表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Hoshoku-sha 〜異世界転移してきた敵には光学迷彩の能力がありました〜  作者: ゆずさくら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/39

キダイへ向かう道

 何事もなかったように俺はハナに起こされ、朝食を済ませた。

 俺は余計なことは一切話さなかった。

 部屋を出ていく間際、姉のナツが近づいてきた。

「私たちが貧乏な家の芝居をしたって、知ってしまったのね」

 俺は頷いた。

「お願い」

 姉が背後から抱きついてきた。

 暖かくて柔らかい体の感触が伝わってくる。

「誰にも言わないで。昨日言ってた、三倍食べたことにはしませんから。だけど、貧乏のフリをしていたと隊長に言わないで下さい。兵隊を泊める家には、基準があるの。お金がある者は参加できないのよ。私たちはお金があるけれど、親がいない。親が残してくれたお金を使い切ったらおしまいなの。だから……」

 俺も親のいない身だ。どれだけ不安で苦しいかはよくわかる。

「分かってる…… このことを他の人に言う気はない。けど、それこそ、村人に監視されているんじゃないのかい?」

「心配してくれてありがとう」

 俺は前に出て、体を離した。

「昨日の約束の通り、三倍食べたことにして」

 俺はそう言って家を出た。

 村の中を歩いて、広場につくと、ちょうど同じ頃、四人も各々が泊まった家から集まってきていた。

 小隊長が来ると、一人が言った。

「俺はウメの家に泊まった。夕食、朝食と、枕を共にした」

 俺は近くにいた別の兵に聞いた。

「枕を共に…… って?」

 その兵は笑った。

 腰だけを突き上げるように何度か振るが、俺は何がしたいのか分からなかった。

「これでもピンとこないのか? 家の女と寝たんだ。男と寝るやつもいるが」

「申告するのか?」

「横に村長がいるだろう。小隊長が村長に申告した内容に合わせて金を渡すんだ」

 俺が何と申告しようか戸惑っていると、男が言った。

「俺がやるのを真似すればいい」

 四人目の申告として、そいつが小隊長の前に出た。

「朝飯、夕飯は多めに食べたな。あとは普通にベッドで寝ただけだ」

「タスケの申告について了解した。次」

 俺はまだ戸惑っていたので、別の兵士が報告した。

「最後に長吉」

 俺は呼ばれると小隊長に言った。

「夕飯は普通の三倍食べた増した。あとは朝食を普通です。ベッドも一人で使いました」

 小隊長の横で村長が羽ペンで書き留めていた。

「合計で金貨二枚ですな」

 小隊長は村長の持っている板を引き寄せ、乗せた紙に書かれた数値に目を走らせる。

「ほら」

 袋から金貨を二枚、紙の上に載せた。

「ありがとうございます」

 村長は小隊長ではなく、金貨に頭を下げたように見えた。

 俺たちは出発する為、村の外れに進んでいった。

 小隊長が、突然で合図すると、立ち止まった。

 隊は止まって警戒する。

 剣を抜き、クロスボウをセットする。

「!」

「……子供だ」

 小隊長が指をさす。

「子供?」

 隊全員の視線が向けられた先にいたのは、ハナだった。

「なぜついてくる」

 小隊長は脅すように強い口調で言う。

「そこの兵隊さんに用があるの」

 ハナは俺を指差した。

「早くしろ」

 小隊長が言うと、全員が剣やクロスボウをしまい始めた。

 俺はハナのところにいくと、腰を屈めて目線を合わせた。

 小さなハナは、俺たちを追いかけるので必死だったようで、呼吸が乱れていた。

「ナツ姉、ちゃんが、帰りに、家に、寄って欲しいって」

 俺は少し考えた。

 帰り? そもそも生きているだろうか。あるいは、転生しているかもしれない。ここから先のことで、保証できることは何もない。

 だが、約束ぐらいしていいだろう。

「……生きていたら寄ることにするよ」

「それだけ」

 目と鼻の先にいるのに、ハナは遠くにいる人間にするように大きく手を振った。

 俺も手を振りかえした。

 そして前を向くと振り返らなかった。

 小隊が山に入り、しばらくすると村で話した兵士、タスケが近づいてきた。

「長吉、枕を共にしたと申告してなかったよな」

「ああ。一人で寝たからな」

「じゃあ、あの子は何しに追いかけてきた?」

 ニヤニヤ笑うタスケに、俺は本当のことを言うことが出来なかった。

「それはどうだっていいだろう」

「子供と寝たんだろ」

「そんなの異常だ。犯罪だ。気持ち悪い」

 急に小隊の進行が止まった。

 タスケが俺の口に手を当ててきて言う。

「(ばか、なんてこと言うんだ)」

 人の多様性を受け入れろ、と言うことか? それとも、この世界では下品なことを話してはいけないのか? 何が悪くて俺は今、小隊全員から睨まれているのかがわからなかった。

 先頭を歩いていた小隊長が後方の俺のところへやってきて、拳を握った。

 タスケが両手を上げた瞬間、俺の頬に小隊長の拳が入った。

「……」

 一瞬のことで、俺には何が起こったか理解できなかった。

 俺が倒れると、小隊長が踵を返して先を急いだ。

 隊も小隊長に続いて無言のまま移動を始めた。

 なぜ殴られたかわからないまま、俺は置いて行かれた。

 とにかく立ち上がって、荷物をまとめて背負い直すと、隊を追いかけた。

 キダイへ向かう道は、厳しい山道で、離された距離を追いつくのには時間がかかった。

 昼を食べる時、タスケを連れて小便するついでに俺が殴られた理由を訊いた。

「知らなかったのか?」

 タスケは周囲を気にしながら、そう言った。

「何のことだ」

「小隊長にはそういう病気があって」

「病気? 性的嗜好じゃなくて、小児性愛って意味?」

 タスケはまだキョロキョロと周囲を見ている。

「小便が飛び散るから、キョロキョロ見回すのやめろよ」

「とにかく、隊長は以前そう言う感じのお泊りをしちゃって」

「えっ」

 もしかして、彼女達が言っていたのはこれか。

「村長がミチズナ様に訴えて、小隊長に降格したのさ」

 タスケは静かに目を伏せた。

「カズマと肩を並べるお人だったのに」

「けど、殴られたのは俺のせいか? 全部本人の問題じゃないか?」

「そこは単に気に食わなかったんだろ。とにかく俺たちはそのことを知っているから、その手の話題は口にしないのさ…… 殴ったのは、あの()が小隊長の好みで、嫉妬、という線もあるかもな」

 理不尽な暴力であることは変わりがない。

 この世界にどれくらい居続けるかわからないが、こんなことでトラブっても仕方ない。発言に注意するしかない。

 ふと俺は気づいた。

「おい、タスケ。いつまで小便してんだよ。もういくぞ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ