイッチから指を離しているのに、フラッシュを繰り返す照明があった。
耳を澄ませると、鈍い音ではあったが音が出ていた。
「火災だ」
音は火災の警報音だった。
フラッシュする光は、聴覚障害者の為の警報用のフラッシュだ。
おそらく、一階に侵入してきた炎のついたゾンビによって建物の火災報知器が作動したのだ。
これなら、点滅の間隔はゆっくりではあるが手で壁のスイッチを操作する必要もない。
そして、警報用であるからには、どの部屋にもこのフラッシュする光があるはずだ。
俺はゆっくりとフロアに入っていく。
机より姿勢を低くして潜み、ヤツに気づかれないようにしながら進んだ。
ゆったりとした間隔で点滅する光が、俺の鼓動を早くさせていく。
次の部屋に入ると、そこは外に面した窓があった。
ヤツが愛瑠のいるフロアを狙うなら、この部屋の窓に位置取るはずだ。
入り口付近の机に隠れながら、火災警報用のフラッシュが点滅するタイミングを待つ。
俺は電子銃を持つ手に力を込めた。
見つけた瞬間に撃たないと殺られる。
三、二、一……
「!」
俺は左の窓際にヤツの影を見つけた。
一瞬の処理落ちによる、光の歪み。
俺は素早く立ち上がって引き金を引いた。
……つもりだった。
腕に力が入りすぎていた。
隠れていた机に銃をぶつけて、狙いをつけるまでに時間がかかってしまった。
「チッ!」
俺は素早く別の机の下に飛び、隠れた。
ヤツのレーザーは、さっきまで俺がいた場所の後ろ、壁を焦がしていた。
赤いレーザーポインターが俺を探すように、床を彷徨っている。
俺はその赤い点を見ながら、死角へ、死角へと移動した。
今度、フラッシュが光る時、その時に仕留めるしかない。
もしかしたら、ヤツもそう思っているかもしれない。
わざとレーザーポインターを床に落とし、いる場所を限定しようとしているのかもしれない。
つまり『罠』だ。
俺はそう考えると銃を持つ手が震えてきた。
次のフラッシュしたタイミングを敢えて何もせずにいて、別の方法を考えるべきだろうか。
俺は一つ目のフラッシュを見逃した。
二つ目も見逃す。
赤いポインターは、俺の机の、右側の床と左側に、交互に向けられ、まるで『お前の位置はわかっているぞ』とでも言いたげだった。
ポインターは規則的に動かされているのも妙だった。
左に行った時に右に、右に行った時に左に出てくるのを誘っているようにも思える。
だが相手は機械だ。
AIなのだ。
ポインターが光っている方へ出たら、人なら動揺する可能性があるが、ヤツなら正確無比に射撃を行うだけだ。
やるとしたら逆側に出るしか無いが……
いや、待て。
今、この位置にポインターを右左と振り分けられるなら、ほぼほぼ位置が推定できている訳だ。
加えて、この距離なら、正確に狙わなくても当たる可能性があるのではないか。
幸い、電子中は充電したばかりだ。一発、二発、無駄にしたところで問題ない。
一瞬、銃だけを机の上に出し、撃ってみる価値はある。
致命傷とは行かなくても、障害を与えられれば、その後の攻撃で仕留めることができるかもしれない。
俺は机に手をかけ、机の位置を整えた。
ヤツは威嚇するように床を撃ってきた。
床の素材は燃え上がらなかったが、黒く焦げた。
今だ。
俺は机の上に腕だけを出し、電子銃の引き金を引いた。
電子の流れは見えなかったが、バリバリと大きな音を立てて様々なものが破壊される音がした。
腕を引き戻すと、左右に現れるはずの赤いポインターが見えない。
ガタガタと音が聞こえる。
直撃ではないかもしれないが、当たったに違いない。
俺はそう確信した。
腕を出した場所とは別の位置から、俺は机の上に顔を出した。
ヤツが逃げていく姿が見えた。
光学迷彩が働いていない。
様々な色に見えるマントが、部屋を出ていく。
これでヤツのアドバンテージはなくなった。
火災警報装置のフラッシュが動く中、俺は立ち上がり、ヤツを追った。
部屋と部屋の繋ぎは狙われる。
キャスター付きの椅子を蹴って滑らせた。
椅子を撃ったのを見て俺は部屋の反対側へ回った。
奇妙な色をしたヤツを見つけ、電子銃を撃った。
飛び出した電子は、ヤツに向かって飛び出すが、同時に様々な金属へも分岐してしまう。
雷のように机や天井、椅子などの金属へ電子が走る。
さっきも、これで威力が削がれていたのだ。
ヤツは再び部屋を移動して、窓から飛び出していった。
「しまった!」
ここは三階だ。
機械のヤツは平気で飛び降りたが、俺は打ちどころが悪ければ死ぬし、怪我は避けられない。
俺は窓から電子銃で狙いをつけるが、当たらない。
俺はゾンビが上がってくる階段へ戻るしかなかった。




