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帰りましょう

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励みになります。


(もうこの国に用はないな。)


詰所から出ながら、そんな事を思う。


腐った自警団は潰してしまえば良い。


他はどうでもいいな。


買い物しようにも、コクミック王国とあまり変わらない品揃えだったし、特に必要じゃない。


たぶんあの食堂以外、この国に来る目的は出来ないだろう。


護ってやりたいと思う相手もいないし、もしスタンピードが起きたとしても、手を貸そうとは思わない。


……まあそれは、どの国にも言える事だけど。


この間は早く帰りたかったから、一気に終わらせただけ。


フォールには家もあるし。


そうでなければ、後方から魔法を放っていただけだろうと思う。


俺一人なら、実力を隠して暮らしていた可能性が高い。


俺が実力を隠さなくなった一番の理由は、ソフィアへの暴言や暴行をなくす為。


“俺”という保護者が後ろにいるんだぞと知らしめる為。


お陰で初めの頃より、そういう輩は減っている。


……ソフィアはまだ、俺から離れるのは怖いみたいだけど。




「出でよ!スレイプニル!」


──召喚場所?


自警団の詰所に決まっている。


建物の中に魔法陣が現れているだろうけど、外からは見えない。


『我の背に乗れば良いではないか。』


「防壁をかけても、二人が気絶するかも知れないからな。」


ソドムの背に乗った方が早く家に着くだろう事は、分かりきっているけど。


ただ、上空で三人を支える事が難しいかも知れないし、余裕を持って行動したい。


馬車や馬を買っても良いけど、時間がかかるものだし、第一この世界の馬車は乗り心地が悪い。


俺の持つ課金で手にいれた馬車なら、ある程度はマシになるだろう。


馬は現場調達しなきゃいけないけど、人のレベルが格段に低いこの世界、動物も弱そうだ。


だからこそ、召喚に頼る。


俺の召喚獣達は皆、高レベルだし。


『グォオオオオ……!』


詰所を破壊しながら現れた、八脚馬。


灰色の体毛を持つ、一般的にこの世界で軍馬と呼ばれているものよりも何倍も大きな躯。


八本脚というと、一番に思い浮かぶのが蜘蛛だけど、スレイプニルは体の造り自体違うし、よくもまあこんな巨体をスムーズに動かせるものだ。


『儂を誰だと思っておる!?人族風情に喚ばれるなど、あってはならぬ。背に乗せる相手は、生涯にただ一人!!儂が認めた相手のみ!!』


八本脚で器用に俺へと顔を向けてくる。


何というか……喋り方が頑固爺って感じだな。




「いや、今は乗るつもりはないな。馬車を引いて欲しくて喚んだんだ。」


『なっ!?この儂に箱を引けと言うのか!?……ん?お主、人族ではないな。何者──いや、お主に従うとしよう。』


召喚獣から、俺はどんな風に見えているんだろう?


やはり、“見た目が人族”ってだけで、他のジョブの神や天使、魔王なども見えるんだろうか?


ソドムも途中で態度が変わったし。


「名前はグラニ。これからよろしくな。俺はカイトだ。」


相手が納得し、名付けをすると、契約を交わした事となる。


グラニのレベルは272。


ソドムと同じように体の大きさを変えられる。


体の大きさが変わっても、力強いのは変わらない。


でも小さくなるに従って、脚の数が減るんだよな。


通常の馬と変わらない大きさにまで小さくなると、脚は四本にまで減る。


だからそれ位の大きさになると、他の馬と変わらなくなる。


ゲームではそれ以上に小さくなる意味がないから頼んだ事はないけど、この世界では頼むかも知れない。


全壊した詰所から、体を震わせながら歩いてくるグラニ。


砂埃にまみれたんだから仕方ない。


詰所を囲うように防壁を張ったから、周りへの瓦礫被害はない。




俺の周りにも防壁を張っていたから、此方に被害は皆無。


グラニから発されている強者覇気は、スキルではなく自前のもの。


これはソドムも同じで、抑える事も可能。


防壁のお陰で覇気による死者は出ないだろうけど、その姿を見た者や強者を視認した通行人などは、腰を抜かしたり気絶している人もいるようだ。


だけど俺には関係ない。


「じゃあ帰るか。グラニ、少し縮んで此方に来てくれ。馬車と繋ぐ。……シュバルツさん、お世話になりました。シスとニアは俺が引き取ります。その為の署名が必要なら、後日、フォール支部のギルドまで書類を送って下さい。そこへは頻繁に顔を出すと思うので。」


詰所跡を茫然と眺めているシュバルツへ声をかけ、返事を聞く事なく俺達は馬車へと乗り込む。


俺が御者席に座ろうと思ったけど、ソフィアとシスが離れようとしなかったというのもあるし、御者としても勉強したというニアに任せる事にした。


「じゃあ、帰るか。グラニ、頼んだぞ。」


『任せておけ。』


通常なら二頭~四頭で引く馬車だけど、流石はグラニ。


快適な速度で進んでいく。


揺れは流石に皆無とは言えないけど、それでもマシな方だろう。


ソフィアもシスも、気分が悪くなる事もなく、スムーズにコクミック王国へと着いた。


ニアに証書を渡し、門番に見せると直ぐ様通してくれたし、待ち時間がなくて良かった。




「まずは家に帰るか。それとも、何処かで食事にするか?」


マジックバッグに食材が入っているから、帰ってから作っても良い。


でも丁度飯時だから、食べに行くのも良いだろう。


「お腹空いたか?」


シスの頭を撫でながら訊くと、戸惑いながらも頷いた。


シスやニアの全身にあった殴打痕などは、既に完全に治してある。


何日も風呂へ入れて貰えなかったようだけど、俺が清浄した為に臭いもない。


砂まみれになったグラニにも清浄をかけた。


馬車を引いて貰う為に喚んだのに、詰所破壊をついでにして貰ったからな。


あそこにいた何人が死んで、何人が怪我を負っていようが、俺には興味がない。


牢がある場所は違う場所だから、巻き込まれた他人はいないだろうし。


「グラニの従魔登録もしなきゃいけないし、ギルドへ行くか。」


酒場兼食堂が併設されているから、ついでに食事も摂れる。


でもそうなると、馬車を引くグラニをどうにかしないと。


「グラニ、今のソドム位に小さくなれるか?」


『お安い御用だ。』


馬車をイベントリに仕舞い、グラニに小さくなって貰った。


右腕でソフィアを抱き上げ、左手でシスの頭を撫でたり手を繋ぐ俺に、肩に乗るのは邪魔だろうと遠慮したのか、馬車の中でも頭の上にいたソドム。


魔法で自身にかかる重力を操作しているのか、殆ど重さを感じない。




ギルドの中へ入ると、またも一瞬で静まり返る。


受付の一人が、慌てた様子で奥へ向かうのは、カルロスを呼ぶ為か?


従魔登録と食事に来ただけだから、カルロスを呼ぶ必要はないんだけどな。


直ぐに二階から下りてきたカルロス。


受付に並ぶ他の冒険者達とは違い、待ち時間がないから特別扱いを止めろとは言わないけど。


「隣国へ向かうと言っていたが、もう帰って来たんだな。まだ二日しか経っていないが……馬車でもなく徒歩で門を越えたと報告を受けたが……以前、走った方が早いと言っていたのは本当だったんだな。」


駆け寄ってきたカルロスが怖かったのか、手を繋いだまま俺の後ろへ隠れようとするシス。


魔道具を着けているんだから、怖がる必要はないんだけど……気持ちの問題なんだろうな。


ソフィアも初めは怖がっていたし。


「行きは俺がソフィアを抱き上げて走って行きましたが、帰りは人数が増えた為、新たに従魔契約をしたグラニに馬車を引いて貰ったんで。ルードゥブルグから奴隷を引き取る為の書類を送ってくるそうなので、来たら呼んで下さい。」


ニアを俺が引き取るって決めたんだから、諸々の雑務は受け入れる。


ニアがした借金を全額立て替えても良いし。


「それと、グラニの従魔登録をお願いします。グラニはスレイプニルです。……“八脚馬”と言った方が分かりますか?」


「……こ、古代竜に続いて、八脚馬まで……カイトは聖獣使いなのか?」


“聖獣使い”……


そんなジョブ、聞いた事がない。


「聖獣使いではありませんよ。ただ、聖獣を喚べば事足りるというだけで。」


俺が持っているのは召喚士のスキル。


竜使いや獣使いのスキルもあるけど、これは上位な存在には使えない。


つまり、ソドム達を召喚出来るのは、召喚士だけ。


それも60までレベルをあげて、上級召喚士にならないと喚べない存在。


「どれだけの聖獣を召喚出来るんだ?」


「“凡そ、聖獣と呼ばれている者は、全て”とだけ言っておきます。」


ゲームとは違う事も多いこの世界で、誰が聖獣扱いされているのか分からないし。


……ソドムが聖獣扱いされているし、それはゲームと変わらなさそうだけど。




「本当に、カイトは何者だ?……いや、すまない。詮索するなんて、ギルマスにあるまじき行為だった。……また新たに珍しい種族の子供を引き取ったんだな。」


この世界に、召喚士はいないんだろうか?


でも、カルロスの気持ちも分かる。


得体の知れない強者なんて、恐怖でしかないのだから。


でも、自分でもコレといって限定出来る訳じゃない。


“超越者”が何なのか、有り得ないステータスも、所持スキルが全ジョブのものでExtraばかりというのも、俺自身、何故なのか分かっていない。


ゲームの設定よりかなりレベルダウンしているこの世界では、廃れたスキルも数多くありそうだ。


でも、登場人物はゲームの時と変わらない……


“ゲームの世界”だと断定してしまえれば、まだマシだったのかも知れない。


……色々考えたところで、今のところ帰れる要素はないんだけど。


「シスは狐人族の間に生まれた先祖返りです。それなのに、白狐族としての能力を欲する者に囚われていたので保護しました。まだ保護したばかりなので、他人を怖がりますから、無遠慮に近付かないようお願いします。」


「狐人族の間に生まれた白狐族は、能力が使えないと言われているのにな。……辛い目にあったな。カイトは保護した子供には優しいから、存分に甘えろよ?」


「…………」


カルロスは、先祖返りした白狐族の事を知っているみたいだな。


白色の狐人族でしかないと思っているんだろうけど、それは少し違う。


……いや、殆ど真実だけど、ある条件を満たせば、シスは白狐族としての能力を発揮する事が出来る。


でもそんな力があると分かったら、余計狙われてしまう。


……シスに能力の覚醒を促すのは、止めておいた方が良さそうだな。


先見なんかなくったって、どうとでも出来る。




カルロスが近付いた事で、シスは俺の後ろへと隠れ、一言も話さなくなった。


因みに、シスとニアの怪我は、馬車で移動中に治癒した為、二人共傷痕一つない。


服は移動中に簡単な物を与えただけだから、帰ってから本格的に作ろうと思っている。


買った方が早いかも知れないけど、ソフィアの時に販売拒否した店なんかで買いたくないし。


……ついでに保護しただけのニアの服は買っても良いけど、俺はそんな店に行きたくないから、ニア自身に買ってきて貰わなければいけなくなる。


奴隷を一人でウロウロさせるのは可笑しい事じゃないけど、まだこの国に来たばかりのニアには重荷だろう。


まだ正式に俺の奴隷になった訳でもないし、拐われないとは言えない。


契約がまだだから、一応奴隷の首輪はしているものの、主がいない状態。


それを傍目から見て分かる奴はいないだろうけど、用心しておくに越したことはない。


「これから食事をするので、その間に従魔登録をして下さい。それじゃ。」


カルロスにギルドカードを預け、俺達は食堂へ。


痩せ細っている二人に、まだまだ食が細いソフィアの三人は、見た感じお腹が空いている様子はないけど、毎日三食きっちり食べさせないと。


いずれ沢山食べられるようになるだろう。


本調子になるまで年月がかかっても構わないし、それはゆっくりやるつもり。


無理をさせたって、何も良い事はない。


「シス……ニアも、今日は体調を考えて、消化の良い物を食べようか。ソフィアは何が食べたい?好きなのを選んで。」


「ソフィア、おにく。」


「じゃあ、ソフィアの好きなバード肉にしようか?」


「ん!」


ソフィアの好みは分かってきている。


自分の意思を口に出来るようにもなってきているし、それなのに我儘になっていないのも可愛さ上乗せ。


俺へのベッタリ具合が少し問題あるかも知れないけど、ソフィアは五才だし、今は特に気にする事はないだろう。


シスも俺の顔色を伺うような事にはならないと良いんだけど。

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