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Hoshoku-sha 〜異世界転移してきた敵には光学迷彩の能力がありました〜  作者: ゆずさくら


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ダークエイジ

 俺は目を開くと、雪に沈んでいくところだった。

 俺はバタバタと手足を動かして、沈むのをこらえた。

 手足に触るのは、冷たく、柔らかい新雪。

 雪が降り続いている。

 プラスチックの服は、空気を溜める部分が多く、肌が出ている部分以外、防寒的にはまずまずだった。

 降り続く雪のせいで、周囲に何があるかも分からない『ホワイトアウト』状態だった。

 愛瑠(める)も同じ世界に落ちたなら、周囲に跡があって良さそうだが、次々と降る雪と、風で巻き上げられる雪、それら世界を塗りつぶすような雪のせいで何も分からない。

「メル!」

 声は雪にかき消されたように感じた。

 辺りがものすごく広いのか、やはり雪のせいで音が吸収されるのか、理由は分からない。だが、声が届かないだろうということは分かった。

 進むべきか、待つべきかも分からない。

 握っていた銃を見ると、安全装置が外れていた。

 それはそうだろう。転生した世界にこの銃を規制するものは無い。

 俺は動かないことに決めた。

 いわゆる『かまくら』のようなものを作って、この風を凌ぐことを考えた。とにかく、風と降る雪を凌げれば体温の低下を防げるはずだ。

 雪を集めたり固めたりしているうち、最初は痛かった指の感覚がなくなっていくように感じた。

 完全に周囲を囲うことは断念して、屋根を省略し、風を凌ぐ壁を作りそこに隠れるようにうずくまった。

 必死に生き抜こうと考えているうちに、俺は寝てしまった。

 寒さで再び目が覚めると、雪は止んでいた。

 空は真っ黒に変わっていて、星が輝いている。

 周りが見えるのかと思って、雪の壁から立ち上がると、遠くの木々で見え無いが、その先から煙が上がっているのが見えた。

「火?」

 煙が上がっていると言うことは、火が炊かれている。つまり人がいるはずだ。俺は煙の出ている先へ移動することに決めた。

 俺は雪の上を歩きはじた。

 木々が近くなってくると、煙の方向が分からなくなった。

 俺は、仕方なく遠回りをして、雪原を周りこむように歩いた。煙が近くなってくると、回り込むこともできず、その林の中に入っていった。

 この世界がどんなところなのか、煙の出どころを見ればわかるだろう。

 最初は見えなかった明かり見えてきた。

 いくつか、家が集まって立っていた。

 俺は、一番近くの、鎧戸のわずかな隙間から、中の明かりが漏れているのを見た。

 こんな微かな光をありがたく、眩しく思ったことはなかった。

 その家の扉を探し、扉を叩こうと思ってやめた。

「……」

 自分の格好が浮いているのか、それとも受け入れられるのか。

 この世界に、どんな人間がいるか分からない。

 言葉が通じるかも、どのような生活をしているのかも分からず、家に飛び込んでしまうのは危険だ。

 ただ、このまま夜を越せるかと言う点が不安だった。

 俺は鎧戸に近づいて、中の声や様子が見れ無いか見たが、窓自体は複数重なっているようで中の様子を窺い知ることは出来なかった。

 家々の間を歩くうち、俺は馬のいる家畜小屋を見つけ、そこに入り込んだ。

 今日はここで寝よう。

 小屋の隅に隠れるように藁を集め、身を潜めるようにして横になった。

 俺は、強烈な悪臭と、馬の鳴き声で目が覚めた。

 馬が糞尿をしたのだ。馬自らも臭かったようで、必死に蹴って散らしている。嘶き、糞を自ら蹴る際に壁に当たるので、それも大きな音がした。

 このままだと見つかってしまう。

 俺は慌てて小屋を出て隠れた。

 小屋の角から見ていると、家の方から住人が出てきた。

 住人は羊毛で編んだセーターを着ていた。

 服も肌も薄汚れていて、ヒゲは伸ばし放題だった。

「なんだ? バカ馬が」

 小屋を開けると、すぐに出てきた。

「また小屋の中でクソしやがった。本当にバカ馬め」

 家に戻ると、男はもう一人連れてきた。

「俺が馬に乗って狩りをして来るから、馬ごやを掃除しろ」

「私、馬ごやの掃除をやったことないの。簡単にやり方だけ教えて」

 女性の声だ。聞いたことがあるように思えた。

 角度的に顔が見え無い。

「糞を集めて、そこの山になってるところに捨てればいい。ほら、さっさとやれ」

 男は馬を小屋の外に連れ出すと、鞍をつけクロスボウを持って馬にまたがると、馬を走らせ、行ってしまった。

 俺は辺りの様子を見てから、回り込んで小屋の中を覗き込んだ。

愛瑠(メル)?」

「!」

 さっきの男と同じセーターを着た女は、振り返った。

「違うわ。今、私は『(コト)』よ」

 この世界の服なのか、セーターを着てはいたが顔は愛瑠だった。

 そうか。と思い、俺はプラスチックの服についているポケットを探した。

 確か、カード状の身分証を入れていたはずだったが、指に触れたのは布だった。

「布に変わってる?」

 俺は焦って、銃に手を伸ばした。

 電子銃はそのままの形で存在した。

 どうして、銃や服、背格好は変わらないのに、身分証はプラスチックカードから布に変わったのだろうか。

 俺は取り出した布に書かれている文字を読んだ。

長吉(ちょうきち)

 俺の名が可笑しいのか、言い方が変だったのか、愛瑠(メル)はクスッと笑った。

「さっきの男は何? 分かってる限りでいい、状況を教えてくれないか」

「私が転生した場所はこの付近で、直後にあいつに捕まったのよ。この世界では銃がまだ発明されていないから、この世界は中世に相当するなのかな」

 銃がない、電気がない。俺の知っている世界観でも中世だった。あちこちの地域で戦争が続く『中世』は別名暗黒時代(ダーク・エイジ)と呼んでいた。愛瑠のいた世界でも、そう言うかは知らないが、この状況を『中世』と呼ぶなら、俺たちと似たような時代、文化を歴史としてもつ世界だったのだろう。

 ただ、羊毛のセーターや、クロスボウは、自分のいた国の『中世』文化とは違う。それらは同じ『中世』でも他国のものなのだ。元の世界とはある部分似ていて、ある部分は違っている。

「なら、今、ここから逃げよう」

「……」

 愛瑠(メル)は何も言わず俺の背後を見ている。

 人の気配と、強い殺気を感じていた。

「ちょっと目を離せばこれだ」

「……殺さないでください」

 さっき馬で出て行った男の声だ。

 クロスボウで狙いを付けているに違いない。俺はゆっくり手を上げた。

「お前も(コト)が着ていた服と同じようなものを着ているな。いったいどこから来たんだ」

「その何処かで頭を打ったのか、記憶が」

「……その質問の答えまで、琴と同じとは、怪しい」

 俺はゆっくりと男の方に振り返ろうとした。

「おい、止まれ。勝手に動くな」

 男は、俺の腰へ手を伸ばしてきた。

「触ったら危険ですよ」

「その奇妙な格好のモノの何が危険なのだ?」

「これを手に取り、そちらに振り向いて良ければ、説明します」

「……」

 俺は男の沈黙に耐えきれず、体を動かした。

「説明しましょう」

「おい! 止まれ!」

 男は恐る恐る銃に手を伸ばしてきた。しかも、引き金部分に触れようとしている。

「触ったら危険です。扱い方が」

 このまま撃たれたら、俺の下半身を吹き飛ばしてしまう。

「黙ってろ」

 死角で動かれていて、何をしようとしているのか分からない。

 俺は死を覚悟した。

 男が引き金に触れると『パリパリ』と銃身付近で電荷が爆ぜる音がした。

「うわっ!」

 音に驚いたのか、男はクロスボウを放り投げ、尻餅をついてしまった。

 俺は銃を抜いて、男に狙いをつけた。

「だから危ないと言ったのに」

 男は怯えた顔をして、俺を見上げていた。




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