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元神は小さすぎる幸せを愛おしむ
石倉小太郎24歳。普段厳しいスーパー勤務に心身をすり減らしている小太郎は、休日の朝を部屋を差す太陽の光で目を覚ました。時間はきっちり5時50分。時計を見なくても分かるのは、起床時間が体内時計に刻み込まれているからだ。
「ん…………んっ、ん~~~~♪」
ベットの中で身をよじり、毛布の中に頭を突っ込む。小太郎は誰に利かせるでもなく、「目覚まし時計が鳴るまでの10分間、二度寝に落ちるか落ちないかのまどろみの中で怠惰を貪るのが幸せを感じる瞬間だよなぁ」なんて小声で呟いていた。
「ふーん、随分と慎ましやかな幸せなんだね」
「幸せなんてそんなもんさぁ……人の夢のように儚いってね」
「儚過ぎて、なんだか可哀そうになってきたんだけど……」
鼓膜を揺らし脳を蕩かすような美声との会話が続いていることに気付いて、この小太郎は布団の中で目を開く。
一目で目が覚める程の美人がそこにいた。
美人は2・3度瞬きしたのち、小太郎が見惚れていることに気付くと心底楽し気なにんまりとした笑みを浮かべ、
「おっはよーぅ、人間♪」
勝ち誇ったように言った。