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Hoshoku-sha 〜異世界転移してきた敵には光学迷彩の能力がありました〜  作者: ゆずさくら


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ミチズナの愛人

 屋敷の中を静かに移動し、ムネオの部屋と思われる、灯りのついた部屋の扉を開けた。小隊長は様子を見ながら中に入った。小隊長の手招きに従って、俺も中に入る。

 灯りはついているが、部屋に人は誰もいなかった。

 四つの椅子と、大きなソファーがあった。

 大きなソファーには無造作に布がいくつも掛けられていた。

 小隊長はひとつ拾い上げて、鼻を近づけた。

「……ハナはここにいたはずだ」

「えっ、なんでそんなこと」

 いや、まさかとは思うが……

「ハナの匂いがする」

 小隊長はその『まさか』を口にした。

 犬じゃねぇんだから、とツッコミたかった。もう一つ思いついたツッコミはもっと小隊長の人権を踏みにじるような言葉だった。

「……わ、わかるんですね」

「何度か戦場に出ているうちに、俺にはそういう才能があることに気づいたんだ。別に小さな女の子の匂いを何度も嗅いだとか、そう言うことではないぞ。そんな変な目で見るな」

 俺は小隊長の言うことを信じることにした。

「この部屋にはいないんですね」

「そうだ。他を探す。屋敷は広い。手分けして探そう」

 俺は頷いた。

 小隊長のような技術はないが、果たして上手く探せるか、不安だった。

 しかし、やるしかない。今のままでは、俺がハナを売り飛ばしたのと同じだ。とにかく、ハナをこの場から救う。それだけを考えていた。

 俺は廊下を奥まで進み、小隊長とは反対側から部屋を調べて行く。

 灯りのついていない部屋は、探すのには時間がかかったが、逆に言えばこっちが誰かに見つかる可能性が低かった。

 一部屋、二部屋と調べた次は、扉から灯りが漏れていた。

 壁に耳をつけ、音を聞き分けた。

 たまに木の板が軋むような音がするだけで、会話はない。人の声らしきものもない。

 俺は音を立てないように慎重に扉を開けて、中を覗き込んだ。

「!」

 廊下側から、こちらに向かって誰かがやってきた。

 俺は慌ててそのまま部屋の中に入った。

「……」

 大きなベッドがあって、誰かが寝ているように毛布が膨らんでいる。

 そのベッドの中にいる人間に見つかる前に、隠れなければ……

 毛布の膨らみが、動いた。

 決断ができないままドア横に立っていると、ドアが叩かれた。

「コト、入るぞ」

 一瞬間があり、扉が開いた。

「ミチズナ様……」

 ベッドの上から、寝ぼけた女性の声がした。

 それは『(こと)』つまり、愛瑠(メル)の声だった。

 俺はミチズナに見つからずに、ベッドの下に隠れていた。

 次に、唾を吸い込むような音が聞こえた。

「全く、琴はねぼすけだな」

「ミチズナ様が夜になると、何度も疲れるようなことをするから、昼間寝ているんですよ」

「フフ、琴が魅力的なのがいけない」

 再び唾を飲み込むような、湿った音がした。

「ミチズナ様…… あっ…… しょ、食事の時間なのでは?」

「ああ、そうだ」

「着替えたらすぐ参ります。先に降りていてください」

 ベッドから足が降りてきた。

「着替えて、すぐ降りてくるんだぞ」

「もちろんです」

 扉が開閉する音がした。

 ミチズナが十分離れたと判断して、俺は言った。

「『愛瑠(める)』どうなってるんだ?」

醍醐(だいご)なの? ねぇ、どこから声出してんの?」

 ベッドのしたに足が降りてくると、俺はそれに手を伸ばして触れた。

「いやっ!」

「静かに」

 俺はベッドの反対側から抜け出した。

 愛瑠(メル)の背中が見えた。彼女は裸だった。

 俺の気配を感じて、愛瑠は毛布で体を隠して振り返った。

「『赤い亡霊(ゴースト)』は()れたの?」

「いや、やれてない。それより、どういうことだ」

「さっきのミチズナとのやりとりのこと? そうよ。私はミチズナの愛人になったのよ」

 俺が軍の訓練を受けている時か、キダイで戦っている時なのか。そんなことはどうでも良かった。

「ヤツを倒すのはどうでもいいのか?」

「愛人になるのを拒めば、その前に殺されてしまった。転生した世界で、女性が主権を握ってた世界なんて一つもない。転生する世界、転生する世界で、どれだけの女性が虐げられているか、あなたは理解出来ないでしょう? 世界のほぼ百パーセントと言っていい。世界で女が生き残る手は限られてるのよ」

「……」

 愛瑠は毛布を投げて、着替え始めた。

 裸の背中を見つめながら、俺は重要なことを思い出した。

「ハナ、ハナって言う小さい女の子をこの屋敷で見なかったか?」

「知らないわよ。昼間からずっとここで寝てたんだから」

 確かにさっきの会話の通りなら知るわけもない。

 俺は黙って愛瑠の部屋を出た。

 廊下に出ると、争っている声が聞こえた。知らない人の声と、もう一人はミチズナの声だ。廊下ではなく下の階から響いている。

 俺は隠れる場所に注意しながら慎重に下の階に降りていく。

 扉が開かれ、部屋の灯りが廊下へと広がっている。

「ムネオを縛り付けておけとで言うのか? 大事な後取りだぞ」

 部屋の方から影が廊下に伸びた。

「ですが、今日も、かなりのお金を持ち去って」

「ムネオには十分金を与えているだろう。とにかく、金を払った相手を探し出して奪いかえせ」

「その前にムネオ様を叱りつけてもらわないと、キリがありません」

 焦げ臭い。焦げ臭いどころか、煙が廊下の天井をつたって広がっている。

「なんだ、焦げ臭いぞ」

 ミチズナも気づいたようだ。

 管理されていない火が、燃えているに違いない。

 まさか……

 ミチズナのいる部屋の隣、暗い廊下で扉が開いた。

 すると扉から一人廊下に出てきた。

「!」

 ハナだ、俺は思った。だが、ここからだと、ミチズナのいる部屋脇を通過しなければならない。

 俺は完全に一階に降りた。

 俺は懸命に存在を強調したが、ハナは俺に気づかずに声を上げた。

「死んじゃった! 燃えている! 助けて!」

「今の声」

 ハナはミチズナの声を聞いて、部屋に入ってしまった。

「お前は誰だ」

「おじさん、胸が溶けて燃えてしまった」

「これがムネオ様の……」

 俺は暗い廊下の奥に、光の歪みを見た。

 ハナが出てきた部屋の扉から、煙がモウモウと吐き出されている。

 おそらくヤツの光学迷彩が、煙の動きを正確に擬態できないのだ。

 レーザーサイトの赤い光が、煙で視覚化される。

 部屋の壁に張り付いている俺を、ヤツは発見した。

 気づくのが遅れた俺は、フリーズしていた。

「ムネオ! 一体こんな子供、何人買ったら気が……」

 ミチズナが俺とヤツの間に飛び出してきた。

 完璧なタイミングだった。

 ミチズナが言葉を失い、倒れていく。

 胸から火がついて、燃え始める。

 俺は電子銃を構え、煙の擬態をしきれていないヤツの影に向かって引き金を引いた。

「……」

 直線を描いた稲妻のような光は、確かにヤツに当たっていた。

 しかし、ヤツは立っている。

 見ている事実が理解できず、俺は立ち尽くした。

 ヤツのレーザーサイトも動かない。

 それとも()れているのか。

「ミチズナ様! ミチズナ様!」

 と、部屋の中から声がする。

 声に反応したかのように、レーザーサイトの赤いポインターが動き始める。

 ヤツの足元から、廊下を直線的に進み、ミチズナの死体を通って、俺に向けられた。

 俺の電子銃はもう撃てない。きっとさっきの一撃も、バッテリー電圧低下のせいで十分な威力が出なかったのだろう。

 避けろ、動け、俺の足。そんな言葉が、頭の中で何度も繰り返された。

「な、何者!」

 その声と同時に、奇跡が起こった。

 俺は再び救われたのだ。 

 部屋から飛び出してきたミチズナの家臣が、俺の代わりにヤツのレーザーを受けた。

 ミチズナに重なるように倒れると、家臣も発火した。

 俺は二人の死体を飛び越えて部屋に入る。

「お兄ちゃん?」

 俺はハナを抱き抱えると、小隊長がいるだろう二階に向けて声を張り上げた。

「ハナを見つけた!」

「やめてよ、お兄ちゃんが私を売ったんでしょ」

 ハナの膝が急所に入って、俺は思わず膝をついてしまった。

 俺の腕を振りほどいて廊下へ向かった。

「ハナ、そっちはダメだ」

 ハナは立ち止まって振り返った。

「私を助けてくれたお兄さんから、そう聞いた。信じちゃダメだって」

 騙されていると言い返そうと思ったが、俺は言葉が出なかった。

 ハナの背後、姿は見えなかったが、部屋に入り込んでくる煙によって、光学迷彩の歪みが見えたのだ。

 ヤツのレーザーサイトがハナの髪を赤く照らしていた。




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