ハナの居場所
レーザー銃を乱射し雪が溶けたその辺りに、光る転生の扉が現れた。
「逃げられる!」
転生の扉は、雪が溶け低くなっている場所にあった。
ヤツは転生の扉へ向かって走る。
剣を振りかぶり、俺も走った。
ヤツが機械の正確さを持っているとしても、レーザーを撃ち続けながら転生の扉に入ることは出来ないだろう。少なくとも狙いをつける動きや精度は鈍る。転生の扉に逃げ込むタイミングは大きなチャンスだ。
だが、少しでも遅れ、ヤツが転生の扉に触れたら、攻撃は効かなくなってしまう。
一瞬だ。レーザー銃を振り回せなくなり、転生の扉に触れる一瞬前。
そこへ剣を振り抜く。
僅かな勝機に向けて走った。
ヤツのレーザー銃が放たれるが、当たらない。照準に迷いがある。
誘い込んでいるのかも知れない。
俺にも戸惑いがある。
ヤツが先に転生の扉へ、落ちるように足から飛び込んだ。
「振り抜け!」
愛瑠の声が聞こえる。
俺も剣を振り抜くように飛び込んだ。
ヤツのレーザー銃が、俺の胸に向かって動く。
だが、俺も剣を降りながら、移動している。
胴を真っ二つに出来れば、俺の勝ち、レーザーが胸を貫けばヤツの勝ちだった。
このコンマ何秒かが、永遠にも感じられた。
レーザーが放たれたが、外れた。
俺の剣がヤツの胴に当たる…… より先に、足が『転生の扉』に入ってしまった。
剣は弾かれ、俺の手を離れた。
勢い余った俺はバランスを取れずに、頭から雪へ突っ込んだ。
ダメだった。復讐は成し遂げられなかった。
またしても肝心な場面で失敗した。
撃たれて死んだ父、母、妹の姿が思い出される。
転生してまで復讐を選んだのに……
いつまでも倒れたままでいると、愛瑠がやってきた。
愛瑠に手を貸してもらい、立ち上がった。
見るとヤツの頭が、転生の扉に消えていくところだった。
「まあ、いいんじゃない。変なタイミングで剣がヤツに当たったら、醍醐、あんたもヤツの衣服や持ち物と同じように、一緒に転生するところだった」
「……」
俺はどういうことになるのか、想像がつかなかった。
「転生した先で、ヤツに一瞬で殺されてお終い。ってこと」
「じゃあ、止めてよ」
「もっと早く剣が当たると思ってた」
確かに、早く剣が当たっていれば、上下分離したヤツの下半身だけが転生しただろう。
「さあ、次の世界に行こうか」
俺と愛瑠が転生の扉に入ろうとすると、声をかけられた。
「長吉!」
ハナを抱えた小隊長だった。
「やったのか?」
俺は首を横に振った。
「そうか」
「そうだ。この剣、返すよ」
俺は返そうと思い、雪に剣を刺した。
「ハナはどうするんだ」
「姉に捨てられたのなら、俺が育てるしかないだろう」
「ちょっと待て」
俺はそう言うと、再び小隊長の剣に手を掛けた。
小隊長は小児性愛なのだ。ムネオに買われたのとまるで状況は変わらない。
「やめてよ!」
そう言うと、ハナは小隊長を離れ、俺の前に両手を広げて立ちはだかった。
「小隊長さんは私を守るって誓ってくれたのよ」
「しかし、小隊長と暮らすと言うことは……」
ハナにはそれがどう言う意味か、まだわからないだろう。
「誓う。絶対に手を出さない。軍も辞める。ハナを守る為に生きる」
「……」
「その小隊長さんの言葉、信じてやったら? 後、私たちもここらで転生ないと間に合わない」
俺は愛瑠に手を握られた。
「すべてが思い通りにはならないのよ」
「わかってる」
愛瑠が転生の扉に触れると、俺は意識がなくなった。
動きの止まった二人が、光る扉に吸い込まれていく。
小隊長は何が起こったか、分からなかった。
光る扉の奥から、紐で引っ張られているかのように、固まった人の形をしたものが歪に動きながら消えていく。
「怖い」
そう言うハナを、小隊長は抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫……」
この娘がいる限り俺は生きていける。
この子を傷つけないし、以前の過ちは繰り返さない。
小隊長は、二人が吸い込まれてしまうとハナを離し、手を合わせた。
ハナも見よう見まねで、光る扉の方を向いて手を合わせた。
次第に小さくなっていく光る扉が、消えた。
「おじちゃん、何に手を合わせてるの?」
「……」
小隊長は、雪の溶けたその方向に手を合わせていたのか思い出せなかった。




