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閑話─とある青年─


─カルロスside─


ザザンの森にバジリスクが出現したとの情報が入り、討伐隊を編成する為に大忙しとなった。


バジリスクが出現したとされる所は、森の奥深い所。


普段は高ランクの冒険者でも奥深くまで行く事がない方が多く、高レベルの魔獣は発見が遅くなってしまう。


浅い所まで来られて、初めて発見に至ったという事も今までに度々ある。


今回はまだ奥深い場所での発見の為、此方も編成する時間がある。


入森の規制も張れたし、“冒険者になりたての新人が相応の場所に居たのに殺される”なんて最悪の事態は避けられたと思っても良いだろう。


だが、そんな中──


バジリスク討伐者を、関所の兵士が連れてきたとシェリルが言ってきた。


慌てて向かうと、そこにいたのはまだ若い青年。


身に付けている物は見たところ良い物だと分かるが、バジリスクを討伐した後とは思えない程汚れていない。


それ以前に、強者独特の覇気も感じられない。


……というより、存在自体酷く頼りなく見える。


──まるで気配を断っているかのようだ。


腰に剣を二本帯剣しているが、剣を振るう筈の腕は細い。


外套ではなく、魔術師のローブといえる物を着ている事から、魔法も使うのか?


……だったら、魔導剣士か?


それにしたって、全体的に細い。


肌も白くて綺麗だし、髪も艶々。


冒険者というより、貴族の坊がお遊びで冒険者ごっこをしている風にしか見えない。


……だけどそれなら、バジリスクなんて討伐出来ない筈。


…………いったい何者だ?




「俺はカイトです。ギルド登録をしに来ました。ついでに討伐した魔獣の素材を売りに来たんですが。」


声をかけると、返ってきたのは落ち着いた声。


俺に対して緊張している様子もないし、かといって蔑んでいる様子もない。


物腰の柔らかそうな兄ちゃんって感じだ。


「……ついてこい。」


ついてきている背後へ意識を向けると、周りへ視線を向けているものの、新人冒険者のようにおどおどした様子もなく、忙しなくキョロキョロとする訳でもなく、余裕があるように見える。


……他の国のギルドと比べているんだろうか?


「此処が窓口だ。依頼を受ける時も此処で受け付ける。」


「初めまして。私は受付を担当しているシェリルです。ギルド登録ですね?此方に記入を。その後此方の水晶へ魔力を流して下さい。……代筆は必要ですか?」


受付担当のシェリルの言葉に、羊皮紙を覗き込んでいる彼。


文字を書ける奴は、そんなに多くはない。


なのにペンを持った事から、彼は読み書きが出来るらしい。


……本当に何者だ?


「代筆は必要ないです。……ただ、この出身地は書かなくても良いですか?不明ですので。」


ただ、その言葉には眉を寄せた。


犯罪者が良く使う口実だからだ。


だが──


「俺の保護者だった人は旅人で、道中に赤子だった俺を拾ったと聞かされていました。それが何処だったのか聞いた事がなく、別行動している時に彼は魔獣に食い殺されたので、俺を拾った場所を特定出来る人はいません。」


捨て子な上に、保護者とも死別とは……


有名どころの旅人なら、名前が伝わっている事もあるが。


「……保護者の名前は?」


「知りません。ずっと“おじさん”と呼んでいたので……俺に名乗る事はなかったですし、町にいる期間も短く、誰かに呼ばれるのも聞かなかったので。……幼い頃は父だと思っていたんですけどね。ある日、俺とは血が繋がっていないと伝えられまして。」


(そうだよな。父親だと思っていたなら“父さん”と呼ぶだけで済むし、違うと分かって呼び方を変えたにしても、旅の中で名前を訊く事なんてあまりないか。)


実際、旅人の親の名前を知らない子供は、良く保護されている。


彼は戦う手段があったから、そのまま旅を続けていたに過ぎないのだろう。


「……そうか。辛い事を訊いたな。悪かった。」


「いいえ。立場上、訊かなくてはならないものだったのでしょう?気にしないで下さい。」


穏やかでいて、聡い。


そんな彼を教育した保護者……見てみたかったな。


だが、旅をしながら教養を与えるなんて難しい筈なのに。


「でも、何故今までギルド登録をしていなかったんだ?」


「一箇所に長期滞在する事がなかったので、今までは必要ないと思っていたんです。でも毎回入国時にお金がいりますし、そろそろ身分証を持っている必要があるかと思って。もう20歳になりましたし。」


「そうか。」


ギルド登録をする理由も、可笑しいところはない。


正直、単独でバジリスクを討伐出来るような実力者が、このギルドに登録してくれたのは嬉しい事だ。




……だが、世間知らずなところもあったようだ。


素材を売ると言っていたから買い取り場へ案内すると、何故か渋っている。


「此処に出すのですか?」


「そうだ。」


「本当に良いんですか?」


「良いも何も、そうしなければ買い取りできねぇぞ。」


いったい、何を懸念しているのやら。


そんなに大量の素材を売りに来たのか?


今まで旅をしていた間に討伐した素材も売りたいという事だろうか?


「うーん……ギリギリ乗るか?血抜きしていないけど、良いのか?」


ブツブツと呟いているが……って、待てよ?


今、何て言った?


“血抜きしていない”!?


それって……?


「…………」

「…………」

「………………」


止める間もなく、カウンターに出されたバジリスクの巨体を見て、皆が言葉を失った。


損傷がないように見えるのも驚きだが、一番驚いたのはバジリスクを丸々一体入る程容量の大きい魔法袋を持っていた事だ。


陛下ならギリギリ一体が入る程の魔法袋を所持しているのかも知れないが、彼の物はもっと容量が大きいようだ。


──まだ何か出そうとしている位なんだから。




だが、垂れてきた血を見て、慌てて指示を出す。


普通は牙、爪、皮を剥ぎ取るだけで済ませるものだが……


確かにバジリスクは捨てるところはないという話があるが、持ち帰られないというのが現状。


多くの人員を集めて討伐したところで、負傷者は必ず出てくるし、死者が出ないとは言い切れない。


だからこそ、大物を討伐後は素材を持って帰る余裕がない事の方が多い。


それなのに、彼は首を切り落とされたレッドボア一体、ブルーボアに至っては六体も同じ魔法袋から取り出した。


容量が大きい魔法袋も、保護者から譲り受けた物だと言っていたが……彼の保護者はいったい何者なんだ?


買い取り金額が高額だったのに驚く事もなく、焦る様子もない。


彼は宿の場所を訊いてきた後、部屋をとって街へと向かった。




────

──


「……で?どうだった?」


ギルドには鑑定士が常在している。


犯罪者が名前を偽って登録しに来る事がある為が大きな理由だが、実力者の発掘もギルドにとって急務。


力を隠して、弱者狩りをする馬鹿がいない訳でもない。


鑑定士は名前も容姿も公表していない。


ギルマスの俺しか知らない情報は機密事項とされ、俺もだが、鑑定士も鑑定内容を漏らすのは冒険者が犯罪者でない限り違反になる。


「彼はレベル40の魔導剣士だ。メインジョブしか見れなかったが、見た目に惑わされるタイプだな。」


年齢を考えると思った以上にレベルが高いが……バジリスク討伐者としては当然かもしれない。


単独で討伐したにしては低いくらいだ。


技術が凄いのか、凄い魔術を使えるのか……


「ギルマス、ちょっといいか?さっき来た奴が持ってきたバジリスクらなんだが……あまりに傷が少な過ぎる。レッドボアは首を綺麗に一刀両断されているし、ブルーボアは炎の刃で斬られた跡があるものの、それらも一撃だ。バジリスクに至っては剣で刺した跡しかねぇ。何らかのスキルで討ったんだろうが……そうだとしたら奴は化け物だ。そんなスキル、今まで聞いた事がねぇよ。」


買い取り場の責任者のダニエルの言葉に、やはり彼──カイトとは敵対しない方が良いだろうと結論付けた。


バジリスクを刺しただけで死に至らしめるスキルって何だよ?


俺ですら聞いた事がない。


レッドボアも一撃で首を落とせる冒険者なんて、殆どいないだろう。


俺ですら一撃で討伐するのは難しいと思う。


奴等の肉は剣を通しにくい。


それなのに──武器の性能だけでは考えられないぞ?


あの武器、調べさせてくれねぇかな?




────

──


すぐに戻ってきたカイトは、何故か黒猫族の子供を抱き上げていた。


子供とはいえ、みすぼらしい格好の浮浪者に何の用があるんだ?


「珍しいな。黒猫族じゃねぇか。生きた黒猫族を見たのは数年振りだな。」


「一人でいたので、俺が引き取る事にしました。……黒猫族って、何か忌まわれる理由でもあるんですか?先程服屋で販売拒否されたんですけど。」


黒猫族を知らない……?


やはり旅をしていたから世間知らずなのだろうか?


…………というか……引き取った?


何の為に??


「……知らなかったのか……まあ、ずっと旅をしていたんだったら、知らなくても当然か。……黒猫族の嬢ちゃんがいる前で言うのもなんだが、遠い昔、人族と獣人の親交を深める事に反対し、色々と妨害していた種族の一族なんだ。現在はこの通り、人族と獣人は共に暮らしているが、昔は住む場所を分けて暮らしていたんだ。……黒猫族と人族は昔から仲が悪くてな。だが人族と獣人の親交が深まっていく度、人族と親しくしたい獣人も黒猫族を忌むようになっていって……結局淘汰される存在になってしまった。今では黒猫族は“災厄を喚ぶ者”とまで言われている。……黒猫族に、そんな力はないのにな。」


「“災厄を喚ぶ者”?……ふざけていますね。大人げない。ソフィアはたった5才の女の子でしかないのに。」


カイトにとって、黒猫族というのは関係なさそうだな。


だが忌み子を引き取るには色々と問題があるんだが……教えるべきか?




「ギルマス、忌諱きいすべきゴミをギルドの中に入れねぇで欲しいんすけど?臭くて堪んねぇや。エールが不味くならぁ。」


「そうだそうだ。鼻が曲がるっての。」


「臭ぇ!ヘドロの方がまだ我慢出来るぜ。」


俺が何か言う前に、飲み場で飲んでいた数人が声をあげた。


黒猫族は人間からも獣人からも嫌われていて、暴言を吐くなんて当たり前、下手すれば殺したって構わねぇって連中もいる。


つまり、そういう奴等を退けられる事が必須となる。


……彼はそれが出来るだろうか?


子供は彼の腕の中で表情が強張っているが……攻撃する奴等がいた場合、俺は仲裁する位しかできねぇぞ。


「ソフィア、こんな腐れ外道達の言葉なんて聞かなくて良いからな?ソフィアには俺が清浄をかけたんだから、臭くないし。身体を拭いてもいなさそうなアイツらの方が臭いよな?臭過ぎて魔獣も逃げ出すんじゃないか?なぁ?」


だが──あろう事か、当て擦りかという程煽りやがった。


「んだと!?バジリスクを討伐したからって、調子に乗ってんなよ!」


「レベル40なら、驚くような強さじゃねぇってんだよ。」


馬鹿にされたと憤り、勢い良く立ち上がる奴等。


だが、カイトの表情が一瞬にして変わったのは何故だ?


「……此処は情報漏洩させるのが決まりなのか?鑑定士は個人情報を他人に吹聴しないのが決まりの筈だよな?……なぁ?鑑定士兼、拳闘士兼、……呪術師のケイリーさん?」


俺以外殆ど誰も知らない鑑定士の名前も、鑑定阻害をかけているジョブですら口にしたカイトは、優しそうなイメージから一変した。


声を荒げている訳でもないのに……この凄みは何だ?


「──っ、何故俺の本当の名前を知っている!?それに、隠していたジョブまで……お前は何者だ!?」


「お前の情報を露呈させたのは、俺の情報を他人へ流したお前への仕返しだ。……まあ、ステータス偽装をしている事すらも見抜けない欠陥鑑定士のようだけど。……俺が鑑定するの二度目なんだけど……二回とも気付かなかったみたいだな。」


「──っ!?」


ケイリーが驚愕の表情を浮かべているが、それは俺も同じ。


(鑑定士を鑑定しただと!?)


そんな事、出来る奴なんているのか?


ケイリーの鑑定スキルも鑑定阻害スキルもⅣなんだぞ?


それにステータスを偽装する事が出来るなんて……


「……ステータス偽装だと!?そんな事は出来る筈がない!俺の事を知っていたのも、俺の昔の知り合いから聞いたとかだろう。」


信じられないのはケイリーも同じらしい。


だがケイリーは偽名で冒険者登録をしているし、呪術師としては一切口外していない。


知り得る筈のない情報を知っている時点で、鑑定した事は事実だろう。


「もう偽る必要もないし、ステータス偽装を解いてやる。……鑑定してみろ。出来るものならな。」


今のカイトは、初めて見た印象が全くない。


まるで別人だ。


「……カルロスさん。俺はカルロスさん以外の言葉は聞かない事にします。……というより、こんな戯れ言、聞けないというのが正直なところですね。俺は聖人君子ではないので、攻撃対象がソフィアだけであっても、攻撃されれば相手に死を以て償って貰う可能性もあると思いますが……その場合、遺体を此処へ持ってきた方が良いです?それとも、骨も残さず消した方が良いですか?」


「……っ、出来れば殺さずに捕らえてくれれば嬉しいんだが?」


そんな事を笑顔で言われても恐いだけだ。


“骨も残さず消す”だなんて……証拠が残らないと言った事と同じなのだから。


「敵に情けをかけてばかりいると、死期が早まりますよ?命を助けてやったところで、そういう奴等は平気で裏切るんですから。助けるだけ無駄だと思いますが。」


……それは経験談なのだろうか?


実感が篭っている。




「……おにいちゃん。」


「ん?ソフィア、どうした?」


黒猫族の子供──ソフィアが声をかけた途端、カイトの雰囲気が柔らかくなった。


先程まで簡単に殺すと言っていたのに、初めて見た時の印象通り、優しそうにしか見えない。


……自分の身内にしか優しくないタイプなんだろうか?


敵対者には容赦しないだけか?


俺への言葉は、相変わらず敬語のままだし。


「みみ、かくす?」


手で両耳を押さえている子供。


自分のせいでカイトが悪く言われたと理解しているのだろう。


眉がへにょんとしている。


「ソフィアは悪い事をしていないんだから、隠す必要なんてないよ。……でもこのままだと馬鹿共が寄って来るから、どうにかしないとね。……よし。これで良いよ。」


カイトが子供の耳に手を当てると……耳が消えた。


切り離した……訳ではないよな?


──痛がっている様子もないし。


「魔法で見えなくしたよ。これでより兄妹に見えるようになったかな?ほら、髪は俺も黒色だし。一緒だね。」


「……いっしょ!」


自分の髪とカイトの髪を見比べ、笑みを浮かべた子供。


こうして見ていると、確かにただの子供でしかない。


……これは黒猫族に対する罵詈雑言を発するであろう者に、注意喚起しておかないと。


放っておいたら、どんどんギルド員が減っていきそうだ。


「何故鑑定出来ないんだっ!?どうして!?」


カイトを鑑定出来ずに頭を掻きむしっているケイリー。


それはつまり、カイトの言っていた事が本当だという事の証明になる。


ステータス偽装が出来るなんて聞いた事がないが、レベル40の魔導剣士ではないという事は分かった。


本当のレベルはどれくらいなんだ?

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