そして、時は巡る
あれから、どれだけ時が経っただろう。
俺は夕日の下でそう思った。遠くでこっそり月が昇っている。
久しぶりに、余裕を持ってこの空気を吸える。
さて、これからどうするか。
あの時のほら穴はまだ使えるかな。いや、他の奴らの巣窟になってるだろうな。
傷だらけの体でただ俺は歩き続けた。
今の俺に居場所はない。
帰る場所もない、行くべき場所もない。
なにをするべきなのかもわからない。
それでも、後悔はないんだ。
グシャ
何かを踏んだ、新聞だった。
開いて読んでみると、そこにはあの二人が載っていた。
美しい笑顔だった。どうやら、二人は広い世界を渡って演奏会を開いているらしい。
人々を幸せにしている、それがただ純粋に俺は嬉しかった。
そうか、もう遠くまで行ってしまったのか。
そう考えると、すこし寂しい。
「もう夜か……」
気がつけば夜になっていた。だが、寝床はない。
「…はぁ」
どうするか、知り合いはほとんど居ないし。
ここから近いとするならば…
「あいつらの家…だよな」
でも、今あの家はどうなっているんだろう?
そう考えていると、いつのまにかその家の近くに居た。好奇心には勝てなかったらしい。
……そこに二つの影があった。
誰なんだろうか。
影はそこから動かなかった。まるで誰かを待っているかのようだ。
俺は近づいた、その影に近づいて近づいて…
やっと正体を理解した。
「おまえ…ら…」
「おかえり、エルドラド」
「おかえりなさーい」
「なんでだ、どうして…」
さっき見た新聞は今日のだった。つまりこいつらがここに居るのはおかしい。
なのにどうして姉ちゃん達がここに居る!!!
「何、どうかした?」
「俺は…お前らを…知らない…」
「まぁまぁ、話をしようよ。私達は演奏家、音楽でみんなを笑顔にしたかった。実際、今まで何人もの人達を笑顔にしてきたよ。それは素晴らしいことだったし、私としても素晴らしいことだったよー」
「そうなのか…」
「…でもさ」
二人は悲しそうな表情で
「ぶっちゃけそういうのは求めてないよ。人々を笑顔にできればそれでいい。それが私達の償いだからね」
「だったら…」
俺は叫ぶように言う。
「どうしてここに居る!もっと…多くの人に笑顔になってほしいんだろ!!だったらどうしてここに居るんだよ!!!」
「なんだ、やっぱり知ってるんだ」
「そうだね、確かに今日は遠くまで出張する日だったよ。でもさ、なんだか聞き覚えのある音がして、急遽キャンセルしてきました♪」
「…は!?どうしてそんなことを!!」
「私達は人々を笑顔にしたい、これからもそれは変わらない」
「変わらないけどさ…」
二人は揃えて
「「一番笑顔にしたいのは、貴方なんだよエルドラド」」
「!」
「みんなが笑顔で、私も寂滅も笑顔で、でも貴方はそうじゃなくて、それは嫌だな」
「貴方へ向けて、私達は演奏したかったんだよ」
「おぶふっ!」
温もりが冷めた俺の体に伝わる。
「うん、長い間ごめんね。ありがとうエルドラド」
「こういう時こそ他人に甘えるものだ、自分に素直になってしまえ」
「あああ…」
溜まっていた涙が一気に溢れていく。
「もう離さない、私達はずっと一緒なんだ」
その言葉が嬉しくて、こんな自分でも居場所があるんだって感じて、また泣いた。
「うあああ…」
荒ぶる視界の先、綺麗な星達が俺たちを見守っていた。
「あはははは!やめっ!姉さんやめてぇ!!」
「妹分が足りないのだー!もっともふらせろー!」
楽園はここにあった。
とても暖かくて、和む楽園が。
だから、俺は今日も頑張るよ。
だから……
今日も見守っててくれないか、幻。