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衣食住は完璧に


買い物を済ませて家へと向かう。


家を買ってすぐ簡易的な結界を張ったけど、これから正式に無断不可侵結界を張る。


家の周りの塀の四隅と、家の屋上へ一つ、結界の為の魔石を設置して魔力を流すだけだから、時間はかからない。


これで塀を乗り越えては勿論、飛んで入る事も出来なくなる。


一応、鳥などの小動物は結界にぶつかる事なく通れるけれど、長期家を空ける時は完全遮断するつもりだ。


使わないなら売っても良いけど、どうせお金は有り余っているし。


結界用の魔石は茶色や琥珀色が殆ど。


それを塀の上の四隅、家の屋上に置き、土魔法で固定し、一つ一つに魔力を流して外から魔石があると分からないように土魔法で覆う。


──これで完了。


その作業中、ソフィアは庭に居て貰った。


流石に抱き上げて屋根の上に立つのはソフィアが怖がるだろうと思っての事だったけど、屋根から降りてすぐ、結界がきちんと作動しているか調べていたら、手を伸ばしながら駆け寄って来たのが可愛かった。


俺への呼び方は“お兄ちゃん”で決定したようだ。


やっぱり昨日よりベッタリになっている気がする。


……可愛過ぎか。




家具は揃ったし、買ってきた食器も並べ終わった。


イベントリに入ったままの食器もあるけれど、急に移動する時用に持っている事にした。


雑貨もある程度揃えたし、これで普通に住めるだろう。


ソフィア用のヌイグルミも作ったし、ベッド横の椅子に既に鎮座させている。


どうしても黒猫のヌイグルミを与えてしまうけど、獣人と獣は違うからか、ソフィアは黒猫族が関係しているとは気付いていないようだ。


獣人は獣耳や尻尾があるだけで、獣化したりしないから。


人間より感覚が鋭かったり、力が強いっていうだけで、あまり違いはない。


何度もプレイしていたゲームだけど、それはゲームの時から感じていた。


──ただの設定としか認識していなかった。


この世界の事情や歴史なんかは、ゲームには大して必要ではなかったから、ある程度のチュートリアルを見ただけで終わっていた事が悔やまれる。


公式サイトならもう少し詳しい事が載っていたかも知れないのに、攻略サイトや掲示板を少し覗く程度だった自分を殴りたい。


……だからこそ余計に思う。


俺より長くこのゲームをしていた人は沢山いただろうし、このゲームの世界の事を俺より詳しく知っていた人もいただろうに、“何故俺だったのだろう?”と……


“この世界に来るのは、他の人では駄目だったのだろうか?”と……


俺よりも、もっと上手く行動出来るだろうに…………


俺でなくても、ソフィアを助けたいと思っていたプレーヤーはいただろうし。


ゲームの中の人とはいえ、話し、思考のある人へ怪我を負わせても、特に何とも思わなかった俺だけど、“帰りたい”とか“家族や友達に会いたい”とかも特に思わないのは何故なんだろう?


現在付き合っている彼女はいなかったけど、友達と遊ぶ約束もあったのに……


家族仲も悪くなかったし、俺が居なくなった事が大事になっているんじゃないかとも思っているけど、焦りもない。


普通なら帰れるか分からない現状を鑑みて、色々考えたりする筈なのに、特に気にならない。




「ソフィア、お腹空いてない?ご飯食べに行こうか。」


今はそんな事より、ソフィアの方が大事だと考えている。


きちんと栄養のある食事を摂り、綺麗な服を着て、しっかりとした教育を受けられ、大人に甘えられる環境を与える事が、今の俺にとって一番優先する事で。


今日は馬鹿貴族の相手をして、その後買い物へと向かったから、まだきちんとした食事を摂っていない。


飲み物や軽食は途中で買って飲み食いしていたけど、骨と皮のようになっているソフィアにはもっと栄養のある物を食べさせたい。


いきなり沢山食べさせても胃が受け付けないだろうけど、だからこそ栄養のある物を。


「……ん。」


頷くソフィアの頭を撫で、外へ。


読み書きなどの勉強はソフィアの身体が健康になってからで充分だろう。


今は沢山話し掛けて、言葉を覚えさせるのが先。


甘えさせるのが先。


(栄養の事を考えるなら、自炊も視野に入れておかないといけないな。)


今からは外食になるけど、そもそも菓子類を作るつもりなんだから料理も作れる時は作ろうか。


一応今日、調理道具は一通り揃えたけど。


食事を摂ったら、食材を買おう。


菓子作りには小麦粉や牛乳、砂糖にバターは必須だからな。


それさえあれば、ある程度のお菓子は作れる。


材料が手に入ったら、今日はお菓子は買わないで、簡単な物でも作ろうかな?




────

──


結論からいえば、材料を揃える事は出来た。


正確にいえばバターは手に入らなかったけど、絞りたて牛乳は手に入ったし、何とか作れる。


この世界にはチーズがあるんだから、バターも誰かが作りそうなものなのに。


……大量生産が出来ないから、売りに出されていないだけとか?


でも、バターを使ったふんわりしたパンも見当たらないし、料理に使っているのも見ない。


この世界で作るとなると、かなり高価な物になりそうだけど。


生クリーム生成からだもんな。


俺も簡単な方法しか知らないし、広めるのは無理かな。


料理人ジョブで持っているレシピは料理の物で、調味料系を作れる訳ではなく、それらは日本での知識を応用するしかない。


卵や牛乳の殺菌など、日本では当たり前だったのに、この世界では徹底されていない位なのだから。


(まずはプリンでも作ろうかな?)


バニラエッセンスはこの世界にないけど、なくても構わないだろう。


卵などの殺菌は魔法任せになるけど、それ以外のやり方を知らないし、仕方がない。


どうやって殺菌しているのかとか、いちいち調べたりしなかったし。


(ハンドミキサー、欲しかったな。)


電気のない世界で、手に入る訳がない事は百も承知。


だけど泡立て器すら見つけられなかった。


ケーキ作りの時用に欲しかったのに。


だから泡立てや混ぜる工程は、全て魔法頼りになる。


……泡立て器は構造上、簡単に作れそうだけど。


…………ソフィアが自分で作りたいと言い出したら作るとするか。


今は俺が使える鍛冶場がないから、発注しなきゃいけない。


……発注でも良いかな?


でもソフィアが使うんだったら、可愛い細工をしたいんだよな。


……鍛冶達の腕も落ちてる……とか言わないよな?


レベルが低いなら、その可能性がかなり高いんだけど。


それならやはり、俺が作った方が良い。




「……っ!」


口に含んだ途端、目を瞠ったソフィア。


すぐに頬が緩んだのが見て分かる。


(どうやら美味しかったみたいだな。)


作ったのは、工程が簡単なプリン。


勿論、卵と牛乳は殺菌が済んだ物を使っている。


水に砂糖を入れて火にかけ、好みの色より少し薄く色がついたら熱湯を入れて混ぜ、容器に入れたらカラメルソースの完成。


プリンも、卵、牛乳、砂糖しか使わない、素朴なもの。


カラメルの上からそっと入れて表面の気泡を潰し、すが入らないように注意するだけ。


後は弱火で10分程蒸し、串を差して卵液が出なかったら冷やす。


沢山作ってマジックバッグへと入れておけば、いつでも食べられる。


勿論、ソフィア用のマジックバッグにも収納済み。


これなら簡単だから、次回からソフィアにも作れるだろう。


……火を使うところだけは、俺がするけど。


まだ五歳の子供に、火を使わせるのは早いだろう。


中にはそういう子供がいるんだろうけど、ソフィアがする必要はない。




(これからどうしようかな?)


ギルドランクCなら慌てて依頼を受ける必要もないし、お金がなくて切羽詰まっている訳でもない。


家も買ったし、生活には困っていない。


ソフィアへの教育はゆっくりで構わないし……


何をしよう?


これからする事がなくて暇だ。


プリンを食べながら考えるけど、良い案が浮かばない。


今まで生きていくのに精一杯だったソフィアに聞いても、“したい事”自体思い浮かばないようだし。


(やっぱりギルドに行って依頼を受けるか?)


でもそうしたら、ソフィアは一人で留守番になる。


俺は暇潰しが出来ても、ソフィアは退屈だろう。


ソフィアへ渡している玩具は、積木とヌイグルミだけだし。


それ以前に、この広い家に一人で留守番をさせるのは、まだ早い気がするんだよな。


今だって俺が見える範囲から離れようとしない位だし。


……依頼を受ける時、ソフィアも一緒の方が良いか?


結界を張っていたら危険はないだろうし。


抱き上げたままでも構わないっちゃあ構わないけど、何があるか分からないから本当は手を塞ぎたくないんだよな。


でも一人で居させて、結界や魔道具があるとはいえ、危険な目に遇わせたくないし……


「ソフィア。俺が依頼を受けている時、一人で此処で留守番出来るか?それとも、結界を張るから一緒に行って近くで待っているか?ソフィアを抱き上げたままでも良いけど、それなら終わるまで絶対に手を離さないって約束出来るか?」


聞いた方が早い。


「…………」


「遠慮するな。ソフィアのしたいようにするのが一番なんだから。」


迷いや葛藤が見えるから、再度声をかける。


「……じゃま、ちがう?」


「ソフィアを邪魔だなんて思う事はないよ。討伐しているのを見たくないなら、安全な場所で待ってて良いし。離れたくないなら、正直にそう言って。」


「……おもい、ない?」


「ソフィアは軽いから、気にしなくて良いよ。」


ソフィアが何を望んでいるのかもう理解した。


「何があっても俺が絶対に護るから、一緒に居よう。ソフィアは俺に抱き着いて、俺が良いって言うまで手を離したら駄目だからね?」


「ん!」


抱き上げたまま依頼を受ける事となった。


ソフィアがもっと成長すれば、一緒に戦う事も出来るだろうし。


戦い方を教えるのもゆっくりで良いかと思っていたけど、種族的に早く覚えさせていた方が良さそうだ。


俺と一緒なら、簡単にレベルを上げられるだろう。


ある程度の奴等を退けられるようになったら、俺と別行動も出来るし。

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