自由恋愛
アキナがいつの間にか寝ていた。
女性だと思ってみる補正がかかるのか、寝顔は可愛く見えた。寝顔を見て何をするでもなく、しばらくすると俺も寝ていた。
どれくらい寝ていたのかはわからない。
気がつくと、飛行体の外から小さく声が聞こえた。飛行体は機密や防音性が高いらしく、聞こえてくるのは本当に小さな声だった。
俺は窓の不透明度を下げ、外の様子を見た。
「!」
そこには愛瑠がいた。
一人ではなく横にいる男、頭ひとつ分背の高い男の腰に手を回していた。
俺は隠れるように姿勢を低くした。
「それだけ?」
「もっと愛してる」
男がそう言うと、愛瑠の胸の辺りを弄りながら、キスをした。
俺の中で、妙な感情が渦巻いた。
それは、愛瑠との間に、何か具体的なことがあったわけでもないのに、愛瑠が『奪われた』という感覚だった。男に対しての憎しみと、嫉妬。
一方で、知っている女性が男とヤっているところを見れるのでは、と言うだけの性的な興奮もあった。
相反するように思える感情が、なぜ同時に湧き上がっているのか、頭では理解が出来ない。
「大丈夫だ、お前がよければ、ここで」
飛行体の影になりよく見えなかったが、男の手が愛瑠の腰より下へいった時だった。
「!」
男は愛瑠に頬を叩かれた。
「はぁ? お前が誘っといて……」
「うるさい! 嫌い。さっさと、どっか行って」
俺は目を丸くして見つめていた。
ホッとした感覚と、残念だと思う気持ち。
「誰、この女性」
「……姉」
「男の人は何、彼氏?」
俺は何と答えていいかわからなかった。
多分、転生して一日も経っていないだろう。今の男と出会って、キスをするまで、一時間以下の時間しかないはずだ。
「いや、知らない。多分、そこらへんで引っ掛けた男じゃないか」
「インランってヤツ?」
アキナに説明するために、一瞬だけ冷静になっていた頭に血が上った。
「痛い!」
「ふざけるな」
口で言う前にアキナの頬を叩いていた。
歯向かうアキナと組み合い、馬乗りになって押さえつけていた。
「何してるの!」
愛瑠がドアを開けるとそう言った。
俺は慌てて手を緩めると、アキナが咳き込んだ。
アキナは俺を払い退けて、愛瑠に向き直った。
「お姉様、助けて」
「あんただれ?」
俺はアキナのことを簡単に話した。
「社会の子ね…… そこら辺で子供を見ない理由はそれか」
「お願いします。何もお返し出来ないですが」
「正直ね。良いんじゃない。正直なのは」
アキナは飛行体のドアに立つ愛瑠の腰に手を回して抱きついた。
「ありがとうございます」
愛瑠が乗り込むと、俺は運転席に移動した。
愛瑠から目的地が書かれたカードを渡される。
飛行体のコンソールにカードを差し込む。
飛行体は受けつけた目的地を読み上げた。
「あんた運転なんてできるの?」
「いや」
「じゃあ、自動運転だからって、あんたがそこに座って言い訳ないじゃん」
エンジンを始動させるとコンソール付近のスイッチを切り替えた。
『手動運転に切り替わります。よろしければ承認を』
と警告が始まった。
「ちょっと、あんたさっき運転できないって言ったじゃん」
機械はその警告を幾度か繰り返した。
『承認されないため、自動運転に戻ります』
「……怖いな、まだ死にたくないんだけど」
アキナがそう言った。
愛瑠は袋から銃を取り出して眺めていた。
「とりあえず、切り替え方は分かったのね」
「お姉さんもしっかりして。飛行体手動で運転できるもんじゃないよ」
アキナの言葉に、俺はカッとなって言い返す。
「さっき、お前は飛行体を盗もうとしてたじゃないか。お前は運転できるって言うのか」
「盗むとか人聞きの悪いこと言うな。借りるつもりだったんだ」
「……だから運転できるのか?」
胸の前で腕を組み、そっぽを向いた。
「できる」
「じゃあ、ヤツと戦うことになったらアキナに運転を頼もう」
愛瑠がそう言った。
「ヤツって…… こいつが復讐しようとしてるっていう」
「言ったの?」
俺は頷いた。
「なら仕方ない。アキナさん、スマフォを出しなさい」
「……」
「これはしばらく預かります」
愛瑠は電源を切って、ポケットに入れた。
アキナは言った。
「その銃、知ってるよ」
「そう、それなら尚更スマフォは返せない」
「……あの」
アキナが何か言おうとしたところを、俺は被せるように言った。
「ねぇ…… さん。飛行体どこに向かってるの?」
俺は少し『お姉さん』と呼ぶのには抵抗があった。
愛瑠は即答する。
「事件現場」
ヤツがレーザー銃で殺しをした現場、と言うことか。
「さっきのイケメンくんから教わった。警察情報を知ることができるサイトを教えてもらったから、その現場は最新の事件現場よ」
「あの……」
アキナがまた口を挟もうとするので、俺はわざと口を挟んだ。
「さっきの男がイケメン? どういう趣味だよ」
「どんな男をイケメンと思ってもいいでしょ」
「結婚したら俺が『兄』と呼ばなきゃならないんだぜ、少しは考えて……」
アキナは俺の言葉に被せてきた。
「イケメンて何?」
「それは……」
「いい男ってことよ」
アキナは納得するように頷いた。
俺はアキナに向かって言う。
「さっきのがか?」
「お前よりはいい男だった。お姉さんはセンスあると思う。それと、姉弟でも恋愛に口出すことはできない。男女において自由恋愛は原則よ」
「そうよね、そうよね。話、わかるじゃない」
その時、飛行体が目的地が近づいたことを告げた。




