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Hoshoku-sha 〜異世界転移してきた敵には光学迷彩の能力がありました〜  作者: ゆずさくら


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重病

 麓の村に着くと、自然と村人たちが集まり、隊員の自分の家に連れて帰ろうと誘ってきた。

 キダイと違って村には宿屋も食堂もない。

 たまに来る兵隊はこうやって村人の家で食事を共にし、寝る場所を借りていた。

 無償で寝床を借りたり、飲み食いさせてもらうわけではなく、小隊長から金を払っている。

 俺は頼まれた言葉の通り、ハナの家で宿泊することにした。

 家に着くと、姉のナツが出迎えてくれた。

 ナツは彼女本来の白い肌を清潔に保っていて、貧乏そうに見せるための汚い化粧をしていなかった。

 俺はかなり不躾だったが、いきなり話を切り出した。

「?」

 ナツの反応は、初めて聞くかのように目を丸くしていた。

「ハナがそう言ったから、今回もここに来たんだ」

 ナツはトントンと机を二回叩いた。

 するとハナは自分達の部屋に入って行った。

 ナツは指で奥の部屋を示した。

 奥の部屋に来いということだと思い、俺は黙って部屋に入った。

 ナツが入ってくると部屋の扉を閉めた。

 部屋の灯りはついておらず、隣接した部屋から差し込むわずかな光だけで、全体がぼんやりと見えていた。

「なんだ、いきなりハナちゃんはどうして部屋に入っちゃったんだ」

「机を指で叩いたら部屋に入れとハナには教えてるの」

「……」

 ナツはベッドに腰掛けた。

「来客と寝る時もあるからよ。私がそんなことしているの、ハナにはまだ教えられない」

「お、俺は別に寝たいと言ってないぞ」

 余計な想像をして顔が熱くなる。

「誤解しないで。寝るわけじゃないわよ」

 いや、実際、半ばその気になりかけてたのだが、要求してもいいのだろうか。

 元の世界で経験がないのに、異世界に来ていきなり女を買うというのはどうなんだろう。せめて普通に恋愛して

「……聞いてる?」

「な、何?」

「大きな声では言えない。私たちの芝居を隊長に言わなかった、あなたを信じて頼みたいことあるのよ」

 ナツの話はこうだった。

 ハナが重たい病気に罹っている。本人には知らせていないが、治すにはミチズナのいるモエギの街の医者に診てもらう必要がある。治療には何年もかかる。ハナには言わず、街の医者に連れて行ってほしい。

 ……と、そういう話だった。

「ちょっと待て、そんな重病のハナを走らせたのか?」

「なんのこと?」

「この前、俺がこの村を出て行く時だよ」

 小隊を追って、村の端までハナが走ってきた。

「別に走ったって問題ないじゃない」

「だって、さっき、ハナは大病だって、言ったじゃないのか」

「そう言うことが影響する病気じゃないの」

 大抵の場合『(やまい)』に掛かると、激しい運動はさせないものだ。

 それともこの世界ではそう言う常識は無いのだろうか。

 それだけでは無い。俺は続けた。

「もう一つ。ナツがハナを街に連れて行くのでは、何故ダメなんだ?」

「私が連れて行くと、私の後をついて来て、村に戻ってきてしまうでしょ」

「そんなに戻りたいなら、ハナが一人で医者を抜け出す可能性だってあるだろう」

 俺が連れて行く途中で村に戻ってしまう可能性だってある。

「長吉、あなたが連れて帰るという話をあらかじめしておけば、ハナもすぐ帰れると思うでしょう」

「騙すのか?」

「病気のこととか、どのみちどこかでハナに嘘をついているのよ」

 俺は言い返せなかった。

 すでに俺も小隊長やこの村の人々に嘘をついている。この()たちのことを嘘だと指摘すべきなのに、それをしていない。転生しているのに、そのことも話していない。どこかで俺も、多かれ少なかれ嘘はついているからだ。

「……」

「いい? お願いしても」

「受けない、と言ったら?」

 ナツは睨みつけてきた。

「この場で騒いで、同意なしに寝ようとしたと叫ぶわよ」

「それがどうした」

 俺はベッドで体を仰向けにして、横になった。

「どういうことになるかわかってないのね? 認められれば、村の真ん中で(はりつけ)よ。死罪なのよ」

「事実を調べればわかる」

 ナツは鼻で笑った。

「この密室で起きたことをどうやって、誰が調べるというの? 私がいえば、ハナも同じことを事実と言うわ。二対一よ」

「一方的な申告で死刑なんかになるもんか」

「死刑にならなくても、社会的に致命的ではあるわ」

 上から覗き込んでくるナツの表情は真剣そのものだった。

「本気か」

「だから私はわざわざあなたとこの部屋で、話しているのよ。ハナの証言を誘導出来るように」

「……」

 社会的に自由が奪われれば、ヤツを倒せない。ヤツを追って転生出来ない。つまり、この世界に閉じ込められると言うことだ。

 わざわざこんな世界で閉じ込められるために転生してきたのではない。

 ヤツを倒すために転生してきたのだ。

 いや、待て、ヤツを倒した時に、俺と愛瑠は別の世界に転生できるのだろうか。

 それともヤツを倒した時点で、その世界に閉じ込められるのだろうか。

 元の世界に戻れないとは言っていた。

 だが、世界を選ぶこともできないのだろうか。

「聞いてる?」

「あ、ああ。引き受けるよ。けど、ハナに聞かれないように村長や小隊長に話す方法を考えないと……」

「それは夕食の後、私から村長と小隊長に話をしておきますから」

 ナツの顔が、仰向けに寝ている俺に近づいてきた。

「ありがとう」

 そう言うと、俺のおでこにキスをして、ナツは部屋を出ていった。

 俺は平静を装ったが、実際は気持ちが上がっていた。




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