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テンプレはお腹いっぱい


街の中は何度もゲームプレイ中に見たけれど、やはり少し違う感じがする。


すれ違う人達が、ゲームの中のNPCだと思えない。


見た事のある人達もいるけど、ゲームとは違って先程の門番達のように、此方の言葉に対して的確に反応するんだから。


どうみても生きているとしか思えない。


ゲームの中に入ったんじゃなくて、ゲームの中と同じような世界に紛れ込んだんだろうか?


名称だけ同じの、別の世界?


このゲーム自体、闇の部分が多くある。


胸糞悪い表現も多く、一部のユーザーからは非難轟々だとも聞いていた。


俺だって、ゲーム中に何度“人”を殺したか分からない。


何度、目の前で助けられなかった命に遭遇したか。


盗賊や商人などのジョブを選んだ時、害悪の方にシフトする人達だっていたし、実際に騎士や商人を選んだ時、悪徳商人と戦うイベントだってあった。


……もしかしなくとも、人を手にかける場面が出てくるんだろうか?


魔獣を討った時は一瞬だったからか、特に何とも思わなかったけど、相手が人になった途端、躊躇や葛藤が生まれる筈。


殺らなければ殺される場面でも、俺は攻撃出来るんだろうか?


(……確か、そういうスキルってあったような……?)


賢者ジョブの時のスキルで、喜怒哀楽を抑える『冷静沈着』っていうのが。


ゲーム中は混乱や恐慌になりにくくしてくれるってだけの印象しかなかったものだけど、それがどこまで発揮されるかは……運次第だな。




(ギルドは……ゲーム通りの見た目だな。)


茶色のレンガ造りの、頑丈そうな建物。


扉の上に看板が出ているけど、何て書いてあるのか分からない。


──マップ上では“ギルド─フォール支部”と出ているけれど。


言葉は通じるし、書いてある文字は読めるけど……書くとなったらキビシイな。


「此処がギルドだ。」


「ありがとうございます。」


場所はゲーム通りだったから道案内は必要なかったけど、一応初めて来た街だからな。


関所にいた兵士の一人に、連れてきて貰った。


──因みに、入国審査をしていた人ではなく、何かあった時用に待機していた人だ。


バジリスク討伐完了の報告も兼ねているらしい。


ゲームでは基本、NPCの名前と職業が表示される。


強さやスキルなどを見たい時は鑑定スキルが必要だけど、NPCにも鑑定阻害スキルを持っている人がいる。


スキルレベルは5段階で、レベルが上の人の鑑定阻害を鑑定で破る事は出来ない。


つまり、鑑定阻害スキルのレベルⅣの人のステータスを、鑑定レベルⅢを持つ人が鑑定したところで見る事は出来ないって事だ。


俺は全てExtraなんだけど、今まで見た事がないんだよな。


ゲームをしていた時も取得出来た事なんてなかったし、攻略スレでも見た事がない。


それを言ったら“超越者”なんていうジョブ自体、知らないけど。




ギルドの中は、忙しなく動く人達で賑わっていた。


あまりの人の多さに思わず足を止めた俺とは違い、兵士は人の合間を縫って進んでいく。


ゲームの時は全く気にならなかったのに……都会出身ならこれ位の人混み、何とも思わないんだろうな。


ド田舎で育った俺には無理がある。


「シェリル、ギルマスを呼んでくれ!バジリスク討伐者を連れてきた。」


兵士が誰かに声を掛けた瞬間、ざわめきが消えた。


そんなに驚くようなレベルの魔獣ではないのに……


レベル30の魔獣なんて、頻繁に出ている筈なのに。


……それとも、この世界では違うんだろうか?


たまたまランクの低い冒険者達しかいなかった訳じゃなく……?


ここフォールはザザンの森が隣接している事から、屈強軍団ってイメージだったけど……


……そういや、一緒に来た兵士のレベルも低いし。


ゲームではフォールの兵士といえば、レベル40~50はあったぞ?


それなのにこの人のレベルは28。


弱過ぎだろう。


他の兵士達も似たり寄ったりだったし。


やはり全体的に弱いのか?




「俺がギルマスのカルロスだ。バジリスクをたった一人で討伐したってのはお前か?」


右眉の所に古い切り傷跡がある、厳つい男が人だかりの中から現れた。


その男の頭には、灰色っぽい獣耳がピクピク動いている。


ギルマスのカルロスっていえば、レベル83の、NPCの中で最強に位置する狼獣人の男だった筈。


それなのに、表示されているレベルは58。


確かに周りにいる他の奴等よりは強いけど、それにしたって低い。


……この世界でも、彼が人族最強なんだろうか?


「俺はカイトです。ギルド登録をしに来ました。ついでに討伐した魔獣の素材を売りに来たんですが。」


「……ついてこい。」


いつもゲームでつけていた名前を言おうかと一瞬思ったけれど、そういやステータスでは本名になっていた事を思い出し、カイトと名乗った。


言ってから気付いたけど、ステータス偽装スキルがあったんだった。


ゲーム中は使用する機会がなくて、正直ゴミスキルだと思っていたけど。


(レベル30のバジリスクを一人で討伐したんだから、最低でも40はなかったら可笑しいか……)


鑑定されたらレベル40で表記されるようにしておこう。


ジョブも“魔導剣士”にしておかないとな。


今のままだと俺は鑑定阻害で何も表示されない。


確かギルドには鑑定士が常在していた筈だから、鑑定阻害スキルレベルがⅣ以上の時、面倒臭いイベントが発生する。


実力を隠しているって事だから、監視されたり、勝負を挑まれたり……鬱陶しい事この上ない。


そんなもの、無視出来るのなら無視するに限る。




ギルドの中は、ゲームよりも人が多かった。


バジリスク討伐の為に召集されていたからだろうか?


厳つい人達が、ジロジロと無遠慮に俺を見てくる。


(あ、今鑑定されたな。)


そういう事まで分かるようになっているのか……


確かにゲームでは鑑定されればログが流れたけど、今はログを見なくとも感覚でそう思った。


害悪察知スキルもあるし、それでだろうか?


この世界の鑑定スキルは二種類あって、名前、性別、レベル、ジョブしか見れない“鑑定”と、ステータスや所持している武具まで鑑定できる“詳細鑑定”がある。


俺は両方所持しているから、全部見放題。


でも今された鑑定は、簡単なものしか見られない“鑑定”。


(鑑定士は詳細鑑定をする筈なのに……)


やはり所持スキルもランクが弱くなっているんだろうか?


周りにいる人達へ鑑定しても、スキルの数が少な過ぎる。


スキルには色々と種類があり、任意発動型のアクティブスキル、常時発動型のパッシブスキルでも分けられる。


その中で戦闘系、武技系、耐性、感知、隠蔽などなど、覚えきれない位、数えられない程の沢山のスキルがある。


自動で発動しなければ、持ち腐れになるスキルも沢山あるだろう。


自動的に適切なスキルが発動する状態だけど、俺の望むスキルを使おうとすれば、使う事も可能のようだ。


鑑定したのがバレないように鑑定してきた奴へゆっくりと視線を向けて詳細鑑定をすると、彼のステータスが目の前に現れた。


やはりメインジョブは鑑定士。


鑑定スキルのレベルはⅣ。


でも、詳細鑑定のスキルは持っていないようだ。


──“鑑定士”なのに。


ゲームでの鑑定士は、詳細鑑定スキルを所持している事が当然だった。


魔獣も人も、全部が弱くなっているのか?


……いやいや、強い奴が別にいるかもしれない。


慢心は危険なだけだ。


気を引き締めておかないとな。




「此処が窓口だ。依頼を受ける時も此処で受け付ける。」


「初めまして。私は受付を担当しているシェリルです。ギルド登録ですね?此方に記入を。その後此方の水晶へ魔力を流して下さい。……代筆は必要ですか?」


言われて紙を見てみる。


文字は日本語で書かれている訳じゃないのに、読める。


それは看板なんかと同じ。


……だけど書けるんだろうか?


ゲームではそんなの気にした事なんてないし。


この世界のペンは、羽ペンらしい。


それも、いちいちインクをつけて書く、面倒臭いタイプ。


インク内蔵型のペンは発明されていないのかな?


羽ペンを持ってみると、書きたい文字が頭に浮かぶ。


どうやら文字も書けるようだ。


「代筆は必要ないです。……ただ、この出身地は書かなくても良いですか?不明ですので。」


“日本”なんて書いたって、通じないだろうし。


「出身地が不明……?」


カルロスが怪訝そうな表情を浮かべた。


出身地不明って、こういう世界だから沢山いそうなものなのに……違うんだろうか?


「俺の保護者だった人は旅人で、道中に赤子だった俺を拾ったと聞かされていました。それが何処だったのか聞いた事がなく、別行動している時に彼は魔獣に食い殺されたので、俺を拾った場所を特定出来る人はいません。」


スラスラと嘘が口から出ていく。


商人ジョブの商談スキルのせいだろうか?


「……保護者の名前は?」


「知りません。ずっと“おじさん”と呼んでいたので……俺に名乗る事はなかったですし、町にいる期間も短く、誰かに呼ばれるのも聞かなかったので。……幼い頃は父だと思っていたんですけどね。ある日、俺とは血が繋がっていないと伝えられまして。」


簡単に嘘を吐ける自分にある種の感動をしながら、カルロス達の反応を見る。


やはり捨て子は皆無じゃないようで、二人共顔を顰めている。


目には同情を浮かべているし。


……もしかして、言い過ぎた?


「……そうか。辛い事を訊いたな。悪かった。」


「いいえ。立場上、訊かなくてはならないものだったのでしょう?気にしないで下さい。」


だって嘘だし。


罪悪感が…………


……あ、あれ?あまりない?


「でも、何故今までギルド登録をしていなかったんだ?」


「一箇所に長期滞在する事がなかったので、今までは必要ないと思っていたんです。でも毎回入国時にお金がいりますし、そろそろ身分証を持っている必要があるかと思って。もう20歳になりましたし。」


「そうか。」


どうやら疑問を持たれなかったようだ。


この話、覚えておかないとな。


──後で聞かれた時に、違う話をしないように。




記入を終わらせ、水晶に魔力を流す。


ここらはゲームと進行が同じ。


これで晴れて俺はギルドの一員になったって事だ。


「ギルドランクは、通常ならGから始まるのですが、バジリスク討伐をたった一人で行った方に対しては無意味でしょう。本来ならAランクから……と言いたいところですが、流石に異例過ぎて目をつけられるでしょうから、Cランクにしておきました。カイト様なら、すぐにAランク……いえ、もっと上のランクになれるでしょうけど。」


渡されたのは銅色のカード。


そこには名前やジョブ、ランクが焼き印を押したような感じで書かれていた。


「カードの不正を行った者は、ギルド員の資格剥奪の上、どの国でも再登録は不可になります。それに不正の悪質さに伴う罰金が課せられます。即金での罰金支払いが出来ない者は、その時点で奴隷落ちとなります。カード不正は絶対に行わないで下さい。」


「分かりました。」


これだけ念をおされるって事は、カード不正をする人が多いって事だな。


注意しよう。


「カイト様はCランクなので、半年間は依頼を受けずにいられます。半年以上依頼を受けなかった場合、ギルド員抹消になりますので注意して下さい。その際の再登録では、ランクに応じた登録料を頂く事になります。冒険者ギルドと併用して他のギルドへ登録も可能です。何か疑問などありましたら、いつでも尋ねて下さい。出来る限りお手伝い致します。」


「ありがとうございます。」


こういった決まりはゲームと一緒だな。


何ヵ月もダンジョンに潜っていた時、再登録する時の登録料に泣いた記憶がある。


「カイト様は共闘不可との事ですが、ギルドからの緊急依頼の場合は拒否が不可能ですので、それだけご了承下さい。」


「分かりました。」


やっぱり緊急依頼はあるのか……面倒だな。


ゲームだと嫌なタイミングで緊急依頼が入ったから、余計にそう思うんだろう。




因みに、買い取り場でバジリスクを一体丸ごと出したら、凄く怒られた。


買い取り場の棚から溢れてたからだろう。


血抜きもしていなかったから、血液臭が充満していたし。


イベントリにいれておけば勝手に素材になってくれるけど、マジックバッグはそのまま入るだけなんだよな。


大きな魔獣は、買い取り場ではなく、ギルドの外での買い取りになるらしい。


……知らないし。


バジリスクを討伐したのを知っていたんだから、そっちへ案内してくれれば良かったのに。


……そう言ったら、普通は一体丸ごとなんて持ってこないらしい。


“持って来れない”と言った方が正しいか。


マジックバッグは容量が増えると、価値も跳ね上がるから、買えない人が多いんだとか。


しかも、バジリスクが丸々入るマジックバッグを持っている人はいないだろうとも言っていた。


……まあ、課金で手に入れた物だから、この世界には元々なかった物なのかもしれないけど。


ゲーム中に手にいれた事があるのは、マジックバッグでも小や中くらいだったし。


保護者から譲り受けた物だと説明したけど……イベントリだけでなくマジックバッグから出す時にも気をつけないといけなさそうだ。


──ゲームと違って面倒だな。

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