這い寄るゾンビ
砂上車から警報音が鳴り響く。
ジョニーはブレーキを掛けるが、枯れ草を滑りながら砂上車は進んでいく。
俺の乗っている板は、枯れ草の上を滑りながら、砂乗車の無限軌道に突っ込んでいく。
「!」
砂上車は止まり、俺の乗った板も寸前で止まった。
大きくため息をついたが、砂上車の警報音はまだ鳴り続けている。
「ジョニー、何があった」
「移動する物体が……」
俺は乗っていた板を下り、立ち上がると、その『移動する物体』が何か分かった。
「ゾンビか」
ジョニーは振り返らず、そのまま頷いた。
「火炎放射器は?」
「置いてきた」
最悪だ。
俺は電子銃を持ってはいるが、正直、対ゾンビに使える武器なのか不安なものだ。
勢いよく加速した電子を発射し、物体を破壊するという意味では倒せるかも知れない。
問題は撃てる数と、ゾンビの数の関係だ。
火炎放射器なら、一帯に生えた枯れ草に火をつければ、その炎でゾンビを殺すことができるだろう。自分たちがどうやって逃げるかと言う問題は残るが……
「ゾンビはどれくらいの数……」
そう言いながら、俺は砂上車のレーダー画面を見た。
「四、七、十九、ちょっと待て」
周囲は四、その輪の外に七、さらに外に十九。
俺は、ジョニーの後ろのシートに座った。
「こいつを走らせろ、この隙間を抜けるんだ」
俺はレーダーが捉えたゾンビが少ない部分を差した。
「早く!」
アクセルを開くと、モーターが回った。
そうか。俺は思った。この砂上車の音で、ゾンビが建物から出てきたのだ。
ジョニーはゾンビを寸前で避けながら、砂上車を走らせた。
「さっきいた建物に戻って火炎放射器を使わないと、お前の母が……」
愛瑠がゾンビにやられてしまう。
ジョニーもそんなことはわかっていると言った風に、黙って頷く。
ゾンビを避けながら砂上車が建物の角を曲がった直後、枯れ草に赤い光が当たっているのに気づいた。
これは……
「ジョニー、伏せろ」
俺はジョニーの背中を押しながら、自身の体も折り重なるように前に倒した。
「何するんだ!」
砂上車は走り続ける。
砂上車の左後方、直線上に草が燃え出した。
「今のレーザーを食らったらやけ死んでたぞ!」
「レーザー?」
俺がジョニーの手に力を加え、砂上車を蛇行させる。
「ヤツだ。俺の仇。機械人間だ」
「……」
ジョニーは砂上車のミラーを見て、言う。
「何も見えない」
転生の後はいつもそうだった。ヤツは密かに光学迷彩の仕組みを修理している。光学迷彩が機能している限り、ヤツは透明人間だ。
「ほら、レーダーでは見えてる」
濃い影のように映っている。ただ、ゾンビもいるので、どれがゾンビではないのか分からない。
視野の左端で一直線上に枯れ草が燃えだした。
すると、視線の右側が燃え始める。
俺は砂上車にしがみつきながら、後ろを振り返る。
左右の草が、一直線に燃えたのは、ヤツが邪魔なゾンビを撃ち殺しているからだ。
機械の体のヤツにとって、ゾンビは怖くないが、ゾンビは動きが遅く、邪魔なのだろう。
俺は作戦を考えた。
街の中で眠っていたゾンビを叩き起こし、周囲に溢れさせれば、ヤツのレーザーはゾンビが防いでくれる。
その状態で周りの枯れ草を燃やせば、流石の光学迷彩も役に立たないだろう。
誰の目からも見える状態にして、確実に電子銃で撃ち抜く。
俺は手を伸ばし、砂上車のホーンを鳴らした。
ジョニーが怒ったように言う。
「おい、鳴らすな、エンジン音ですらソンビが出てきているのに」
「いいんだ。最終的に焼き殺せばいい。それより、ゾンビを増やしてヤツを足止めしたい」
砂上車は、ホーンを鳴らしながら道を曲がり、最初に止めていた通りに戻ってきた。
砂上車を止めると、愛瑠が火炎放射器を重そうに抱えて、出てくる。
「何してたのよ、ゾンビが周りからウヨウヨ」
「そんなことより、ヤツがいた」
俺が言うと、愛瑠は周囲を見回した。
「!」
愛瑠の持っていた火炎放射器を奪うようにして取ると、草を焼いた。
「どうするの? ヤツは機械だからちょっとやそっとの熱じゃ壊れないわよ」
「周りを炎で包まれれば、光学迷彩がまともに機能しない」
「……それは確実?」
今まで光学迷彩が歪んでいたのは予測できない動きをするものが周囲にある場合だった。裾の付近が歪みが大きく、見つけやすいのは変化が激しいからだ。だから炎のような絶えず変化するものの光を受ければ、光学迷彩の表示の歪みは大きくなるはずだった。
「経験上、間違いない」
「草が燃え尽きないことを祈るわ」
ジョニーが言う。
「なら、ゾンビを燃やせばいい。脂に火がつくから、よく燃える」
砂上車が走ってきた方向から、ゾンビがやってくる。
俺は火炎放射器で、ゾンビに炎を浴びせた。
体のあちこちから白い煙が出たかと思うと、その煙に火がついた。
枯れ木に火がつくのと同じような状況だった。
愛瑠は、それを見ていう。
「ゾンビは燃えたまま、こっちに近づいてくるじゃない。ソンビがヤツに集まらないと、こっちがゾンビと、機械人間を相手しなければならなくなって、不利になるわよ」
「……」
俺は考えた。
そうだとすると、無理にこちらから火をつける必要はないのかも知れない。
今、街には十分なゾンビが出てきている。
ヤツがこっちを捉えるために、邪魔なゾンビをレーザーで焼くとすれば、その焼いた炎が自分の首を絞めることになる。
こっちはじっとゾンビの影で待ち、ヤツを迎え撃つ準備をすればいい。
「わかった」
「何がわかったのよ」
「この建物の中でヤツを待とう。ヤツは邪魔なゾンビを焼くはずだ」
俺は火炎放射器のノズルを使って、二人に夜を過ごした建物に戻るように指示した。
後を追って、俺も建物に隠れる。
どれだけ強いレーザーだとしても、この建物を破壊したり溶かしたりする程ではない。だから、ここに隠れているとバレても建物ごと壊される心配はない。
建物の入り口に金属の板を重ねて立て掛け、ゾンビが入ってこないように机や長椅子で抑え込む。その入り口に立てかけた金属板の隙間から、外の様子を見た。
どうやって察知するのかいまだに分からないが、ゾンビは確実にこの建物を目指して集まってくる。
近くに来たゾンビが、金属板の隙間に指を突っ込んできた。
「!」
動きは鈍い。それでも俺は驚いてしまい、体を引いた。
「火炎放射器を貸してくれ」
「どうするんだ?」
「二階にゾンビがいないか見て、居たら掃討してくる。ここからじゃ、集まってくるゾンビに炎を浴びせられない」
俺は頷いた。
「二階が安全になったら呼びにくる。その時は母さんと二階に来るんだ」
「わかった」
「確かにこの調子じゃ、すぐに外を確認出来なくなるわね」
上から見ればヤツを認識することは出来る。
だが、ヤツからすれば、同じように、俺たちを確認できると言うことだ。
同じ平面に立ってこそのゾンビの壁なのだ。
「……」




