レーザーサイト
飛行体を止めて少し歩くと、規制線が張られていた。
事件現場はなだらかな山の裾野に建っている一軒家で起こった。
家は半焼して燃え残った屋内を曝け出していた。
愛瑠は、話し込んでいる二人の女性に声をかけた。
「すみません。何があったんですか?」
声をかけた方ではなく、振り返った方の女性が口を開いた。
「あの家に住んでいたご家族が三人とも、胸を焦がされて亡くなったそうよ。焦げた時の炎で、家も焼けたとか」
「あそこのお家は、お金持ちだったから、お子さんをご自宅で育てていたのに」
俺は、その話を聞いて動悸がした。
感じている鼓動は、次第に早くなっていく。
怒りと恐怖、寂しい気持ちが混ざり合っていた。
興奮状態へと高まっていく。
「そういえば、お子さんはもう一人いたんじゃないかしら」
「あら、そう? それじゃあ、まだこの近くにいるのかしら」
俺は完全に頭に血が上っていた。
隠し持っている銃を握り込んで、撃ってしまいたい。
そんな状態で辺りを見回すと、光学迷彩の処理の乱れを見つけてしまった。
俺は小さい声で愛瑠に言う。
「(見つけた)」
愛瑠は少しだけ、俺の方を振り向いた。
すると愛瑠が話しかけていた女性二人が、俺を見て言った。
「あら、この子」
「このじゃない? このお家の生き残り」
「!」
光学迷彩の乱れが、移動していく。
「それは人違いですよ。この子は私の弟ですから」
「あら、でもそっくり」
「そうね。似ているわ」
俺は、そう言う二人を無視して走り始めていた。
愛瑠が追ってきて小声で言う。
「好都合だわ、ヤツは山側に向かってる」
俺は思った。山側に行き、人が少なくなれば勝手に安全装置が外れる。
「(けど、仕組みがバレてたら)」
「(その時は死ぬわね)」
愛瑠の後ろから、アキナも走って追いかけてくる。
「何が見えてるの」
俺は木の幹に隠れるように立ち止まって、アキナの腕を取って止めた。
愛瑠も、岩の影に隠れるように身を潜めた。
「(声が大きい)」
「(だから、何が見えてるの?)」
「(俺の親を殺したヤツだ)」
アキナが幹から顔を出し、先を見ようとするのを引っ張って戻した。
「(迂闊に顔を出すな)」
俺はヤツのレーザーサイトの赤い光を見つけた。
赤い光は、周囲の草木の葉を、滑らかに動いていく。
「(あの赤い光、見えるか?)」
アキナは頷いた。
「(あれはヤツの銃が狙いをつけている場所だ)」
「(消えた)」
俺は、ゆっくりと体を低くしてから、木の影から出て、覗き込んだ。
下草が生えているせいで、光学迷彩の処理の乱れを見つけることができない。ヤツが動き始めれば、不自然な草の葉の動きで居場所がわかるはずなのだが……
「(まさか見失った?)」
「(お前が大声を出すからだ)」
俺は愛瑠が買ってきた銃を取り出した。
安全装置は…… 外れている。
これなら撃てる。
体を低くして、周囲を見回す。レーザーサイトの光りかたから、逆算するようにして、その中心、つまりヤツの居場所を見つけ出そうとしていた。
その時、レーザーサイトの光が消えた。
こっちはヤツの居場所を特定出来ていないのに、だ。
囮、何か囮が必要だ。
ヤツが再びレーザーサイトを光らせるような何かが。
動物が動いてくれるのが一番ありがたい。
だが、このままでは……
俺はアキナに手で合図した。
「(何か投げて)」
「(何かって何よ)」
「(なんでもいい)」
ヤツにこの声が聞こえていたら、俺はやられる。
「(投げるよ)」
アキナが何かを高く放り投げると、木の枝にあたった。
枝葉が落ちてくると、共に放り投げたものが落ちてくる。
落下地点に小動物がいたのか、ガサゴソと動き出す。
小動物が動かした草の葉に、レーザーサイトの赤い点が、チラチラと見えた。
「!」
声が出そうだった。
一瞬にして生の草葉が焼け焦げた。
射線が、あと数センチズレていたら、草ではなく俺が燃え上がっていた。
右頬に熱が感じられる。
焦げ跡は直線を描いていて、熱線の出どころが推測できた。
じっと見ていると、光学迷彩の処理落ちした輪郭が見えた。
しかし、なんであいつは俺の方に投げやがるんだ。
息を整え狙いをつけると、俺は引き金に指をかけた。
銃身からパリパリと電荷が爆ぜる音が音が聞こえる。
こんな音がしたら気づかれる!
俺は思い切って引き金を絞った。
青白い、直線軌道の光が走った。
しかし、何にあたるわけでなく、目標の先の斜面に当たっただけだった。
ヤツがいない。
銃身の音に気を取られた時に見失ったのだ。
「危ない!」
声を認識すると同時に、俺はアキナと一緒に草場を転がっていた。
転がった後、俺たちは、こぶのように盛り上がった土の先に飛び込み、腹這いになって隠れた。
少し頭を上げ、確認すると、俺がさっきいた場所は、全く異なる角度の二つの直線を描き焦げていた。
つまり、一発目を撃った後に左へ移動している。
「(怖かった…… まだ震えてる)」
「(ありがとう)」
俺が言った瞬間、アキナは体を合わせるようにしがみついた。
プラスチックの服越しに感じる。密着した体は、確かにまだ震えている。
死んだらどうなる。ここで死んだら……
俺の中にも恐怖が湧き上がってきた。
「(あいつ、なんで姿が見えないの?)」
「(具体的な仕組みはわからないけど、透明に見えるように体に映像を表示しているのさ)」
俺はそんな説明している間、死の恐怖を忘れているように思った。
よく考えたら、小学校の時、人間はいずれ死ぬと考えて恐怖した。
学校に行く必要なんてない、とさえ思った。
けれど、お腹が減って、ご飯を食べた。父や母と話した、妹と遊んだ。
その瞬間は死を忘れていた。
サッカーをしている時もそう。死を忘れていた。
ゲームをしている時も、いつか訪れる死について忘れていた。
ならばヤツを倒すことを考えている間は、死を忘れられるに違いない。
「(ほら、背中から退いて)」
俺は言った。
アキナは大人しく体を離した。
俺はそのまま匍匐前進して周囲の状況を確認した。
光学迷彩が働いていて、ヤツの姿は見えない。
だが、赤いレーザーサイトのポインターがチラチラと見えている。
葉に当たっている方向を読めば、もしかしたら……
必死に探すが見つからない。
俺は立ち上がった。
「愛瑠逃げろ!」
ポインターが愛瑠を狙っていたのだ。
愛瑠が飛び退くと、俺はヤツの場所がわからないまま、勘で引き金を引いた。
愛瑠も、俺と同じ場所に向けて引き金を引いた。
俺の撃った光と、愛瑠の撃った光は交じり合うかと思ったが、近づくと互いに反発して曲がった。
「しまった!」
曲がった先に、光の歪みが見えた。光学迷彩の歪みだ。
「いた!」
草葉を押し退けがら、逃げていく。
「見える!」
動いている跡が残る。これなら、殺れる。俺は走り出していた。
そして撃った。
ヤツに撃ち返す暇を与えたら負ける。
とにかく走った。
撃って、撃って、撃ちまくった。
進んでいく内、ヤツが森から出た。
明るい舗装された道の上では、足元が草葉で隠れないため、地面スレスレに発生する光学迷彩の処理乱れがはっきり見える。
立ち止まったヤツに、俺は狙いをつけた。
「これでお終いだ」




