閑話─力の片鱗─
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─騎士団長side─
陛下がハニンソ皇国で会談がある為、騎士団、魔術師団、兵達の一部が同行する事となった。
半分以上は国に残るが、陛下と共に戦力も出ていく事になるのだから、何かあった時の為に戦力もある程度は残しておかなければならない。
それらを編成するのは私ではなく、総督と呼ばれる御方。
今回の編成は魔術師の数が少ないのも、冒険者を雇うと決めていたから。
Aランクながら、人を超越した異彩を放つ冒険者──カイト。
何と、今回の皇国への訪国に同行する任務を受けると報告された。
“あの、人を人とも思っていないような男が、陛下を護る任務に?”とは思ったが、実力者である事は確か。
古代竜を召喚した場面を見たが、彼が結界を張っていなかったら、私達は古代竜から発せられる覇気だけで命を落としていただろう。
状態異常無効の結界があったのに、私達は震える事しか出来なかったのだから。
あの後、陛下は大層憤られていた。
大臣達が起こした不始末のせいで、冒険者のこの国への印象が悪くなったのは否めない。
友好関係を結べていれば、有事の際、彼が手を貸してくれたかも知れなかったのに。
現在、何か厄災などが起こった時、彼が国から出ていっても、国としてそれを止める事は不可能。
彼の力を当てにする事は出来ない。
彼を迎えに行くのは、ギルド職員一人と騎士から一人の計二人。
初めはギルド職員だけが行く予定だったが、依頼を出した側が行かないのはどうかと思い、一人をつける事にした。
私が向かおうかとも思ったが、流石に騎士団長の私が陛下の元を離れる訳にはいかない。
副団長はアーバンへ置いてきた。
なので、目についた男──ルッソを送り出した。
──その判断が間違っていたと気付いたのは、凄まじい勢いでこちらへ飛んできたルッソを見てから。
手足が曲がらない方へ折れ、瀕死の状態のルッソを見て、声が出ない。
それは私だけではない。
(……ルッソは、彼に何をした?)
いくら強大な力を持っているとはいえ、誰彼構わず暴力を振るうタイプではない。
彼も言っていた。
“手を出さない限り、何もしない”と──
つまり、ルッソは彼を怒らせたという事だ。
陛下への印象が、更に悪くなってしまう。
こんな事なら、初めから私が行けば良かった。
それなら、こんな事にはなっていなかった筈なのに……
彼へ何をしたのか、瀕死状態のルッソに聞けない。
一応、回復術師に治癒させているが……怪我の具合から騎士に復帰は出来ないだろうな。
彼が来てから、誠実誠意謝罪するしかない。
陛下へ報告するのは、とてつもなく気が重いが……
────
──
暫くして、豪華な馬車が近付いてきた。
黒い外壁に金色の繊細な装飾が施されている。
後ろに屋根付きの荷車が連結されているが、馬車を引いているのは馬一頭……
荷車の中には人の姿があるが……ハニンソ皇国まで馬がもつのか?
通常の馬ならすぐに潰れそうなものだが。
特殊な育て方をしているのだろうか?
馬車はギルド前で停まり、御者の隣に座っていたギルド職員が降りてきた。
彼ならば一部始終見ていただろう。
ルッソが冒険者カイトに何をしたのか訊かなくては。
「貴方達は、この国を消したいのですか?彼の奴隷は、既に彼の財産です。それを何の対価もなく奪おうとするなんて、愚行としか言い様がないのですけど?」
だが此方から何か尋ねる前に、冷たい目で見られた。
「なっ……!?ルッソがそのような事を!?」
奴隷は他人がどうこう出来るものではない。
正式に金を払って奴隷を買って得たのなら、特に。
そんな常識、ルッソも分かっているだろうに。
「奴隷がどんな人物であろうと、等しくその権利は主にあります。貴方も彼の奴隷を見れば、愚行の理由が分かるのでは?」
そう言われて彼の方へ視線を向けて──一人の男の姿に驚愕した。
「団長!?」
荷車の方から降りてきたその人は、私の前に団長をしていたアレックス様だったからだ。
片腕を失った為に騎士団を辞されたのに、腕がある。
……辞められる前よりも覇気を感じるのは、私の気のせいか?
「騎士団長はニコラスだろう?俺はもう騎士ですらない。私は御主人様の奴隷だ。」
誇らしげに、何の躊躇も卑下もなく告げられた言葉。
……そんなに冒険者カイトの奴隷という立場が良いのか?
確かに良さそうな武具を所持しているようだが。
私の視線に気付かれたようで、自慢気に剣を抜いて見せてくる。
…………いや、その剣、私の持つ剣より良くないか?
冒険者カイトから渡された物だろうが、そもそもどのようにして手に入れたのだろう?
奴隷にこのような剣を与えているとなると、本人はどんな剣を使っているんだ?
だが、ルッソが馬鹿な事をした理由が分かった。
大方、アレックス様に戻ってきて欲しいと告げたのだろう。
でも、それは難しい。
奴隷として買ってから日が浅いという事は、相場として買った値段より上乗せしなければならないし、アレックス様へかかった治癒料金も払う事となる。
奴隷に落ちたアレックス様を買い戻す事は、これからの私達の生活などを考えられたのだろう、絶対にするなとアレックス様本人から厳命されていたが、奴隷としての値段に欠損治癒の料金が上乗せされればかなりの大金が必要となる。
しかも、どれ程の請求が来るか分からない。
つまり、部位欠損を治せる者がいない為、金額設定はカイトの好きなように出来る。
カイトはどうしてそんなお伽噺のような治癒が出来たのだろう?
フォール支部のギルドマスターは、“彼は現人神らしい”と言っていた。
本当にそうなのだろうか?
確かに善行を重ねていないとは言わないが、それ以上に簡単に人を殺している。
──まるでゴミのように。
──人を人とも思っていなさそうに。
正直、そんな人が神だなんて思えない。
……もしかして、彼が大切にしている黒猫族をぞんざいに扱っていた報いなのだろうか?
彼は他の種族の事を、好ましく思ってはいないのだろうか?
でも、新たに引き取られたらしき白狐族の子供も大切にされているようだし、奴隷だからと酷い扱いをされている様子もない。
彼の中の線引きはどうなっているのだろうか?
子供二人に向けられる顔は、優しげ。
奴隷達と会話している時も冷たい様子はない。
……懐に入れた者以外、興味がないという事だろうか?
治癒を受けているルッソが見えている筈なのに、何もいないかのように視線を向けもしない。
そのまま子供達を連れてギルドの中へと入っていく。
アレックス様含め、彼の奴隷達もルッソを気にする素振りはない。
唯一、熊人族の青年だけがチラッと視線を向けたが、それだけ。
自分達の主がどういう人なのか、既に把握しているという事か?
……というか、何故奴隷達を連れて来たのだろう?
アレックス様のように戦える奴隷ならまだしも、力の弱そうなメイドまで連れていく意味があるんだろうか?
(…………あっ!あまりにもアッサリとギルドの中へと向かわれた為、まだ謝罪をしていない!)
慌てて追い掛ける。
このままでは、陛下から叱責を受けるのは私だ。
先程ルッソが何やら彼を怒らせたようだと報告したのに、謝罪もなく見送ってしまったなんて。
「直ぐに発つのか?」
だが陛下へ声を掛けているカイトからは、ルッソに関する怒りなども見えない。
目の前にいなければ、もう良いって事なのだろうか?
ルッソは現在、辛うじて命をとりとめた位の重傷だが。
「その前に、我が国の騎士がすまない。理由はまだ知らぬが、無礼な振る舞いをしたのであろう?国王として謝罪する。」
(ああぁぁ……陛下に謝罪させてしまった……)
私が先に謝罪すべきだったのに。
「あー……今更騎士が腐っていたと知ったところで、俺には関係ないからな。お前が権力を行使して俺から奴隷を取り上げるってんなら国ごと潰してやるが、流石にそこまでの馬鹿をやるような愚王でもないだろう?もしそんな馬鹿だったら、今頃俺と全面戦争になっているだろうしな。」
「……っ、そ、そうか!」
やけに嬉しそうな顔をしているのは、僅かながらカイトに信用されているのに気付かれたからだろう。
……かなり最低限のようだが。
「今回は護衛任務だからな。この魔道具を着けろ。お前らは弱いから、普通に考えてこれだけで充分だ。魔獣や盗賊に襲われても、毒を盛られても、この一行の中でお前だけは生き残るだろう。」
陛下へ渡したのは、魔石らしき物が内包された筒型トップのネックレス。
「子供達に渡している物と同じものか?」
陛下の言葉通り、カイトの側にいる子供達も同じようなネックレスをしている。
高価な魔道具を与えるなんて、余程大切にしているのだろう。
「いいや、劣化版ってところか。改良前の物だからな。それはレベル70までの奴等の物理攻撃、魔法攻撃、スキル攻撃、状態異常攻撃を完全に弾くだけだ。」
「れ、劣化版……」
茫然としている陛下は可笑しくない。
そのような魔道具、聞いた事もない。
しかも、それよりも優れた物を子供達に渡しているだと?
それ以上に効果を付ける必要はあるか?
そして、それを作ったのがカイト……
彼に出来ない事はあるのか?
フォール支部のギルマスが言っていた“現人神”というのは、本当なのだろうか?
実際、そんなに何でも出来るのは神くらいだろう。
以前、陛下の持つ魔道具が意味を成さないと言っていたが、確かにそこまでの効能はない。
精々耐性と緩和位だろう。
……それでも国宝級の魔道具だが。
「この魔道具を買い取る事は出来るか?」
「あー……止めとけ。国の権力者が持つと、命の危険がない事で慢心するだろう?愚王に成り下がりたいならそれでも良いが。死後、子孫がその魔道具を巡って骨肉の争いをする可能性も高い。そうなったらこの国は終わりだろう。」
どうやら魔道具を売る気はないらしいが、カイトの言う事は一理ある。
必ずしも慢心するとは限らないが、人というのはそういう一面もあるからだ。
厳しく自分を律する人でなければ、悪用しかねないのもまた事実。
「毒無効の指輪なら譲っても良い。お前の立場上必要な、不安な相手との会食で毒殺される事はなくなる。」
何もないところから現れたのは、直径1.5cm位の薄紫色の石が付いた指輪。
純度の高い宝石にしか見えないが……これも魔道具なのか?
「毒無効……幾ら位だろうか?」
今までに幾度と毒を盛られた事のある陛下にとって、喉から手が出る程欲する物だろう。
オークションに出品でもすれば、かなりの高額価格がつくのは間違いない。
「そうだな……俺からすれば、腕を切り落とされると効果が切れるようなゴミ装備だからな。……500万Gで良いぞ。」
「買った!!今はそこまでの金を所持していないが、この会談が終われば直ぐに用意する。借用書を書くから少し待っていてくれ。」
「ああ。」
毒無効の魔道具が500万Gは、破格の値段だ。
嬉々として購入した陛下は、かなり運が良かったという事。
オークションなら、その値段の何倍……いや、何十倍になったか分からないだろう。
魔道具の存在を知れば、貴族達や他国の王達が欲しがりそうだな。
他にはどんな魔道具を所持しているのだろう?
──気になる。
「この魔道具もカイトが作ったのか?」
「そんなゴミ、わざわざ作るかよ。それはダンジョンで見つけた物だ。何処で見つけたか忘れたが、コアは破壊しなかったから、また出る可能性はあるだろう。」
「まさか、ダンジョンを踏破したのか!?コアを見つけたなら、何故ダンジョンコアを破壊しなかったのだ?」
「コアを破壊したら、ダンジョンが消える。ダンジョンでの稼ぎで生活している奴等の暮らしが一変するぞ?」
「っ!?そんな話、聞いた事がないぞ!それが本当なら、コアの破壊を禁じる法を徹底させなければ……!」
カイトと陛下との会話は、私にも驚愕を齎した。
現在地はギルドの中。
つまり、冒険者達も話を聞いている。
一気に騒がしくなったのは、常識が覆されたからだろう。
冒険者は、コアの破壊を目標にダンジョンへ挑んでいるのだろうから。
それというのも、コアを破壊すると一生遊んで暮らせる程の富が手に入ると言われているから。
それが偽りだったなんて……
一体誰が最初に言い出したのだろう?
そして、カイトは何故そんな事を知っているのだろう?
……もしかして、消したダンジョンでもあるのだろうか?
…………そんな予想、当たっている筈がないと笑い飛ばせないのは……彼なら遣りかねないと何処かで思っている証拠だろうか?
─騎士団長sideエンド─




