復讐の訳
そう言えば、愛瑠がヤツを追っている理由を聞いたことは無かった。
そもそも聞きたいとは思わなかったからだが、家族を失った俺が復讐の為、転生をすると言った時と、ジョニーに対しての態度が違う。その理由は知りたい。
だから俺は黙ってジョニーと愛瑠の話を聞いていた。
「私は…… 恋人を殺された」
「この世界にはそんな人がいっぱい居るよ。ただ、ここでは復讐することは簡単なのさ。大抵、仇はゾンビで、ゾンビは単体なら簡単に倒せる。だから、皆、それに意味がないことを知ってる」
確かに恋人を噛んだゾンビを殺すのは簡単かもしれないけど、そもそも世界にゾンビを作り出した人間、あるいはゾンビ、という存在自体に復讐をするのは相当な覚悟と時間がいるはずだ。
個体への復讐は簡単かもしれないが、本当の意味で根源であるゾンビそのものを駆逐するという復讐はあまりに大きく、途方もなさ過ぎて不可能だ。どちらの場合も、理由は違えど、復讐に意味がないと考えるのは当然に思える。
そう考えると、俺が考えている機械人間への復讐は、個体への復讐で、本当は機械人間全体への復讐を遂げない限り、別の機械人間が現れるだけで、復讐は終わらないのではないだろうか。
「次に好きになる人を愛せというの? あの人は世界に一人だったのよ。ずっと一緒だった。沢山の思い出。私にとって『世界より大切な人』だったのよ。それをゴミを焼くかのように簡単に殺したヤツを許してはおけない。あの人の無念を晴らしてあげたい」
「俺にとっても、たった一人の母さんなんだよ。復讐なんかで失いたくない」
愛瑠はジョニーを抱きしめる。
「私がいなくなっても、あなたが生きていれば私は幸せなの。復讐なんてことに命を掛けないで」
「待ってよ、こいつは?」
ジョニーがそう言った。
二人は抱き合いながら、俺を見た。
「じゃあ、こいつはなんで復讐なんてしてるの」
「……」
ジョニーが唾を飛ばしながら、言う。
「なんで復讐なんかしてんだよ」
「か、家族を全員殺されたんだ」
「その家族は復讐をすることで喜ぶと思うのか? お前が生き続けることが家族のためじゃないのか?」
ジョニーがそう言うことは分かっていた。
二人の話を聞きながら、俺も考えていた。
なぜ復讐を選んだのか。仇を討つために世界を捨てたのか。
「俺は…… 俺の為に復讐を選んだ。それ以上でも、それ以下でもない」
「何、その利いた風な物言いは?」
俺は動揺した。
「仇を打っても家族は喜ばないだろうけど、そもそも、もう家族はいない。残りの人生をメタメタにされたんだ。あの世界に残って腐った人生を続けるより、ヤツを倒す道を進むしか生きる道がなかったんだよ。それだけだ」
「……そんなこと考えてたの?」
「最初に転生を選んだ時からそんなことを考えていなかったと思う。だから、後付けかも知れない。けど、今はそう思ってる」
それを正しい選択だとか間違っているとか、他人が言える話ではないだろう。
俺はそう思った。
「それでも」
ジョニーは言った。
「それでも復讐に意味なんかない」
「ああ。復讐自体に意味はない。人生の中の小さな目標の一つでしかない。それが他の大勢の人の役に立つと思ってる」
「……」
ヤツをそのままにしていたら、次から次に世界を渡り、被害者を増やしている。
俺が追って転生した最初の世界でも一軒家を焼いていたし、警察官を何人も殺した。
次の世界でも、戦場に現れては殺していたし、ミチズナたちまで殺している。
いつ俺がヤツを処理できるかはわからないが、止めない限り殺人を続けるだろう。
「そんなに強い相手なのか」
「こちらからは姿が見えない」
愛瑠がさらに説明した。
「光学迷彩という仕組みね。どこから見ても、まるで光が透過しているようにしか見えないの。だから光学的には見つからない」
「どこから見ても、と言うのは本当かはわからない。事実、時折処理し損ねて光が歪んでいるから、完全に見えない訳じゃない」
愛瑠はため息をついて言う。
「そんなこと言ったって、ほとんどの場合、見えないでしょ」
ジョニーは言う。
「そんなの簡単だ。音波か、電波反射系のレーダーを使えばいい」
「マジか? 出してくれ。それがあればこの世界で決着がつけられる」
ジョニーは首を横に振る。
「……村長の持ち物だ。村に戻らなきゃならない」
「戻ろう。砂上車のバッテリーの充電が終わったらすぐ行こう」
暗い顔でジョニーは俯く。
「無理だよ。俺が村に戻れる訳ないだろ」
「そのレーダーを拝借するだけだよ」
「……」
俺は嫌な予感がした。
「そのレーダー、ハンディサイズじゃないとか言うオチはないだろうな」
俺は言葉を続けた。
「大きな、据え置きのレーダーじゃ意味ないぞ。範囲外に逃げられて終わりだ」
「いや、ハンディサイズだ」
「なら、村に行こう」
俯いたまま首を横に振る。
「だから無理だ。村の監視範囲に入ったら、俺は殺される」
「じゃあ、監視範囲の外で降ろしてくれ。俺が村に入って」
「村の配置も分からないのに、隠し場所に辿り着き、見たことない機械を持って帰れるのか?」
俺はため息をついた。端から無理なことなら、期待を持たせないでくれ、そう思った。
突然、愛瑠が言った。
「ちょっと待って? 砂上車にレーダーついてなかったかしら」
「……」
ジョニーは気がついたように少し顔を上げた。
「砂漠の中で、私たちを見つけたのは、レーダーで動くものを見つけたからだと教えてくれたわよね」
俺はそんなことを聞いた覚えはなかった。
「そうでしょ?」
「……」
「おい、何か隠そうとしてるのか。レーダーがあれば、安全にヤツが倒せて、俺も、お前の母親も復讐が終わるだろう。つまり、この世界にずっといてくれるかも知れないんだぞ」
ジョニーは口を開かない。
「話したくないならそれでもいい。ここにある砂上車の充電パックを持っていってスイッチ入れてみれば分かることだ」
「ジョニー、何故話してくれないの?」
「戦っちゃダメだ!」
そう叫ぶと、ジョニーは砂上車のバッテリーを掴んで、持ち去った。
「チッ!」
俺は電子銃を手に取り、すぐに後を追った。
「ジョニー!」
愛瑠は後ろ姿に呼びかけたが、ジョニーは戸惑うことなく外に出ていた。
砂上車の電源が入ると、ジョニーはいきなりアクセルを全開にしたらしい。激しいモーター音が周囲に轟いた。
俺はギリギリのタイミングで、砂上車の後部についている板に飛び乗った。
板が激しく上下動するので、手足で板を押さえ込むようにしてバランスを取った。
「ジョニー! 止まれ! とにかく止まれ!」
俺は飛ばされないギリギリの状態で、そう叫んだ。
砂上車は、枯れた草をバタバタと倒しながら進む。
ワンブロック進むと右に曲がった。
勢いに流され、俺の乗った板は角の建物ギリギリまで膨らむ。
「おい、止まれ、とにかく止まれ!」
今度はツーブロック進むと右に曲がった。
枯れた草の上を滑りながら、板は砂上車より大きな弧を描くため、また、建物にぶつかりそうになる。
「ジョニー、今お前の母親は一人きりだぞ」
ジョニーの背中が、少し動いた。やっと俺の声に反応してくれた。
「お前は、母親をゾンビから守るつもりはないのか?」
ジョニーは再び、砂上車を九十度右に曲げる。
ハンドル操作が遅れて、砂上車自体が角の建物に当たりそうだった。
「ば、馬鹿野郎!」
俺は足を板の外に出し、板が膨らまないようにブレーキをかけた。
横滑りする量が減って、建物スレスレで曲がり切った。
その時、砂上車から警報音のような繰り返しの高い音が発せられた。




