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黄金郷は舞い降りた


「ここはどこだろう?」


適当に放浪していると、全然知らない場所に私は居た。


でも気にしている暇はない、どこか遠い場所に行かなきゃ。


しかしどこへ行く気なんだ?


もう一人の私はそう問う。


寝床はどうする、食糧はどうする、と。


のそのそと、私はただ歩き続ける。


昨夜からずっと歩き続けていたから、わりと遠くまではこれたはずだ。


きっと、人間達が動き始める。殺した犯人を炙り出してくるだろう。


頼れる人は、もう居ない。


「疲れた……」


その時だった。


私は虐めを目撃した。


虐められっ子は必死に攻撃を防御していた。


虐めっ子は虐められっ子を蹴っていた。


それを見た途端、殺意が増幅し始めて…


私は音を立てずにその虐めっ子に近づいた。


イライラする、ムカムカする。


私はゆっくり牙を剥く、その時だった。



「お前ら、何してやがる」



一つの声が響いた、思わずそちらを向いた。


そこに居たのは金色の龍だった。


「あ?」


虐めっ子は怯まず敵意を向ける。


「ここは俺の縄張りだ、消えろ!!」


龍が低く鈍い威嚇を飛ばすと、虐めっ子はビビって逃げてった。虐められっ子もいつのまにか逃げていた。


「んで、大丈夫か?」


「え?」


「帰れるか?」


「帰れる……よ」


「口調からして帰れる気がしない」


「大丈夫だから」


私はすぐさま歩き始める。


「おいおい、ほんとに大丈夫なのか?」


「大丈夫…だから!ついてこないで!」


そう声をあげた瞬間…



         ぐきゅ〜〜〜〜




お腹が鳴った、そういえば今日はまだ何も食べてないな…


「腹が減っているのか」


私はただ、頷いた。


「何か食うか」


「……!」


どこへも行くあてのない私は、ただ頷くことしかできなかった。





「入れ」


「お邪魔します…」


ほら穴にお邪魔する。


「適当に座ってろ」


見た目とは裏腹の優しい声。しばらくすると、目の前にお肉が飛んできた。


「食え、ちゃんと焼いてある」


「え…ありがとうございます…」


私はお肉にがぶりついた。美味しい、ひたすらに美味しい。


「お前さ……人狼だろ?」


「どうして……わかるの?」


「俺に偽りは効かないからな、ただの狼のフリしても無駄だ。そんで………人を喰い殺したことがあるだろ」


軽い感じでそう放った。


「なんでそれを…!」


「だって身体中が血生臭いし、牙も赤く染まってるし。ていうか、あの人間共に向けた視線がもう殺意剥き出しだったし」


何かするつもりなのか、そう勘ぐっていると


「そう警戒するな、俺はお前に何もしねぇ。むしろ、俺とお前は同類だ。仲良くしようぜ」


「同類…?」


「まぁそんな深く考えるな。少なくともお前よりはどうでも良いことだ。それよりも、肉は美味かったか」


「うん」


「よかった」


彼は微笑みながら私の頭を撫でる。


「家出でもしてきたのか、深くは聞かないでおくが」


「その方がこっちも嬉しい。ところで、貴方は…」


「俺?俺の名前はエルドラド」


「エルドラド…?」


その言葉に私は既視感を覚える。


「どうだ、かっこいいだろう?」


「うん、かっこいい。…いやそうじゃない!どうして貴方は見ず知らずの私にこんな優しくできるの!?」


「見ず知らず?お前は何も覚えてないんだね。まぁ聞きたいのなら教えてやるよ。俺はお前らのファンだ」


「ファン…?」


「そうだ、お前らのファンだ。それだけだ」


「いやいやいや!何のファンなのさ!?」


「ensemble」


「あんさんぶる…?」


「俺、最初は騒がしいの嫌いだったんだけど、お前らの音楽を聴いたら好きになった。お前らの素晴らしいアンサンブルは毎度聴いた。今でもまだあの音色を覚えているよ。だからこそ、どうして最近アンサンブルをしないのか疑問に思ってたのさ」


アンサンブル、その響きが懐かしかった。


まだその時は三人一緒で、和気藹々と演奏して…


「なぁなぁ、お前楽器持ってるだろ?姿元に戻して聞かせてくれよ」


「…ごめん、無理。しばらく演奏してないし、手が手だし」


「血に溢れた手で楽器に触れる権利がないってわけか?」


「…うん」


「でもお前は吹きたいだろ?」


「………え?」


「だって、お前の近くで楽器がぷかぷか浮いているからな。楽器に対して未練があるんじゃないか?それで…………寂滅だったよな?」


エルドラドはにっこり笑うと


「やめたくなったらやめればいい、でもお前はきっと演奏が大好きだ。少なくともアンサンブルをしていた時のお前は幸せそうだった。色々変わったかもしれないが、音楽に対する愛は変わらないはずだろ?だから吹いてくれ、一度全てを忘れてな?」


「………………」


少し迷った、でも演奏したかった。


「わかった、お礼も兼ねて演奏するよ」


「それでこそ寂滅だ。頑張れ」


私は楽器を手に取り、指を絡める。


ゆっくり深呼吸をして、演奏を始めたのであった。






そうして彼女は演奏する。


黄泉 寂滅は演奏する。


それは聞き覚えのない曲だったけれど、耳に残る。


流石、それしか言えなかった。


寂滅の手は衰えてはいなかった。


数十年ぶりに聞いたその音色は美しかった。


これが寂滅が奏でる音色。


そう、これだこれが聴きたかったんだ。


万物を惚れ惚れとさせるその音色が聴きたかったんだ。


まさに、魔法だった。


だから、アンサンブルをしなかった時は少し寂しかった。


だから、こうして彼女の音楽を聴けることが嬉しかった。


「…何が血に溢れてるだ」


思わず笑った、仕方がなかった。


だって、黄泉 寂滅は今、幸せそうにその楽器に己の息吹を通しているのだから。


彼女には希望がある。俺にはない希望がある。


あいつは知っているのか?最近出張に出ていると聞く。


寂滅は言っていた。この世の全ての人達から寂しさを滅ぼしたいと。


なら、俺は寂滅を支える。一人のファンとして。


まだ助かる道はあるはずだ。


俺にはとある噂がある、それを利用すれば彼女を救えるはずだ。


もしかしたら、人生を賭けるかもな。


それでもいいか。




「……終わったよ」


「やっぱり、すげぇな」


「久しぶりだったけど、大丈夫だったかな?」


「大丈夫だ、問題ない」


すると寂滅は謙遜する、昔と何も変わらない。


「…夜、だね」


「そうだな、まだ腹減ってるのか?」


「ううん、お腹はもう大丈夫」


「それで、これからどうするつもりだ?」


「そこらで寝ようかと。外で寝ることは今までも何度かあったし」


「ここらに出る輩は…怖いぞ?」


「へ?」


「お前が思ってるよりもずっと強くて怖いんだぞ。お前なんて一飲みなんだぞ」


「ひっ…」


驚く寂滅。嘘ではないのだ。


「まぁとにかく泊まれや」


「そ、それしか選択肢ないじゃない…でも、良いの?」


「ファンとしてはすごい嬉しいよ。良かった、お前の演奏をもう一度聴けて」


「…うん、ありがとう」


「んじゃ、少し縄張りを見回りしてくるよ。外に出るんじゃないぞ」


「はーい」


その声を聞いて、俺は外に出る。


「じゃ…ぱぱっと狩ってくるか」


そうして徘徊しながら、俺は空を見上げた。


満月だった、周りには小さな星達が輝いている。



「幻……姉ちゃん……寂滅は……俺が守るから……」



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