追跡
俺は引き金を引いた。
「?」
レーザーサイトの赤いポインターが、まるで探るかのように俺の周囲を探るように照らしていく。
もう一度、狙いをつけて引き金をひく。
何も起きない。
いつの間にか、安全装置が働くエリアに入っていたのだ。
俺は額に何かを感じ、全力で飛び退いた。
勘は当たっていた。
今いた場所は、強力なレーザーで焼かれている。
死…… 死ぬところだった。
下がらないと、撃てる領域に逃げないと、隠れないと……
俺は必死に森に戻った、明るい道からの射線を気にしながら。
後ろから愛瑠とアキナが追いついてきた。
「やったの?」
俺はアキナに向かって首を横に振った。
「いや……」
「安全装置が働いたのね」
俺は頷いた。
「もう森には入ってこないだろうな」
大きなチャンスを逃してしまった。
ヤツはこの世界にいる限り、森には入ってこないだろう。
俺たちがいないとわかっていない限り。
「ねぇ、あなたたちとヤツの関係はなんなの?」
「……」
愛瑠が、言った。
「どこまで聞いてるの?」
「親を殺されたって」
「転生したっていうことは?」
アキナは不思議そうな顔をした。
「転生?」
「あり得ないと思われるかもしれないが、俺たちは転生してきた」
「転生って、生まれ変わったということ?」
俺は頷いた。
「黙っていてごめん。ヤツも転生している」
「転生して、この世界でも殺人しているの?」
「……」
アキナの言うことに答えられなかった。
俺と愛瑠は転生した先で相模紀子と相模和男と言う名があった。だが、ヤツはなんだ。この世界でも殺人を犯している。この世界でも『異物』のままなのだ。光学迷彩を使って、隠れながら、罪もない人を殺している。
どれだけ転生してもどの世界でも『異物』の扱い。
もしかしたら、生まれた世界でもそうだったのではないか。
初めから殺人鬼として作られ、転生を続ける悲しい異物。
それを追っている俺たちはなんなのだ。
「ねぇ、どういうこと」
「……いや、あの、よく分からない」
「究極の親ガチャが発生しているこの世界に、金持ち姉弟として転生してきて、やってることは同じように転生してきた者を殺すことだけ。その立場、こっちに譲ってほしいわ」
「親ガチャって言葉はあるんだ」
アキナの境遇を考えれば、納得する。人口減の対策として、金のない人は子供を育てない。金がかかる子供は施設で効率よく育てる。親から何も得られないし、自由も得られない。
金持ちは親に育てられ、自由に生きることと、親の遺産を相続することができるわけだ。
「私が知る限り、ヤツはどの世界でも殺人鬼よ」
アキナは俺の顔を見た。
「俺は、ひとつ前の世界で親を失って、ヤツを追いかけてきた」
「なら、さっき、ヤツに家を焼かれた人も、あんたと同じように転生するかしら」
「さあ、それは」
アキナは首を傾げて考えた後、
「あなたたちは転生後、新しい名前があったりするのに、なぜヤツは殺人鬼のままなのかしら。転生しても名前も役割も変わらないなんて、どれだけ業が深いっていうの」
「『業が深い』ってどう言う意味?」
アキナに訊いたつもりだったが、言葉に詰まっていた。
すると愛瑠が代わりに答えた。
「私も良くは知らないけど、悪い行い、って考えていいんじゃない」
「あなた達も、そのうちひどい転生をするわよ。『復讐』なんていう行為が『良い行い』な訳ないもの」
それはそうかもしれない、と俺は思った。だが、転生した目的自体が『復讐』なのだから、目的を遂げずにこの世界に骨を埋めるわけにはいかない。
では復讐を遂げたら、どうする?
「……」
俺はアキナの瞳を見つめた。
アキナも俺の目を見つめ返してくる。
「何よ」
「……なんでもない」
顔が熱くなった気がする。
「あら、二人の間には何かあるのかしら?」
『何もない』
愛瑠は声を上げて笑った。
二人が同時に同じことを言ったからだ。
「私もヤツを倒したら、イイ男を探そうかしら」
そんな話をしてから、俺達は山を出た。
ヤツがいないことを確かめながら、慎重にではあった。
殺人と放火の現場付近に戻ると、周囲では別の騒ぎが起きていた。
警察がメモをとりながら地域の住民に話を聞いている。
「ここに止めていた飛行体を盗まれた、と。機種は?」
「MM社のXM3です。ちょっと目を離した隙に」
「カードをお借りします」
警察は、盗まれたという住民のカードを読み取り端末に当てた。
「XM3は東部海岸沿いを飛行中ですね。マニュアル飛行で、目的地の入力はない。ご家族でこの方面に行かれるとかそういうことは?」
「ありません。だから盗まれたと言っているでしょう?」
「すぐに追跡の手配します」
俺たちは、自分達の飛行体が盗まれていないか、慌てて確認した。
安心して、離れようとした時だった。
俺たちは別の住人の証言を耳にした。
「その飛行体、誰もいないのに扉が開いたんですよ」
「誰もいないのに?」
「手動運転しているとしたら、余計におかしい。見る限り、誰も乗っていませんでしたから」
「そんな馬鹿な」
光学迷彩を身につけていたなら、そう映るだろう。ヤツだ。ヤツが飛行体を奪ったのだ。
俺達三人は顔を見合わせた。
「間違いない」
「追いかけましょう」
俺たちはレンタル飛行体に乗り込み、再び警察情報へアクセスすると、東海岸を飛行中のXM3の情報を取り出した。
俺たちは、警察情報からXM3の出す位置情報に向かって自動飛行をすればよかった。
アキナが聞き返す。
「ねぇ、追いかけてどうするの?」
「追い詰めて、銃で撃つ。それだけだ」
「地区の警察から出発した飛行体も追いかけている。こっちがついた頃は、きっと飛行体は捕まっているわ。だから、きっと誰も乗っていないわよ」
アキナの言う通りかもしれない。けれど、それでも追わなければならない。
見失ったらお終いだ。こちらが知らない転生の扉に飛び込まれたら、なんの為にこの世界に来たのか分からなくなってしまう。
「追いかけなきゃいけないんだ。運命なんだ」




