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優先順位は各々違う


明くる朝、宿を出てギルドの中へ入った時──


「カイト、少し良いか?」


またカルロスに声を掛けられた。


「何ですか?」


「昨日カイトへ指名依頼した貴族が来てんだ。あー……なるべく穏便に済ませて欲しいんだが。」


相手が貴族だから、立場的に強く出れないんだろうか?


カルロスは困った顔をしている。


断ったのに来るなんて、権力を笠にきる馬鹿貴族なのか?


「揉めるつもりなんてありませんが、相手次第ですかね。」


わざわざ揉め事を起こすつもりなんてないけど、攻撃されたら、俺は泣き寝入りなんてしない。


クズは何処にでもいるけど、このゲームではかなり酷かったし、俺一人ならともかく、今はソフィアも一緒。


ソフィアを護る為に出来るだけ妥協はするけど、良い様に使われるつもりはない。


「本当は断りたかったんだが、直接会って話すって言って聞かねぇんだよ。無理な要求をされた場合はギルマス権限で追い出すから、なるべく怒りを抑えてくれねぇか?」


……どうやら、貴族の権力は恐くないようだ。


それならカルロスに任せていた方が良いか。


「では、我慢出来る範囲ならカルロスさんにお任せします。」


「そうしてくれ。流石に貴族殺しは陛下へ報告しなくちゃいけねぇからな。」


国王が出張ってくるのか。


それはかなり鬱陶しいな。




「此方、ロワール・ヴァーディ様。ヴァーディ子爵家の家系だ。ロワール様、此方が──」

「貴様が私の依頼を断った冒険者か。何が気に食わないと言うのだ?ヴァーディ子爵家に仕える誉れを与えてやったというのに……」


カルロスの言葉を遮って発せられた言葉は、あまりにも馬鹿げているものだった。


貴賓室のような部屋にいたのは、成金趣味なのかゴテゴテと着飾っていて、肥満体型を更に醜悪なものに見せているソファーに座る男と、その従者っぽい男が一人、男の横に立っている。


座っている男の背後には、護衛らしき男が二人立っている。


“子爵家の家系”と紹介したって事は、跡継ぎではないって事だろう。


こんな馬鹿が跡を継いだら、その地域は地獄だろうと思う。


「それが“誉れ”ですか?貴方に仕えている方達は、余程の馬鹿達ばかりなんですね。」


「何だとっ!?貴様、私を侮辱するつもりか!?」


「人を道具や駒扱いしか出来ない人の下に就くなんて、他所で雇われないような者達か、金の亡者かのどちらかでしょう?あいにく俺はこの国への忠義などないですし、お金に困ってもいませんからね。貴方に雇われる必要性はないんです。」


貴族に実力を買われて私兵に加えられるとかなら、実際に誉れなんだろうけど、こんな見るからに無能そうな奴の下に就くなんて、使い潰されるのがオチだろう。


俺はこの世界に所縁なんてないし、特定の国に思い入れなんてない。


仕えたい国もなければ、主君に据えたい人もいない。


「昨日冒険者登録をする前までずっと旅をしていた俺にとって、誰かの下に就く事は考えられません。……もう良いですよね?失礼します。」


ソファーに座る事なく話していたけど、座らなくて良かったと思う。


このまま部屋を出られる。




踵を返して部屋を出ようとした時、背後から魔法攻撃が放たれたのが分かった。


これは……俺、怒って良いよな?


俺は魔法無効スキルを持っているし、ソフィアには攻撃無効の魔道具を持たせているから、何もしなくても怪我を負わないだろうけど。


「『増幅反射』」


振り向きざまにスキルを意図的に使うと、攻撃が威力が増して跳ね返った。


攻撃のスピードも増している。


「っ、ぎゃあぁぁああ!!」


火に包まれて絶叫したのは、従者っぽい男。


どうやらコイツが攻撃してきたらしい。


「煩い。」


生活魔法の水球を投げると、水が多過ぎたのか、投げた威力が高かったのか、男が勢い良く後方へ飛び、壁にぶち当たって床に落ちた。


そのまま気を失ったようだけど、火は消えたから良いだろう。


そもそも攻撃してきたのは相手なんだから、俺が消火してやる義務なんてないんだけど、煩かったし。


「貴様!何をしたのか分かっているのか!?」


貴族の男が怒鳴り散らす。


だけど──


「攻撃してきたのはそっちだろう?増幅して返されたって、自業自得だ。……自分達に従わないからって、武力で排除か。本当にクズだな。」


どうしたってコイツらを見る目が冷めていく。


俺が対処出来なかったら、攻撃を受けて怪我をしていたか、下手すれば命が危うくなっていただろう。


俺はソフィアを抱き上げたままだったんだし。


「ギルド内で罪のない冒険者へ攻撃しましたね。ギルドマスターとして、この事は陛下へ報告します。……俺の口を塞げるとは思わない事ですね。」


今まで黙っていたカルロスが貴族の男をギロッと睨むと、三人が揃って顔を顰めた。


やっぱりこの世界でもカルロスはNPCの中で世界最強なのだろう。


カルロスがフォールにいるからこそ、王城のある隣街のアーバンまで、ザザンの森からの魔獣が来ないと聞いた事がある。


「……侍従が勝手にした事だ。私に何ら罪はない。後で謝罪させるから、それで良いだろう?」


あ、罪を従者へなすり付けた。


だけど、それで通ると思っているんだろうか?


「あの従者は、ヴァーディ家で雇っているのでしょう?貴方に罪がない訳がないでしょう。ロワール様は下の者の教育も出来ないのですか?」


「──っ、獣人のくせに……!私を誰だと思っている!?」


「貴族でありながら、私欲の為に新人冒険者へ攻撃をした罪人ですよ。貴方が彼に命じたのを見ていたんですから、言い逃れ出来ませんよ?」


ほら、カルロスにも通じていない。


しかも、やっぱり貴族の男が主犯だった。




「今の一部始終を映像に残したので、諦めて下さい。……おい!ロワール様一行がお帰りだ!丁重に送り出せ!」


カルロスが外へ向かって声を張り上げると、バタバタと複数の人が走ってくる音がした。


“送り出せ”って、いわば追い出せって意味と同じ。


普通は“お見送りしろ”って言う筈。


「貴様、この私にこの待遇をして…覚えておけよ!」


「どうでしょう?些末な事を覚えている程、記憶力が良くないもので。」


どうやら完全にカルロスに軍配が上がったようだ。


問答無用で追い払う事が出来なくても、こうして責める事案が出来ればやり込めるみたいだな。


当主や跡継ぎではないという事も大きいんだろうか?


気を失った従者を一人の護衛が背負い、そのまま部屋を出ていく一行。


スレ違い様、俺を睨んだ貴族。


カルロスに狙いを定めたと思ったけど、俺への遺恨は残っているようだ。


いずれ絡んできそうだな。


攻撃を無効に出来るとはいえ、気をつけておこう。


ソフィアが変なトラウマを抱えても困るし。


暴力ばかり振るわれてきたソフィアにとって、あまり他人の生死は気にならないようだけど、まだ詳しくソフィアの事を知っている訳ではないんだから気を配って見ておかないと。


何が彼女の心を深く傷つけるのか、見極める必要がある。




「悪かったな。流石にギルマスとはいえ、貴族相手に傲慢をかますと他の貴族達も煩くなるから、奴等が無茶な要求をするのを待つしかなかったんだ。カイトへ攻撃したのは想定外だったけど、これで陛下も他の貴族達も何も言えないだろう。……しかし、反射魔術を使える奴は初めて見たぞ。失われた幻の魔術だと言われているのに……しかも威力や速さが増していなかったか?」


流石にカルロスは威力が増していた事に気付いていたようだ。


……でも、反射魔術が“失われた幻の魔術”?


俺が使ったのは『増幅反射』スキルだけど、ゲームでは反撃カウンター抵抗レジストなどの防御魔法ものの上位魔法として、反射リフレクションがあったんだけど……


この世界にはないのか?


……そういえば、詳細鑑定スキルもなかったようだし……


俺が持つ力、色々と幻になっていそうだな。


「そういう事は解りかねます。この力を使っても、おじさんには何も言われなかったので、不思議に思った事がないですし。」


だけどばか正直に告げる必要はない。


力目当てに囲われるのも嫌だし、ある程度は自由に行動したい。


……でも、何が珍しくなっているのか分からないんだよな。


上位のものは全て?


禁術もあるんだけど……流石にこれは使ったらヤバそうだな。


「……まあ、今回は陛下へ報告するが、あの様子だとまだ諦めていないだろう。子爵自身が出張ってくる可能性もあるし、気を付けろよ?」


「はい、分かりました。」


カルロスと別れ、ギルドを出る。




(攻撃されたからっていっても、他人に怪我を負わせて何かしら思うところがあるかと考えたけど、何とも思わなかったな。)


あんな絶叫を聞いたのに、動揺すらしなかった。


俺の身体、生身じゃなくてアバターなんだろうか?


容姿は生身と同じなんだけど。


個人特定の魔法陣に血を垂らす時、指をナイフで切ったんだけど、痛みもなかったし、“怖い”とも思わなかった。


元々痛いのは嫌いだから、躊躇するかと思ったのに……


…………精神的に堪える事がないなら、それで良いか。


「今日から家に住むけど、足らない物を買いに行こうか。ソフィアは自分の部屋が欲しい?それとも、俺と一緒の部屋がいい?」


そんな事より、大事なのはソフィアの事だ。


宿ではツインをとっていたんだけど、ソフィアは一人で熟睡出来ないようで何度も起きていた。


子供ながら目の下にくっきりとあった隈は、安心して眠れる場所がなかったからなんだろう。


俺と一緒だと警戒するかなと思っていたからツインをとったんだけど、夜中、ソフィアの方から近寄ってきた為、引き込んで一緒のベッドで横になるとスッ……と穏やかに眠った。


朝、俺に起こされるまで眠っていたから、しっかりと熟睡出来たようだ。


でも、それと個人の部屋が欲しいって事は別。


寝るのは一緒でも、プライベートな時間は欲しいだろう。


ソフィアは女の子だし。




「っ、いっしょ。」


「そっか。分かった。でも、ソフィアの部屋が欲しくなったら言うんだよ?」


まだ幼いから、個室を欲しがらないだけかも知れないし。


でも同じ部屋で過ごすなら、やはりあの家は広過ぎるな。


将来的にソフィアの部屋を作るにしても、2LDKくらいで充分だっただろう。


……今更言っても意味がないけど。


でも、たった一日、正確にいえば一晩で随分警戒がなくなったように思う。


同じベッドで寝たからだろうか?


こうして抱き上げていても、昨日とは違う。


俺へ身体を預けている様子が違うというか……


“暴力を振るわない人”と認識されたんだろうか?


……一晩では難しいか?


何にしろ、警戒されなくなったのは喜ばしい事だ。


「まずは……家具屋へ行くか。」


ベッドやテーブルセットなどはイベントリの中にあるけど、ソフィアの勉強机や収納棚は買わないといけない。


その後は食器類かな?


この世界にも子供用ってあるのかな?




家具は簡単に手に入った。


そりゃあこの世界にも子供はいるんだし、子供用の机や椅子がない訳がないか。


なければ作れば良いんだし、庭で工作も出来ただろうけど、やっぱり自分専用で使う物はソフィア自身に選ばせてやりたかったし。


俺が作った物を“要らない”とは言いづらいだろうし。


だからソフィアの服は、完全に押し付けになっている。


今日の服は白いフリルの付いたチャコールグレーのワンピース。


昨日の服よりは少しおとなしめって感じか?


今日は髪を白のレースでヘアバンド状態にしている。


勿論、上でリボン結びをしている。


カチューシャみたいに見えるってだけなんだけど、派手ではないし丁度良いだろう。


昨日の格好もソフィアに良く似合っていたけど、こういうのも似合う。


親バカならぬ、兄バカになれる自信はかなりあるけど、ソフィアに引かれないようにしないと。


嫌われたら泣ける。


食器はある程度イベントリにもあるけど、ソフィア用のはない。


子供用のフォークやスプーンは店にあるけど、茶碗がないのは主食が米じゃないからだろうか?


(取り皿は絵が描いている方が良いか?)


追加で買った皿などは、白色や茶色などの無地で良かったけど、ソフィア用のは可愛いのが良いだろう。


無地の物よりも割高だけど、ソフィアが使うんだからそれくらいどうって事ない。


だけどこの世界ではデフォルメやイラストにする人がいないのか、絵が描かれているのは全て本物のよう。


これはこれで良いと思うけど、子供が使う感じではない。


(模様が描かれているだけの物の方が良いか?)


でもそれだと一色しか使っていないんだよな。


──綺麗なんだけど。


(他の店も見てみるか。)


模様入りのも何枚か買って、店を出る。




別の店は雰囲気が全く違っていた。


先程の店は俺が色んな食器を見て選んでいても、店主が近寄ってくる事も話し掛けてくる事もなかった。


でもこの店では笑みを浮かべた店主が側に寄ってくる。


見ようと思った食器を急いで出してくれるのは有り難いけど、買い物中に店員に側に来られるのが嫌な人にとっては鬱陶しいだろうな。


俺が模様や絵が描かれている物ばかり探していると分かるや否や、“此方はどうですか?”と持ってくるようになった。


探す手間が省けて良いけど、持ってきた皿の一つに目が止まった。


「この発色は飲食用には使えない石を使っているな。俺が探しているのはこの子用だ。身体に害のある物が塗られた皿なんて必要ない。」


鮮やかな青色は綺麗だけど、飾りの物を求めている訳ではない。


使われているのはラピス石という、ラピスラズリからとって命名したのかと思う、粉にして青色の塗料にするもの。


ラピス石には極微量な毒が含まれており、大人ならそれが使われた食器を使い続けているとお腹を壊す程度の症状しか出ない。


だけど、俺が探しているのは“ソフィア用”の物。


きちんと栄養が摂れていなくて、免疫力が低くなっているだろう身体の中にその毒が入ってしまったら、お腹を壊す程度で済むとは思えない。


それ以前に、身体に害が僅かでもあるなら、使う必要がない。


大切にすると誓った子に、何故毒を盛るような事をしなければいけない?




「っ、言い掛かりは止してくださいよ!この皿は有名な工房から仕入れたのですよ。身体を害する塗料を使う筈がないではありませんか!」


ニコニコ顔だった店主が、大慌てで言い募る。


……そういや物に対して鑑定ってしないのか?


鑑定士ですら“鑑定”しか使えないようだったし。


「客の身体に不調が出る前に、この食器は飲食で使ってはいけないと流布したらどうだ?この皿にはラピス石が使われている。ラピス石は極微量だが、微弱な毒が含まれている。鑑定スキルを持つ者なら、スキルレベルにもよるが調べる事も可能だろう。」


ゲームではラピス石の鑑定が出来るのは、スキルレベルⅡだったけど、この世界ではどうなのか分からない。


もっとレベルが高くないと鑑定出来ないのかも知れないし、そうではないのかも知れない。


……だけど、俺が首を突っ込む必要もないだろう。


「これからも取り扱いたいなら、そうすれば良い。俺は忠告をしただけだ。何が起ころうとも関係ないからな。……ソフィア、別の店へ行こう。この店には買いたい物がない。」


何も買わないまま、外へと出る。


可愛い食器は手に入らなかったけど、模様や絵が描かれている食器は手に入った。


他に食器を扱う店はもうフォールにはないし、他の街や国に行った時に探すとしよう。


(次は……雑貨か?)


まずは生活必需品を買わないとな。

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