護衛任務の日
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ギルド職員が来たと報告を受け、門へと向かう。
でも、何やら騒がしい。
俺を呼びに来たのはマイク。
つまり、門にいるのはアレックスの筈。
ギルド職員が、前騎士団長へ喧嘩を売るような真似はしない筈。
一体何を騒いでいるのやら。
「何だ?騒がしいぞ。」
「御主人様!申し訳ありません。」
声をかけると慌てて俺へ跪くアレックス。
その後ろに見える男は、何度かギルドで見た事がある。
だが、その隣にいる鎧の男は見た事がない。
鑑定では騎士団所属となっているから、アレックスの元部下か?
凄い形相で俺を睨んでいるけど……コイツ、死にたいのか?
ギルド職員は、副ギルマスのクレマン。
カルロスがいない時、彼へ声をかけて欲しいと言われている。
だけど騎士の方は、そこまで若くないとはいえ、特に権限を持っている上層部ではなさそうだ。
この国は俺と敵対しないと言っていたのに、コイツの態度がそれを台無しにしている。
コイツはそれを理解しているのか?
「……アレックス様は腕を失ったから騎士団を辞めただけだ。奴隷として扱うなんてとんでもない事だと理解出来ないのか?腕が元通りになったなら、騎士団へ復帰して貰う事が望ましい事位、冒険者でも理解出来るだろう?」
我慢出来ずに口にしたようだけど……コイツは馬鹿か?
「この国の騎士は、個人の資産を奪うのが仕事なのか。知らなかったな。後で国王へ苦情を入れるとしよう。」
奴隷は金を払って買うものなのだから、個人の資産となる。
それを腕が元に戻ったからと、奴隷として売買された事がなくなる訳ではない。
腕にしたって、俺の奴隷になったからこそ治しただけで、そうじゃなかったら意識すらしていなかっただろう。
「奴隷として買った価格。コイツにやった武器や防具の値段。欠損を治した治癒代。総額はかなりのものになるぞ?……いったい誰が払うんだ?お前か?国か?俺は、俺の奴隷だからこそ家にいる皆に金をかけた。ここでコイツを俺から取り上げるつもりなら、覚悟しておけ。……まあ、コクミック王国という国がこの世界から消える事になるだけだがな。」
部位欠損を治したら元の職場に戻すという義務などない。
そんな事を言っていたら誰も治癒しないだろうし、俺はまた奴隷を買わないといけなくなる。
そもそも、奴隷の方が雇い主より優遇されるなんて可笑しい。
金を払ってまで治癒する物好きなどいないだろう。
奴隷として設けられた期間が終われば好きにすれば良いが、それまでは俺が解放するまで俺の奴隷。
それに、治癒して直ぐ解放するつもりなら、元々奴隷として買っていない。
「アレックス、どうする?自分を買い戻す気はあるか?……勿論、武器や防具は返して貰うけどな。」
この世界の奴等には、過剰過ぎる武具だし。
ミスリルはともかく、アダマンタイトやオリハルコンなど、騎士団長をしていた時ですら持った事はないと言っていた。
「私はとうに、陛下より賜った剣を返上しています。故に、私は既に騎士ではありません。御主人様の奴隷です。この腕を治して下さった時、私の残りの生涯、御主人様に尽くすと誓いました。私に再び剣を振るう喜びを与えて下さったのは御主人様です。私に生きる活力を与えて下さったのは御主人様です。私の御主人様への忠義が揺らぐ事など、この先微塵もありません!御主人様が私の最後の主君です。……なので、剣を取り上げるのは御容赦願いたく……」
俺から隠すようにソロ……と剣を移動させる。
……そんなにも取り上げられたくないようだ。
剣を与えた時、初めは信じられないって顔をしていたけど、俺が去った後、歓喜で叫んでいた声が聞こえてきた。
本当に欲しい玩具が与えられた子供みたいだった。
マイクもアレックスも、良い大人なのに。
その場で剣を振り回していたのだろう。
直後、マリーの怒声が聞こえてきたけど。
流石の二人も、主婦のおばさまには敵わないんだろうな。
アレックスなんて、マリーと同い年の筈なのに。
「アレックス本人はこう言っているが?」
そもそも、俺は解放するなんて一言も言っていないが。
「どうしてですか!?アレックス様は人望ある、優秀な団長でしたのに!アレックス様の帰還を心待ちにしている騎士は多いのですよ!?」
……コイツはやはり馬鹿だ。
現在の騎士団長を貶している事になると理解していないのか?
現在の騎士団長は人望がなく、優秀でもなく、団長という肩書きを持っている事に不満を持っていると言っている事になるのだから。
(こんなのが“騎士”か。)
レベルが低いってだけじゃない。
人間的に失望ものだ。
腐っているのはルードゥブルグだけじゃなかったようだな。
「現在の騎士団長はニコラスだろう?」
そうそう、確かそんな名前だった。
ゲームでの騎士団長の名前も、ニコラスだった筈。
でも、こんなに求心力の低い感じではなかった筈なんだけど……
ゲームでの騎士団長は真面目でお堅いというイメージしかないけど、実際の騎士団長もそんな感じだったな。
話し掛ける事はなかったから、憶測となるけど。
「……確かに元副団長は優秀ですが……それでもアレックス様には及びません。御本人もそう仰られていましたし。」
だからといって、ソイツも他人に言われたくはないだろうに。
俺だったらこんな部下、人手不足でもいらない。
アレックスも同様に思ったのだろう、不快そうな顔をしている。
「……そこまで俺を慕ってくれるのは嬉しいが、上司を悪し様に言う部下に信はおけない。お前は、騎士に向かない。お前が忠義を尽くす相手は、ニコラスや俺ではなく陛下だ。それが騎士というものだ。……どうせ俺に失望すれば言うのだろう?『剣の為に国への忠義を捨てた、陛下より慕う対象がいる裏切り者だ』と。」
冷たく言い放った。
辛辣だが、正にその通りだと思う。
盲目的に慕う奴は、相手に失望するとその反動が酷い場合がある。
「……っ、貴方には失望しました!この国への忠義を失っているだなんて……!こんな人を尊敬していた自分が情けないです!」
……コイツは本当にアレだな。
人を苛つかせる能力だけは高いようだ。
「シス、ソフィア、少し此処で待っていてくれるか?」
「うん。」
「?……ん。」
ソフィアはキョトンとしていたけど、一応は頷いてくれた。
抱き上げていた二人を下ろそうとしたけど、連れていく為に後ろにいたグラニの背へ乗せた。
「グラニ、二人を頼むな。ソドムも、一緒にいてくれるか?」
『ふむ。良かろう。』
『任せるが良い。』
快い返事も貰えた事だし、二人の事は聖獣達に任せておける。
ソドムとグラニより強い相手は、この場にはいないのだから。
先程からウザかった男へと近付く。
近付く俺へ向かって何か言っているが、聞く気はない。
鎧の出っ張りを掴み、遠視でギルドの位置を捕捉。
「『投擲』。飛んで行け。」
ギルドの前には騎士らしき奴等が沢山並んでいた。
そこへ向かって飛ばしただけ。
運が良ければ生きているだろう。
「さぁ、ゴミの始末は終わったし、そろそろ行くか。……いや、待てよ?…………アレックス、皆を呼べ。……って、全員見送りに来ているか。今回は帰宅がいつになるか分からないから二人を護衛として残すつもりだったが、全員連れていく。アレックス、マイク、ロデリック、喜べ。実戦だ。将来もう少し奴隷を増やしたら、ダンジョンにでも連れていくつもりだったんだけどな。もう感覚は戻っただろう?他の奴等は、他国の物を買うチャンスだぞ?この機会に色々学べ。」
元々他国にも連れていくつもりだった。
それが早まっただけ。
良いメイドは良い品を沢山見て、目を肥やさないとな。
俺の奴隷でなくなった後でも、メイドとして他の家に働きに出られる。
そうじゃなくても、目利きが出来るとぼったくられる事もなくなるのだから。
見送りに来ていた皆へ声をかけると、少し戸惑っていたが最終的に頷いた。
一番反対していたのはクレイグだったけど、行きたくないというより、花壇や畑が心配でって事だった。
世話をしなかったら枯れるからと、一人で残ると言っていたけど、俺が家へ時間停止をかけると言って説得した。
「『時間停止』。」
これで植えられた植物がどうにかなる事はない。
俺が魔法を解くまで、時間は進まないのだから。




