小隊との合流
俺はキダイの中を彷徨っていた。
あちこちで大きな声がする。どうやら部隊が召集されているようだった。
ダイセイ側の門が開けられて、敵が侵入し始めているのだ。
俺はようやく見覚えのある建物を見つけた。
門が開け放たれたせいか、一定の方向へ霧が流れていく。
「確かあれを見て、中央に向かったんだ」
朝、小隊が取ったルートを追いかけていく。
いつの間にか、霧は晴れていた。
ここだ、と俺は思った。
小隊長に見張れと言われた建物だ。
「長吉!」
俺は振り返った。
その直後に、俺は道に倒されていた。
タスケが立っていた。
布を巻いた拳を震わせている。
「お前のせいで……」
後ろに小隊の皆んなが立っていた。
小隊長がかろうじて無傷に見えたが、他、全員が傷を負っていた。
「建物の入り口を守れと言ったろうが」
「『赤い亡霊』が……」
「その前にやることを」
小隊長が助けを抑えて、前に進み出た。
「亡霊をやったのか」
俺は首を横に振った。
タスケが小隊長より前に出てきて、俺の首に手をかけて押し倒してきた。
「そっちも出来ないのか」
「……」
俺は言い返せない。実際、ヤツを追いかけたというより、ヤツの罠に掛かってしまったという方が正しい。そして戻って来るまでの間は『道に迷っていた』のだから。
「タスケ、落ち着け」
小隊長がタスケを羽交い締めして、俺から引き剥がし、他の隊員に引き渡すと、小隊長が戻ってきた。
「今回はたまたま全員生きてた。だが、二度はないぞ」
建物の壁に映った赤い光を見たせいで、小隊長の声に意識が及ばなかった。
「危ない!」
俺は小隊長を突き飛ばした。
どこから狙われていたのか分からなかったが、小隊長の肩が焦げ、発火した。
隊員が駆け寄ってくる。
「隊長!」
「『赤い亡霊』がいます! 警戒してください」
「いるのか!」
「隊長はヤツに撃たれたんです」
全員が周囲を警戒し、クロスボウを準備した。
「赤い光を見つけたら、その後ろにいます」
全員が恐怖で顔が引き攣った。
「なんで見えないのにわかるんだ?」
「今なら見えるはずです。地面スレスレを見てください。光が歪むんです」
「歪む?」
俺は必死に周囲を見回す。
「赤い光が!」
隊員の一人が光を見つけ、その後ろを指さす。
四人のクロスボウが姿の見えない敵に向けて、放たれた。
建物の壁に突き刺さる矢と、壁に弾かれて跳ねる矢。
「誰もないぞ」
「光の歪みを探してください」
「そんなこと言ったって無理だ」
俺は光の歪みを見つけた。
隊員の体の隙を縫って、クロスボウを向け、放つ。
「あぶね!」
「そこに」
隊員は振り返り、一斉に矢を放つ。
「……」
付近に光の乱れがない。移動されたに違いない。
隊員の一人が声を上げた。
「おい! その赤い光……」
全員の視線が集まったその先には、タスケがいた。
「何やっている! 避けろ!」
俺は同時に、タスケにポインターを当てれる場所、すなわち『赤い亡霊』の居場所を探して、クロスボウの引き金を引いた。
「タスケが撃たれた!」
何もないように見える空間で、光が乱れた。
俺はその光の乱れに向けて、電子銃を構えた。
タスケに駆け寄る隊員も、そうでない隊員も、俺が銃を向けた方向に目を向けた。
そこには金属で出来た人間もどきが立っていた。頭部は綺麗な球体で、口のあたりには編み目状の金属が真横伸びている。目に当たる部分は一つで、透明なガラス状の内部に、カメラと発光部が一体になったものが納められている。
どうやら、俺の放った矢が、光学迷彩のマントを開き、そして建物の壁に止めてしまったのだ。
小隊の連中は声も出なかった。
拳銃で撃っても、傷一つつかなかったヤツにクロスボウを打ったところで、この程度にしかならないことはわかっていたはずだ。
「何してる! 長吉、撃て!」
小隊長の声だ。
やつの持っているレーザーガンが俺に向かってくる。
避けながら撃たないと相打ちになる。
俺は、ヤツの腕の動きと同じ方向に体を蹴り出した。
レーザーが打ち出された。照射された光が、俺の背後の建物を焦がす。
俺は体が地面につかないうちに、引き金を引いた。
電子銃の狙いが逸れていて、ヤツの右横を抜けた。
体が、地面に激突すると、もう一度狙いを定める。
しかし、ヤツがいない。
この一瞬で光学迷彩を復帰させたのか。
確かにマントの端が建物に打ち付けられただけで、それを外して纏うのに時間はいらない。
周囲に光の歪みがないか、探すが見つからない。
背後で、ヤツのレーザーを受けた建物が燃え始めた。
狙いを外してしまった俺の電子銃も、建物の壁を破壊してしまっている。
FPSなら何度もくぐり抜けてきた死線のはずだった。だが、リアルでも、ゲームのように簡単にクリア出来るものではなかった。
今度、ヤツを殺れる機会はいつくるのか。
この世界なのか、次の世界なのか。
「!」
俺はタスケに駆け寄った。
「タスケ!? 大丈夫か?」
隊員に囲まれ、仰向けに寝ているタスケ。
服が燃えた為に、水をかけられていた。
胸の部分は燃えて服がなくなっている。焼け爛れた胸と見開いたままの目。
「タスケは死んだよ」
「タスケ……」
この短い間にあった、タスケとの出来事を思い出していた。
ほんの一瞬で、こんな姿になってしまった。
俺のせいで殺された父、母、妹……
「見ろ、こんなに胸が溶けて削がれて」
「お前が『赤い亡霊』を呼び寄せてるんじゃないのか」
「……疫病神」
タスケを囲んでいた隊員が立ち上がり、俺を睨む。
「お前が見張りを放棄して、赤い亡霊を追ったせいだ」
「タスケはお前のせいで」
小隊長が俺の腕を引っ張った。
「こいつの処遇はカズマに決めてもらう」
つまり、それは『規律違反』で、軍の裁判にかけるという事らしい。
小隊長がアツミと話をして帰ってくると、現状を説明した。
山賊の襲撃から始まったダイセイの攻撃は、霧が晴れると同時にほぼ止まったそうだ。
我が小隊が山賊を抑え込んだことに、アツミ様が感謝していたという。
クレヒトが山賊を抑えることで、門側に攻撃を集中できたからだ、と。
山賊の侵入で混乱したところを不意打ちするはずだったダイセイは、キダイ側より被害が大きくなってしまった。
被害状況から、ダイセイも再びキダイ攻略を仕掛けてこないだろう。
小隊はキダイに来てたった一日で役目を終え、カズマの元へ帰ることになった。
俺たちはタスケの墓を作り、キダイを離れた。
山道を歩き、小隊はハナとナツがいる麓の村に向かった。




